現役社労士が明かす「ブラック企業」を求人票で見分ける2つのポイントとは
LIMO / 2022年4月27日 11時10分
現役社労士が明かす「ブラック企業」を求人票で見分ける2つのポイントとは
4月は新たな会社に入社する人が多いシーズンです。
ですが入社したのはいいものの、入社前のイメージと異なり、すぐに転職活動をはじめる人が多いのもこの季節です。
ここでは、転職してふたたび「イメージと違う」とならないために、拙著『リスクゼロでかしこく得する 地味なお金の増やし方』(クロスメディア・パブリッシング)でも紹介した「ブラック企業を見分けるポイント」をお伝えします。
1. 「仕事がきつい=ブラック企業」ではない?
就職活動や転職活動をする際、応募する企業がいわゆる「ブラック」かどうかが気になるのではないでしょうか。
中途採用をする企業は中小企業が多いので、そういった企業の評判はネットで検索してもなかなかヒットしません。
バーベキューなどのレクリエーションを謳っている会社は、ブラック企業だといった都市伝説もあります。
給料などの待遇面に関しては同業他社に劣るため、社員同士の仲がよいアットホームな環境をアピールするしかない会社だという仮定に基づいています。
最近では、事務系の仕事なのにリモート勤務を認めない企業がブラックだという意見もあります。
様々な意見があるなかで、ブラック企業はどのように見分ければよいのでしょう。
そもそも「ブラック」の定義はなかなか難しいものです。
個人的には、社長のみが高い報酬をもらい、従業員に労働分の賃金や利益を還元しない企業が該当すると考えています。
また、長期にわたって勤務しても、他社に転職できるキャリアやスキルが身につかない企業もそうでしょう。
営業といっても個人相手にひたすらテレアポを繰り返したり、SEと言いつつ客先に常駐して単純作業を繰り返したりするような仕事です。
一方で、仕事がきつくても報酬やスキルアップといったリターンがある企業は、ブラックとは呼べないと考えています。
2. ブラック企業は「求人広告」で判断できる
ブラック企業かどうかを求人票や求人広告で見分ける方法があります。
それは「固定残業代」と「退職金制度」の有無です。
固定残業代制度を導入し、退職金制度がないという2つの項目が当てはまる会社は、ブラックである可能性が高いです。
なぜなら、固定残業代制度を導入して退職金制度を作らなければ、人件費を抑制できるからです。
固定残業代制度とは、月額30時間相当分など、一定時間分の残業代を給料にあらかじめ含ませておく制度です。
一定の残業代を支払う「みなし残業制度」とも呼ばれます。
求人票や求人広告には下記のように記載されます。
「基本給:211,750円(固定残業代を含む)」
基本給が21万円以上あるのでよさそうに見えますが、内訳は「基本給168,000円(所定労働時間168時間)+残業代43,750円(1,250円×35時間)」という結果なのです。
時給に換算すると約1,000円となり、最低賃金ギリギリです。
都道府県によっては下回っているケースもあります。
固定残業代制度を導入しても、定めた時間以上の労働に対して残業代を払っていれば、違法ではありません。
問題なのは、定めた時間以上働いても残業代が支払わない会社が多いことです。
終業のタイムカードを打刻させた後も働かせるなど、申請できなかったり、申請しても認めてくれなかったりする会社もあります。
3. 「固定残業代制度」の問題点とは
基本給に固定残業代を含める求人票は禁止されており、ハローワークでも受け付けられません。
労働基準法では違法とされており、労働基準監督署も次のようなパンフレット作成して厳しく取り締まっているのですが、なかなか撲滅されていないのが実情です。
【固定残業代 を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします】
(抜粋)
固定残業代制を採用する場合は、募集要項や求人票などに、次の①~③の内容すべてを明示してください。
① 固定残業代を除いた基本給の額
② 固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法
③ 固定残業時間を超える時間外労働、 休日労働および深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨
それだけ、人件費を固定で抑えられる制度に魅力を感じる経営者がいるのでしょう。
なお、固定残業代制度について次のようなメリットがあると主張する人もいます。
毎月の残業計算が楽になる
残業しない月でも定額の残業代がもらえるので労働者に有利な面もある
もっともな意見のようにも思われますが、少し無理があるようにも思われます。
昨今では、勤怠管理ソフトを導入する企業も増えており、社員の勤務時間の管理や計算も容易にできるようになっています。
また働き方改革で、残業をできるだけなくす方向で動いている中、一定の残業時間をあらかじめ組み込んでいるのは、時代の流れと逆行する動きとなります。
私の経験上、大量の離職者がいる、労使間でトラブルが発生したという企業は、固定残業代制度を導入していました。
4. 「退職金制度」から経営者の思いが伝わる
退職金制度は長期勤続者ほど支給率が上がるため、従業員の長期勤続を促進するために設けている会社が多いと思われます。
退職金制度を維持するためには、退職引当金といって毎月、定額のお金を将来に備えて積み立てなければなりません。
利益が少なければ、退職金を維持するために社長の報酬を下げなくてはいけないこともあります。
大企業はともかく、中小企業が維持するのは大変な努力が必要です。
それでも退職金制度を設けているのは、社員の福利厚生のためという考えがありますが、社員にできるだけ長く働いてもらうことが取引先にもメリットがあるという経営者の考えが、根底にあると思われます。
社員の入れ替かわりが激しい企業は、十分に引き継ぎがされないなどの理由により、取引先も困惑してしまいます。
社員の離職率などを気にしない経営者は、自社だけが一時的に儲かれば、あとは取引先が困っても知ったことではないと考えるかもしれません。
自分の身銭を削ってでも退職金を維持しようとする経営者には、長期的に顧客との良好な関係を築きたいという経営方針があるのです。
経営者がそんな思いを持っている会社は、ブラックとは呼べないでしょう。
参考資料
厚生労働省 長時間労働削減に向けた取組(https://www.mhlw.go.jp/kinkyu/151106.html)
厚生労働省 労働基準監督署 東京労働局(https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/kantoku.html)
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