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米減税法案成立で株高小休止、その理由は

LIMO / 2017年12月26日 21時20分

米減税法案成立で株高小休止、その理由は

米減税法案成立で株高小休止、その理由は

かえって格差拡大? 世界最大のヘッジファンドも失望

米国では先週、減税法案が成立しました。祝勝ムードのトランプ政権とは裏腹に、マーケットの反応は冷ややかでした。「うわさで買って事実で売る」の格言通りともいえますが、それだけではなさそうです。今回は、減税法案成立に反応薄となった背景を探ってみました。

雇用増が見込めない「雇用法案」、国民には圧倒的に不人気

先週成立した米税制改革法案には「減税と雇用法案」との名称が付けられており、その意図するところは減税で設備投資を促進し、雇用を増やすことにあります。

とはいえ、米労働市場は絶頂期を迎えています。11月の米失業率は4.1%と17年ぶりの低水準にあり、改善の余地はほどんど残されていないようです。トランプ政権は10年で2500万人の雇用創出を公約に掲げていますが、失業者は現在650万人程度しかおらず、移民も制限していますので、雇用を増やそうにも人手が足らないことは明らかです。

また、大卒に限ると失業率は2.1%、失業者は100万人程度となっていますので、質の高い雇用の確保はさらに難しい状況です。米国は既に人材難の状況にあり、雇用の拡大余地が残されているのはスキルの低い労働者に限られているのが実情です。

こうした状況を踏まえ、減税による雇用創出には疑問の声が強まっており、成長見通しにも暗い影を落としているようです。法案成立後の共和党議員へのインタビューを見ても「納税者のほとんどが減税で雇用が増えるとは考えていませんが、本当に雇用は増えるのですか?」と厳しい質問が飛んでいます。

ハーバード大学の調査によると、今回の法案に対し、共和党支持者こそ70%が支持していますが、民主党支持者の90%、無党派層の80%が不支持となっています。無党派層に圧倒的不人気となっていますので、中間選挙に向けて既存の支持層を固めたとはいえそうですが、支持層の拡大にはつながらず、むしろ失ったといえるかもしれません。

疑問視される減税効果、成長は高まらず?

減税法案成立とともに、各方面から批判的な声が挙がっています。サマーズ元財務長官やクルーグマン教授といった民主党寄りの著名な経済学者からの批判はこれまで通りといったところですが、トランプ政権を強く支持していた層からも疑問の声が挙がっていることが注目されます。

世界最大のヘッジファンド、ブリッジ・ウォーターを率いるレイ・ダリオ氏もその一人です。同氏は昨年、トランプ氏が大統領選挙に勝利すると「信じられないくらい面白い4年間になる」と歓迎し、2017年は「現金をリスクの高い資産に移す動きが非常に顕著になる」と予想して見事に言い当てています。

そのダリオ氏が税制改革について「経済の押し上げ効果は短期的かつ小さなものにとどまる」と述べ、失望の意を表しています。

法人税率は現行の35%から21%に引き下げられましたが、法人税率と設備投資やGDP成長率との関係は必ずしも明確ではありません。

法人税率は1986年に46%から34%に引き下げられて以来の大きな引き下げとなりますが、設備投資の対GDP比率を見ると、1984年の20%から1991年の15%まで緩やかに低下しており、減税が設備投資を促した形跡はうかがえません。逆に、法人税率は1993年に35%に引き上げられていますが、皮肉なことに設備投資の対GDP比率は1992年の15%から1999年には20%へと拡大しています。

同様のことはGDP成長率にもいえます。1986年前後を比較すると、1985年までの3年間は平均で5.4%だったのに対し、1987年以降の3年間では3.8%に低下しています。その後、1991年にはマイナスへと沈みました。その一方で、1993年に増税したにもかかわらず、1997年からは4年連続で4%超の高成長を達成しています。

ちなみに、1986年の減税では所得税の最高税率が50%から28%へと引き下げられ、1993年の増税では31%から39.6%へ引き上げられています。

30年ぶりの大型減税に成長加速への期待が高まっていますが、30年前を振り返ると、減税をきっかけとした設備投資の増加や成長の加速といった形跡はうかがえません。逆に、その後は設備投資も成長率もむしろ鈍化しています。

貯蓄率低下、信用残高拡大、遅延率上昇で個人消費の先行きに警戒感

ダリオ氏が最も失望したのは、今回の税制改革で所得格差が解消するどころか、一段と広がることになりそうだがらです。これは、見方を変えると、中間層の所得が増えず消費が停滞する恐れがあるということです。

11月の米個人所得は前月比0.3%増と前月の0.4%増から伸び率が鈍化し、インフレ調整後の実質可処分所得は0.1%増と小幅な伸びにとどまりました。一方、個人消費支出は前月比0.6%増と10月の0.2%増から加速しています。この結果、貯蓄率は2.9%と10月の3.2%から低下し、2007年11月以来、10年ぶりの低水準となっています。

また、10月の消費者信用残高は前月比年率換算で6.5%増と所得の伸びを大きく上回るスピードで拡大しています。要するに、米国では所得の伸びを上回るスピードで消費が拡大していますが、消費の拡大は貯蓄の取り崩しもしくは借金の拡大に依存しているというわけです。

その一方で、自動車ローンやクレジットカードの支払い遅延率が上昇傾向にあり、金融機関の与信拡大にも限界が近づいていることを示唆しています。

減税の恩恵は、企業や富裕層で大きく、低・中所得層では限定的といわれていますが、そうした懸念は既に経済指標に表れているようです。

12月の米ミシガン大消費者信頼感指数は95.9と前月比2.6ポイント低下となり、低下は2カ月連続で、「今後の見通し」が4.6ポイントと大きく低下しています。調査担当者によると、低所得者層で顕著に低下しているとのことです。

減税法案成立後、株価の上昇がピタリと止まっています。材料が出尽くしたこともありますが、成長の押し上げ効果に対する疑問、消費における借金依存度が高まる中、減税の恩恵が富裕層に偏っていることなどが株価見通しを慎重にさせているのかもしれません。

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