【人生100年時代】いかに健康寿命と資産寿命を延ばすか~日本の引退年齢は高い~
LIMO / 2022年6月1日 19時35分
【人生100年時代】いかに健康寿命と資産寿命を延ばすか~日本の引退年齢は高い~
高齢者の就労意欲も解説
日本の平均寿命は、世界でも最高水準にあります。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、今年65歳の人の4人に1人が、95歳まで生きるとされており 、まさに「人生100年時代」を迎えようとしています。
1.人生100年時代の到来
高齢化は、現在、多くの国が直面している課題です。
特に、日本は、諸外国と比べて、高齢化のスピードが速いことと、75歳以上のより高齢な人口が増加することが特徴。長生きすることは喜ばしいことですが、今なお平均寿命が延び続けていることから、「資産寿命」すなわち、資金面で制約なく生活できる期間の延伸も達成すべき課題となっています。
年金受給人口の増加にともない多くの国が年金改革を進めており、引退年齢と年金支給開始年齢の引き上げや、公的年金給付を補完する私的年金等の奨励を行っています。
2.高齢者の就労意欲は高い
内閣府の「高齢者の経済生活に関する調査結果(令和元年度)」によると、65歳以上の3割が収入のある仕事をしています。
また、65歳以上の2割は「働けるうちはいつまでも」収入を伴う仕事をしたいと回答しており、高齢者の就労意欲は旺盛です。
仕事を続ける理由は何と言っても「収入がほしいから」が4割と高くなっています。経済停滞の中、就労者の収入が伸び悩むとともに、少子高齢化による人手不足を背景として、多くの高齢者が、いまだ現役で働き、社会で活躍し続けていることがわかります。
定年年齢の変遷を振り返ると、ほとんどの会社員が1970年代は55歳、1986年以降は60歳で定年を迎えてきました。しかし、年金制度改正による支給開始年齢の引き上げにともない、高年齢者雇用安定法が改正され、企業には65歳までの安定した雇用の確保、さらには70歳までの就業機会の確保が求められるようになります。
その結果、高齢者の就業率は高まり、現在就労者のおよそ14%が65歳以上となりました。
ただし、主な収入源は、64歳以下の世帯では「仕事による収入」が最も高いのに対し、65歳以上の世帯では「公的な年金」が最も高く、65歳以降は少しずつ年金生活に入っていくことがわかります。
3.日本の引退年齢は高い
OECDによる“Pensions at a Glance”では、加盟国それぞれについて、平均実効引退年齢 と年金の法定支給開始年齢 、標準的な 労働者の年金の所得代替率を示している。ここではそのうちいくつかの国について下記の図表1,2に示します。
平均実効引退年齢:40歳以上の労働者が5年間に非労働力化した平均的な年齢。
所得代替率:税・社会保険料控除後の純所得代替率。
法定支給開始年齢はOECD平均で64.2歳と、いずれも65歳前後となっており、日本と大きな差はありません。
しかし、平均実効引退年齢をみると、日本は男性68.2歳[女性66.7歳]と、OECD平均を5歳程度上回り、高齢まで働いてい
ることがわかります。引退年齢と年金支給開始年齢の関係をみると、欧州では、引退年齢は年金支給開始年齢よりも低く、年金支給開始前に引退する傾向があります。一方で、日本や韓国は年金支給開始年齢よりも高く、年金が支給されるような年になっても働き続ける傾向が読み取れます 。
国によって定年の考え方や年金政策、財源等が異なるので、ここでは各国の年齢の比較にとどめますが、欧州は年金(強制加入+任意加入)による所得代替率が高いといえます。それに対し、日本は年金の強制加入年金による所得代替率が低いことから、年金支給開始後も就労収入に頼るしかなく、引退年齢が押し上げられていると考えられます。
4.働ける期間はどのぐらい残っている?
冒頭に紹介したとおり、「働けるうちはいつまでも」働くことを考える人も多いですが、働ける期間はどのぐらい残っていて、引退後の余生はどのぐらいあるのでしょうか。
2019年の日本の平均寿命は男性81.41歳[女性87.45歳]でした。しかし、65歳の人が、今後生きる平均的な期間(平均余命)は、男性19.83年[女性24.63年]で、「平均寿命-年齢」より長い。
これは、平均寿命(=0歳の平均余命)が65歳未満で亡くなった人を含んだ平均であるのに対し、65歳の平均余命は65歳まで生きた人のみの平均だからです。
つまり、老後の資産設計をする場合、自分の寿命を「平均寿命‐年齢」で見積もると不足する可能性があります。
また、厚生労働省では、健康上の問題で日常生活(仕事や身の周りのことなど)が制限されることなく生活できる期間として、「健康寿命」を公表しています。
2019年の「健康寿命(=0歳の健康余命)」は、男性72.68年[女性75.38年]でした。一方、65歳の人の平均健康余命は、やはり「健康寿命-年齢」より長く、男性14.43年[女性16.71年]です 。この期間が働ける期間の目安と考えると、男性で平均3年、女性で平均2年ほど働いている計算となります。
5.資産寿命の延伸
65歳の余命も、健康余命も延伸し続けています(図表3)。国では、2040年までに、健康寿命を2016年から+3年以上延伸することを目標としており、この目標に向けて、糖尿病等の生活習慣病の重症化予防、認知症の様態に応じたサポート体制の充実など、幅広い分野での取り組みが推進されています。
しかし、日本は引退年齢が諸外国と比べて高いことから、引退年齢を引き上げるための余力が少ない可能性があります。寿命は今なお延伸しており、健康改善とあわせて、若いころから「資産寿命」の延伸に関心をもつことが必要となるでしょう。
参考資料
国立社会保障・人口問題研究所「将来人口推計・出生中位・死亡中位(平成29年推計)」(https://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2017/pp_zenkoku2017.asp)
OECD「Pension at a Glance 2021」(https://www.oecd.org/publications/oecd-pensions-at-a-glance-19991363.htm)
厚生労働省「諸外国の年金制度の動向について」(2018年7月30日)(https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000339624.pdf)
村松容子「2019年における65歳時点での“健康余命”は延伸~余命との差は短縮傾向」(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=66966?site=nli)
清水勘「どの国よりも健康でありたい日本~引退年齢と健康寿命の国際比較~」(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=63053?site=nli)
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