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サービスとしてのモビリティ=MaaS(マース)って何?

LIMO / 2018年1月19日 17時20分

サービスとしてのモビリティ=MaaS(マース)って何?

サービスとしてのモビリティ=MaaS(マース)って何?

地殻変動が起こりつつあるモビリティ市場

今、自動車業界は地殻変動ともいえる大きな転機を迎えつつあります。

まず欧米を中心に、さらに中国でも「ディーゼル・ガソリン車の販売規制」が加速しています。2017年7月、英・仏両政府は2040年までにディーゼル・ガソリン車の販売を禁止する方針を発表しました。9月には中国政府も新エネルギー車生産を義務付け、ディーゼル・ガソリン車販売の禁止を検討していると報じられています。ドイツやオランダ、ノルウェーなどの各国でも内燃機関自動車の販売禁止に向けた規制強化が進められています。

一方、電気自動車(EV車)に関する自動車各社の動きも活発化しています。

2017年7月、スウェーデンのボルボ社が2019年以降発表のすべての車をEVなど電気自動車にすると発表。国内でも8月にトヨタ自動車とマツダが資本業務提携を発表し、EVの共同開発をめざすとしています。9月にはダイソンが2020年までに電気自動車市場に参入すると表明しました。

こうした自動車の駆動アーキテクチャーの潮流が転換点を迎えたという話に加え、生活や行動様式すら劇的に変えてしまう可能性を秘めた新しい流れが勢いを増しています。そう、「自動運転車」の開発の動きです。最近では毎日のようにメディアで報じられている「自動運転車」。各社の開発はますます加速するとみられています。

個人の自動車所有離れが進む?

実はこのことに関して、興味深い調査があります。

「破壊的イノベーション」にフォーカスした投資で知られる米国のアーク・インベストメント・マネジメント・エルエルシー(ARK社)は、「サービスとしてのモビリティ」(Mobility-as-a-Service:MaaS)に関するホワイトペーパー(白書)(http://www.nikkoam.com/files/sp/ark/docs/mobility-as-a-service-white-paper-20171025-j.pdf)の中で、「2019年までに自動運転タクシーが商業化され、2020年代の終わり頃には自動運転タクシーがポイント・ツー・ポイントの移動手段の主流になる」と予想しています。

もちろんその実現までには自動運転システム性能の立証や自動運転タクシーサービス・ネットワークの構築をはじめとする、クリアしなければならない数多くの課題がありますが、仮に導入・浸透が実現すれば、さまざまなインパクトを各方面にもたらす可能性があります。ARK社は自動運転タクシーの魅力的な経済性や利便性により、既に起こりつつある“移動手段の「保有」から「利用」への流れ”が加速すると予想しています。

「サービスとしてのモビリティ」=「MaaS」って何?

ここで「MaaS(サービスとしてのモビリティ)って何?」と思った方もいらっしゃるでしょう。

ITの心得がある方なら「SaaS(Software-as-a-Service、サービスとしてのソフトウェア)」や「PaaS(Platform-as-a-Service)」などの仲間か、と察しがついたかもしれません。自分が所有しているモノでなくても、サービスとして利用料金を払えば使うことができる――ざっくりいうと「as a Service」の指す部分はそれに近い概念です。MaaSによって、ITの世界から私たちの身近なところまで「as a Service」がやって来たという感じでしょうか。

MaaSでサービスとして使うMobilityとはズバリ、クルマや自転車など「(個人、法人が所有し)移動に使うもの」のことです。つまりMaaSとは、移動手段を車や自転車の所有という「モノ」で提供するのではなく、「サービス」として提供するシェアリング・エコノミーの発展形なのです。

既に世界の主要都市ではUberやLyft、滴滴出行のように、ドライバーと乗客を結びつける配車サービスが急速に普及し始めていますし、フィンランドでは月額料金を支払う事によって、バスや地下鉄などの公共交通機関とタクシーやレンタカーなどを継ぎ目なく乗りついで目的地に移動することが可能なサービスが提供され始めています。いずれも「移動」という行為を劇的に便利にする「サービス」、つまりMaaSです。

そして、この変化を加速させるのが「自動運転車」――その名の通り、行き先を指定すれば人が運転しなくても走行する車だというわけです。自動運転車がタクシーや宅配トラック、バスなど、人手不足や需給のミスマッチが起こりやすい分野で大きく広がれば「ヒトやモノの移動」にも破壊的な変革がもたらされると考えられます。

MaaSは破壊的イノベーションになるのか

MaaSは「破壊的イノベーション」となりえるのでしょうか。MaaSを「ヒトやモノの移動のサービス化」と定義すれば、答えはYesです。なぜならMaaSによって、これまで多くの人々が当たり前に感じてきた移動や輸送の手段としての車を「保有しなくてもよくなる」からです。

それはどういうことなのか。「Google vs トヨタ」などの著書もあるテクノロジーアナリストである泉田良輔氏はこう表現します。

「MaaSは一言で言うと鉄道のようなものです。鉄道会社は車両を作り、安全に運行し、乗客が目的の駅に行くまでの電車賃をもらっていますよね。つまり、サービスでお金もらっているといえます。これと同じことが車でも起きるということです。

たとえば、現時点では自動車メーカーは車を作って、ハードウェアとしての車を個人や法人に販売をしています。一方で、ハードウェアを販売するのではなく、車の管理をしながら人やモノをAからB地点に運ぶ移動サービス(ソフトウェア)の対価としてお金をもらう、これがMaaSです」

「タクシーやライドシェア(相乗り)、カーシェアリングと同じじゃないの?」と思われた方もいるでしょう。確かにこれらも現時点におけるMaaSに含まれるビジネスです。しかし、自動運転技術の導入により移動に必要なコストが激減し、現時点では存在しない圧倒的な量の需要が創出されることが想定されます。

自宅のドアを開ければすぐに自動運転車が待ち構えている未来を想像してみてください。自宅から駅、駅から会社までなど、2地点間の徒歩移動がMaaSに置き換わる可能性があります。それ以上に大きな変化として、移動に伴う「面倒くささ」が取り除かれることにより人々の移動が活性化され、今まで隠れていた膨大な移動需要が喚起されることになるでしょう。高齢者や子供など、自動車免許を持たない人に対する新たな需要も無視することはできません。

MaaSがもたらす影響は「ヒトの移動のサービス化」だけに留まりません。例えば、米ラスベガスで今年1月に開催されたCES(Consumer Electronics Show)において、トヨタは自動運転技術を活用したモビリティサービスへの参入を発表しました。同社が開発するモビリティ・プラットフォーム(自動運転車体)はタクシーやライドシェアサービスのみならず、小売店や宿泊・飲食施設、物流向け等様々なサービスに用いられることを想定されており、異業種との提携も発表されました。従来、商業施設は駅前好立地であることがビジネスの成否を決める条件の一つでしたが、自動運転車の実現により様々なビジネスが自動運転車の上で展開される将来を見据えているようです。続報が楽しみです。

ビジネスとしてのMaaSの魅力

では、どのような企業がMaaS提供企業となりうるのでしょうか? 前述のARK社の調査によれば、自動運転状況のモニタリングや非常時の対応を常時要求されることから、先進的な自動運転技術を保有する企業であることが必須条件とされています。また、MaaSビジネスをいち早くスタートすることにより、提供企業は所有する自動運転車両を用いて、自動運転地図の作成や自動運転技術の向上に必要とされる膨大な地域データを入手する事が容易になるため、先行者が優位になる傾向が強いビジネスだと考えられます。つまり、既存の自動車産業のみならず、自動運転技術開発に積極的なテクノロジー企業のなかから、地域ごとに少数のMaaS提供企業が誕生することを想定しています。

またARK社は、ヒトの移動に関わるMaaSビジネスの総売上高は2030年初頭までに10兆ドルを超える一方で、自動運転車販売の総売上高は9,000億ドル程度にとどまると予想しています。人件費がかからず、高い稼働率を維持することが可能な自動運転車による移動サービスは、他の移動手段に比べてコスト競争力が高く、継続的に収益を得やすいビジネスといえます。また、総コストに占める技術面の割合が非常に高いため、技術の発展や生産台数の増大により継続的にコスト低下が起こるビジネスだと考えられます。結果として、個人による自動車の所有離れは加速する一方で、MaaSへの需要が高まることが想定されます。

おわりに:移動や物流の概念を根底から覆す可能性

シェアリング経済の発展形態としてのMaaS。単に「自動運転車」の登場だけにとどまらない、移動や物流の概念を根底から覆す可能性を秘めているといえそうです。既にAlphabet社(Googleの親会社)は傘下のWaymoを通じて米国アリゾナ州にて自動運転タクシーの実証実験を開始しています。決して他人事ではない破壊的イノベーションはもう間近に迫っているのです。


(本稿はMaaSビジネス関連企業を例示していますが、当該銘柄の売買を推奨するものでも、将来の価格の上昇または下落を示唆するものでもありません。また、日興アセットマネジメントが運用するファンドにおける保有・非保有および将来の銘柄の組入れまたは売却を示唆・保証するものでもありません)

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