経済学を学ぶ意義は論理的思考の訓練。経済学の本当のメリット2つを元大学教授が考察
LIMO / 2022年6月19日 6時15分
経済学を学ぶ意義は論理的思考の訓練。経済学の本当のメリット2つを元大学教授が考察
経済学は未完の学問なので、現在の経済学で経済を理解するのは無理がありますが、経済学を学ぶと論理的に考える訓練になるので、学ぶ価値はあるでしょう(経済評論家、元大学教授 塚崎公義)。
経済学は未完の学問
経済学は、様々な極端な仮定を置いて、何が起きるかを考えよう、という学問です。たとえば人間はすべての情報を知っていて必ず合理的に行動し、取引コストがかからないとすれば何が起きるのか、といった具合です。
有名なのは、一物一価の法則でしょう。世界中の店のリンゴやミカンの値段は同じである、というものです。他の店より高い値段をつけた店は客が全く来ないので値下げをせざるを得ないから、という事のようです。これだけ見ても、経済学が未完で、現実を説明できるレベルに達していない事がよくわかりますね。
ひとたび「人間は衝動買いをする事がある」という条件を加えようとすると、どういう場合にどのような衝動買いをするのか、といった事を細かく定義しなければならず、とても複雑になってしまうので、現在の経済学では扱えていないのです。
高校でニュートンの法則を習いました。「引力と空気抵抗がなければ、投げたボールは真っ直ぐ飛んでいく」というものです。もちろん、これは初級物理学であって、実際には上級物理学を使って宇宙ロケットを飛ばしたりしているわけですね。
人間の世界では「完全な情報を得ることは難しい」「取引コストが存在する」「人間はまちがえる」「人間の心理が経済活動に影響する」といった事が経済現象を複雑にしているわけですが、物理の世界にはそういう事がありませんから、物理学は簡単に上級レベルまで進化したわけです。物理学者が羨ましいです(笑)。
経済学は、今はニュートンより少し進んだ程度のレベルでしょうが、あと100年もすれば、心理学との共同研究などが進んで、経済が理解できる学問になっていると期待しています。
経済学を学ぶことは論理的に考える訓練になる
筆者は大学で経済学を教えていましたし、経済学の教科書も書いています。それは、経済学を学ぶことが論理的に考える訓練になると考えているからです。
経済学は精緻な理論で組み立てられています。そのために無理な前提を置いているのですから、当然と言えば当然ですが。つまり、経済学を理解するためには、物事を論理的に考える必要があるのです。その点は、数学の公式と似ていると言えるでしょう。
大学で教えている他の教科も、経済学ほどではありませんが、論理的に考える訓練になりますから、他の学部を卒業した人も、大学で学んだ経験は決して無駄にはなっていないと思います。
もっとも、経済学部を卒業していても真面目に勉強していなかった人は、この限りではありません。それと、経済学は難解だから理解できなかったが、単位をとるために教科書を暗記した、という人も、この限りではありません。
問題は、大学の教員が経済学を教える時に、論理的な思考訓練をやっているのか結論だけを伝えているのか、という事です。あるいは、教員は思考訓練をやっているつもりでも、学生のレベルと比べて難解すぎて、結局学生は結論だけを丸暗記して期末試験に臨んでいる、という場合もありそうですが。
経済学者の言っている事が理解できるようになる
経済学者が経済政策について語る時、自信満々に語る人も多いので、「偉い先生が言っている事だから、この経済政策は正しいに違いない」と思っている人も多いようですが、そこをしっかり見極めるためには、情報の受け手が経済学の基本的な考え方を知っている必要があります。
経済学を学んだ経験があれば、その政策が導かれた時の経済学者の思考回路が理解でき、その政策が推進すべきものか否かを判断する事が出来るようになるでしょう。
一例をあげると、主流派の経済学者は失業を気にしません。筆者が若手銀行員として景気の予想に従事していた頃、高明な経済学者と雑談をする機会に恵まれました。「円高で失業が増えて大変ですね」と申し上げた所、「円高で輸出企業の社員が失業しても、気にする事はない。彼らは輸出企業以外の職場で働けば良いのだから」と言われたのです。
精緻な経済学理論としては、「失業した人はいつまでも無収入であるよりも、安い賃金でも働けるところで働くはずだ。だから失業者は特に対策をとらなくても時間とともに減っていく」ということになるらしいのです。それを知っていた筆者は、彼がそう発言した理由は理解できましたし、彼が現実を見つめていないという事も理解できたのでした。
本稿は、以上です。なお、本稿は拙著「大学の常識は、世間の非常識」の内容の一部をご紹介したものであり、内容はすべて筆者の個人的な見解です。筆者が大学で感じた違和感が綴ってありますが、海外旅行の旅行記のように、「違いの説明」であって、批判ではありません。
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