「外国人労働者」の受け入れより日本人の賃上げを優先すべき理由とは 元大学教授が考察
LIMO / 2023年4月14日 7時30分
「外国人労働者」の受け入れより日本人の賃上げを優先すべき理由とは 元大学教授が考察
労働力不足対策や人口減少対策として外国人労働者や移民を受け入れるより、少ない人数の日本人が豊かに暮らすことを考えるべき、と筆者は考えます。(経済評論家 塚崎公義)
労働力不足は「外国人受け入れ」より「賃上げ」で解決すべき
少子化が止まりません。
新型コロナウイルス感染症を恐れて出産を先送りしている人が多い、というだけならば一時的な現象でしょう。
しかし、ステイホームで出会いが減り男女の交際が減れば、タイムラグを経て婚姻、出産も減るでしょうから、今後についても見通しは決して明るくありません。
一方で、平均寿命は医学の進歩等々で延びていくことが考えられます。よって、少子高齢化は今後も続くと考えざるを得ません。そうなれば、労働力不足は避けられないでしょう。
現役世代の人数が急速に減り、総人口は緩やかに減っていくとすれば、「作る人と使う人」の比率が変化し、よほど労働生産性が向上しない限り労働力不足となりますね。
そして労働生産性については、社会の高齢化によって医療や介護といった機械化困難な需要が増え続けていることから、これも明るい展望は持ちづらいでしょう。
労働力不足の解消は、まず「賃上げ」から
もっとも「労働力不足」という語感とは異なり、労働力の需要が供給を上回っている状態は、良いことなのです。
労働者は失業の恐怖から解放され、非正規労働者の時給は上がり、ブラック企業も存続できなくなるでしょう。企業が省力化投資に励めば、日本経済全体が効率化していくことも期待されます。
そもそも労働力不足というのは、労働力の需要と供給を一致させる賃金の水準よりも現在の賃金水準が低い、というだけのこと。問題の本質は労働力不足ではなく、賃上げが足りないということなのです。
つまり、労働力不足を解消するためには、各企業が「他社から労働力を奪ってこよう」と考え、競うように賃上げを行なった結果、労働力の需要と供給が一致するようになれば良いわけです。
労働力としての「移民受け入れ」で想定されること
労働力不足を補うために移民を受け入れよう、という論者は少なくありません。経営者がそう主張するのは理解できますが、筆者は反対ですし、労働者や政治家たちには反対して欲しいと思います。
労働者にとっては、移民の受け入れによって失業のリスクが増え、賃上げの可能性が消え、ブラック企業が残るわけで、決して望ましいことではないはずです。
移民の受け入れによって労働力不足が解消すれば、企業が省力化投資のインセンティブを失って日本経済が効率化するチャンスも失われてしまうかもしれません。
賃金水準が上がると、高い賃金が払えない企業が退出を余儀なくされる可能性もありますが、それは仕方ないことです。労働力が不足している以上、誰かが我慢しなければならないわけです。
そこで残るべきは、「高い賃金を払える効率的な企業」となるでしょう。
同時にそれは、日本企業の平均的な効率性が高まるという意味で、日本経済にとってはむしろ望ましいことだとも考えられます。企業が効率的に生産すれば、国民一人当たりのGDPが増えるのですから。
いずれ直面する「外国人労働者の高齢化」介護はどうなる?
もう一つの大きな論点は、いったん受け入れた外国人労働者たちが高齢になったときのことです。
日本にそのまま残るとすれば、日本人が高齢化した元外国人労働者の介護をすることになり、日本の労働力不足はむしろ深刻化してしまう可能性もあると思うのですが。
移民受け入れで、日本人の生活水準は上がるのか
「人口が減るから移民を受け入れるべきだ」という論者もいるようです。人口が減ると、何が問題となりそうでしょうか。
人口が減り、GDPが減ると、軍事や外交の面では困ったことが起きるのかも知れませんが、移民によって人口を維持することが軍事や外交の面でプラスになるのか否か、筆者の得意分野ではないので、議論は避けておきましょう。
経済の面で重要なのは、総人口やGDPの大きさそのものではないでしょう。一人あたりのGDPが高く、人々が豊かに暮らせることが大切なのです。
その意味では、「移民を受け入れることで、日本人の生活水準が上がるのか」という基準で判断すべきと筆者は考えます。
そうなるとハイテク産業で活躍が期待できそうな高度人材などは大いに歓迎できるでしょう。しかし、一般的な労働者に来てもらっても、日本人の生活レベルは上がらないでしょうから、広く移民を受け入れる必要はないと筆者は考えます。
日本人が望む将来の日本とは?
今後、日本人の少子化が止まらず、人口が減り続けたとします。
数百年後に日本人の人口が10分の1に減るとして、日本列島の人口を維持しようとすれば日本列島に住む人の9割が移民ということになります。それが私たち日本人の望む将来の日本なのでしょうか。そこは国民的な議論が必要でしょう。
もしかすると、日本人が「日本語の通じる地域に住みたい」という事で1カ所に固まって住むことになるかもしれません。そうなった場合、日本語の通じない人が住む地域が国土の9割、日本語の通じる人が住む地域が国土の1割、ということにもなりかねないわけです。
そうなるよりも、10分の1の人口で広い国土を広々と使い、各人が広い家に住めるような国を子孫に残してやりたいと思う次第です。
本稿は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを優先しているので、細部は必ずしも厳密ではありません。
<<筆者のこれまでの記事はこちらから>(https://limo.media/list/author/%E5%A1%9A%E5%B4%8E%20%E5%85%AC%E7%BE%A9)
参考記事
総務省「令和4年版高齢社会白書(全体版)」(https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2022/zenbun/pdf/1s1s_01.pdf)
塚崎公義(LIMO)「労働力不足は賃上げ不足?元大学教授が考察」(https://limo.media/articles/-/33774)
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