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学力格差は幼児期から始まるのか。語彙力獲得が与える意外な影響をグラフで考察

LIMO / 2022年9月1日 17時50分

学力格差は幼児期から始まるのか。語彙力獲得が与える意外な影響をグラフで考察

学力格差は幼児期から始まるのか。語彙力獲得が与える意外な影響をグラフで考察

夏休みが明け、新学期に登園・登校すると、久しぶりに会うお友達の成長に気づく機会があるかもしれません。

昨今、学力格差イコール経済力の差という考えが浸透しています。たしかに習い事をさせるには「お金」が必要です。そして子どもの学力差は小学校入学後、学年が上がるにつれて顕著になってきます。

中学受験やさらなる学習機会の確保のため、通塾や通信教材の利用の有無という「学校外教育」を私費で補う家庭と経済的な理由から難しい家庭の間で、学力差が拡大していると考えられているからです。

しかし、「読み書きそろばん」といった学力よりも早い幼児期から差が出やすく、さらに研究結果から親の所得で違いがみられる「語彙」の問題を見過ごすことはできません。

とはいえ、語彙力を鍛えるには直接的にお金が関わってくることはないため、家庭で意識をしていくことで語彙力を増やすことができます。

「子どもの学力格差」所得以上に大切な親の関り方

日本でも欧米のように教育研究でデータを用いて分析する手法が浸透し、客観的な視点で様々な問題を提議できるようになっています。

2018年に「江戸川大学こどもコミュニケーション研究紀要」で発表された「学力格差は幼児期から始まるか?~保育と子育ては子どもの貧困を超える鍵になる~」では、日本だけではなく、韓国、中国、ベトナム、モンゴルそれぞれの大都市圏に住んでいる3歳から5歳の幼児3000名と親や保護者を対象にした短期縦断調査結果(お茶の水女子大学・梨花女子大学・華東師範大学・ベネッセ次世代育成研究所の共同研究として実施された調査)を踏まえ、読み書き能力と語彙力は所得によって違いが生じるのか考察しています。

結論から申し上げますと、読み書き能力は日本と韓国、中国においては家庭での所得差の影響はほとんどみられないものの、語彙力では5歳で差が出始めていることが分かりました。

出所:江戸川大学こどもコミュニケーション研究紀要 内田伸子「学力格差は幼児期から始まるか?~保育と子育ては子どもの貧困を超える鍵になる~」

その一方で、収入に関係なく子どもとのふれ合いや共感を重視する「共有型」の家庭の子は語彙力が高く、子どもとの関わり方やしつけの影響が大きいことも判明しました。

有名な「3千万語の差」

教育の分野でも科学的な見地に立って研究する、アメリカで幼児期の語彙力で最も有名かつインパクトの強い調査結果が「The Early Catastrophe The 30 Million Word Gap by Age 3」です。

カンザス州で1980年代に行われた調査は被験者の数は42世帯程度と少ないものの、2年半に及ぶ調査は子どもの語彙獲得の変化が分かる貴重な研究調査です。

同調査では端的に言えば「高所得世帯の子どもは語彙が豊富で低所得世帯の子どもは語彙が少ない」と結論づけています。しかし、所得の差が直接子どもの語彙力に影響を与えたわけではありません。

調査から高所得世帯の親は低所得世帯に比べて子どもへの声がけや使用している語彙の数も多く、その結果、子どもの語彙力が鍛えられているとしています。

また被験者の追跡調査をした結果、語彙力の差は9歳から10歳、日本では小学3年生の時点でもその差は引き継がれると記されています。

つまり、何もしなければ幼児期に生じてしまった語彙力の差が逆転することはないということになるのです。

最近の調査でも語彙に関して興味深い結果が出ました。

2017年のハーバード大学とMIT(マサチューセッツ工科大学)の研究者による調査で、子ども達が話を聞いている時の脳の動き方を調べたところ、保護者との会話が多い環境で育っている子どもは他の子とは違う脳神経の使い方をすることが分かりました。

幼児期の語彙力が重要な理由

このように、会話や語りかけは経済格差を乗り越える力を秘めているのです。

所得により「うちは余裕がないから」と後ろ向きになるのではなく、日頃から子どもへの声がけや読み聞かせをしていくことで子どもの語彙力、そして様々な能力を高める可能性を秘めているともいえます。

子どもの語彙獲得は、身近な存在である親との会話や声がけ、保育施設での子ども同士の会話や先生との会話、そして読み聞かせになります。

幼稚園や保育所は保育時間の差はあるものの、独特の教育方針を掲げていない限り獲得できる語彙の数や種類はある程度決まっています。

そのため、家庭でどれくらいの量の言葉を使い、声がけをしているのかで大まかな「語彙数」の土台が出来上がってしまいます。

就学以降は、学校生活で獲得する語彙は一斉授業ということもありほぼ平等になってくるため、やはり家庭での会話の質を高めることや読書習慣が大きなカギとなります。

語彙が豊かになると興味関心の幅も広がる

子どもの教育に関する話題で取り上げられることの多い「学力と経済力」は、学校のテスト結果や学習意欲のように、子どもが成長してきた頃に指摘されます。

その一方で、語彙力に関しては幼児期から差が見られます。

すでに幼児期で差が生じているため、何も対策をしていなければどんどん拡大してしまいます。

語彙獲得により表現力がつくのはもちろんのこと、本を読む際に書かれている語彙の意味をすぐに理解でき「本は面白い」という感情を育むことができます。

語彙を増やしていくことで、興味関心の幅が広がり自分から率先して本を読むようになるなど、教養や学力の土台を作る上で欠かせないスキルです。

また、アクティブラーニングが重要視されている中で自分の言葉で表現する機会も増えています。

普段の親子の会話や子どもの語彙力を気にし、会話の中身を変えてみたり語彙に特化した学習漫画を活用してみたりするなど、積極的に語彙力アップを心がけていきたいですね。

参考資料

江戸川大学こどもコミュニケーション研究紀要 内田伸子「学力格差は幼児期から始まるか?~保育と子育ては子どもの貧困を超える鍵になる~」(https://edo.repo.nii.ac.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=repository_action_common_download&item_id=833&item_no=1&attribute_id=18&file_no=1&page_id=13&block_id=21)

チャイルド・リサーチ・ネット「幼児のリテラシー習得に及ぼす社会文化的要因の影響~日・中・韓比較~」(https://www.blog.crn.or.jp/event/pdf/event_02_04_05_Uchida_Nobuko.pdf)

The Early Catastrophe The 30 Million Word Gap by Age(https://www.d11.org/cms/lib/CO02201641/Centricity/Domain/547/SharedDocuments/Reading%20Support%20Documents/Article%20The%20Early%20Catastrophe%20AFT%20Spring%202003.pdf)

GEORGE LUCAS EDUCATIONAL FOUNDATION「edutopia New Research Ignites Debate on the ‘30 Million Word Gap’」(https://www.edutopia.org/article/new-research-ignites-debate-30-million-word-gap)

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