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銀行の金庫内の現金はわずかだが、大丈夫なのか?

LIMO / 2018年2月7日 21時40分

銀行の金庫内の現金はわずかだが、大丈夫なのか?

銀行の金庫内の現金はわずかだが、大丈夫なのか?

取り付け騒ぎが起きないようにする工夫とは

銀行や保険会社は、大数の法則を利用したビジネスです。久留米大学の塚崎公義教授が解説します。

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銀行の金庫というと、巨額の現金が山積みになっているイメージがありますが、実はそうでもないのです。かつては「銀行の金庫の現金を貸せば金利が儲かる」ということで、極力金庫内の現金を減らしていたほどです。ゼロ金利の今でも「金庫に現金があると銀行に狙われる」ということで、あまり現金を置かないようにしているのです。したがって、銀行強盗は苦労の割に儲けが少ないはずです(笑)。でも、私たちが預けた現金が金庫にはいっていなくて、大丈夫なのでしょうか。

銀行は大数の法則を利用したビジネス

銀行が「預金者が、いつ預金を引き出しにくるかわからないので、預かった金は全額金庫に入れておく」とします。銀行は貸出をすることができず、収入が得られず、倒産してしまいます。したがって、預かった金は、一部を残して貸出に使ってしまうのです。なぜ、そんなことが可能かというと、統計学が「大数の法則」を発見してくれたからなのです。

コインを2回投げても、表と裏が1回ずつ出るとは限りませんが、2万回投げると、おおよそ1万回近くは表、1万回近くは裏が出るのだそうです。銀行で言えば、100人に1人が預金を引き出しに、100人に1人が預けに来るとして、100万人の顧客がいれば、概ね1万人が引き出しに来る一方で概ね1万人が預けに来るので、金庫の現金が少なくても大丈夫なのです。

もっとも、大数の法則が使えない場合もあります。一つは、預金者が1人の超大金持ちだけである場合ですね。今ひとつは、取付け騒ぎの場合です。「あの銀行が倒産しそうだ」という噂が流れ、人々が預金を引き出しに殺到して来ると、たちまち金庫は空になってしまいますから。

取付け騒ぎを回避する工夫が多数

銀行としては、取付け騒ぎが起きないように、普段から健全な経営に努めます。金融庁などが定期的に検査に入り、銀行が健全であるか否かをチェックします。そうすれば、銀行が倒産しそうだという噂が流れにくくなるからです。もっとも、本当に健全な銀行でも、取付け騒ぎが起きないとは限りません。人々が誤った噂を信じてしまえば、健全な銀行が取付け騒ぎで倒産することも、有り得ないことではないのです。

そこで今ひとつ、預金保険制度というものがあります。「銀行が倒産しても、庶民の預金は政府が代わりに払い戻しに応じるから、庶民は安心していなさい」というものです。これは、庶民を守るための法律であると同時に、「銀行が倒産するという噂を聞いても、庶民は取付け騒ぎに走らないように」という法律でもあるのです。もっとも、残念ながら預金保険制度というものを知らない庶民が多いので、実際に噂が流れた時には庶民が取付け騒ぎに殺到してしまいそうですが(笑)。

今ひとつ、日銀が「最後の貸し手」となります。庶民が銀行に預金引き出しに殺到しているところへ、日銀の現金輸送車が大量の札束を届けに来るのです。それを見た庶民が安心して帰宅してくれれば最高ですし、そうでなくとも「金庫が空だ」というSNSの投稿は止まるでしょう。最後の1人まで、きっちり払い戻しに応じれば、翌日には噂は消滅するでしょう。

保険会社も、大数の法則で成り立っている

1000軒に1軒が火災に遭うとしましょう。顧客が1人しかいない保険会社は、経営が成り立ちません。顧客が少なくても、経営は不安定です。しかし、100万人の顧客がいれば、大数の法則によって概ね1000人に保険金を支払うことになりますから、それに保険会社のコストなどを上乗せして保険料を決めておけば、支払いは可能でしょう。

もっとも、保険会社は銀行に比べると、大数の法則に頼れないケースが多いので、注意が必要です。銀行ならば、地域密着ということで地銀というビジネスが可能ですが、保険会社が地域密着をすると、たまたま地域で大火事が発生した時に倒産してしまいますから、全国展開が必要になります。

大災害のリスクもあります。たとえば滅多に来ない大型台風で大きな被害が発生することがありますから、それに備えて、保険会社は「再保険」に加入しているのです。世界中の保険会社が、世界一大きな保険会社の顧客となって巨大災害のリスクを引き受けてもらうのです。個々の国の保険会社にとっては滅多にない大災害であっても、世界中の保険会社から再保険を引き受けている会社にとってみれば、大数の法則が適用可能だからです。

ただ、世界一の保険会社でさえも再保険を引き受けてくれないものがあります。日本の地震保険です。南海トラフ大地震で東京と大阪と名古屋が壊滅したら、世界一の保険会社も倒産してしまうでしょうから。そこで、地震保険は日本政府が再保険を引き受けているのです。

ここからは余談ですが、筆者は地震保険に加入していません。通常の地震への備えとしては頼もしいですが、巨大地震への備えとしては頼りないからです。もともと地震保険は数百万円しか受け取れませんし、巨大地震になれば、激しいインフレになるでしょうから数百万円受け取っても何もできないでしょう。

地震保険に加入する代わりに、ドルを持っています。復興資材の輸入等で超ドル高になるでしょうから、それによる輸入物価高騰に備えているわけです。

なお、本稿は、拙著『経済暴論(https://www.amazon.co.jp/gp/product/4309248152/ref=as_li_qf_sp_asin_il_tl?ie=UTF8&tag=navipla-22&camp=247&creative=1211&linkCode=as2&creativeASIN=4309248152&linkId=9cdc63edb8dc97cc51b8dfea6929ba37)』の内容の一部をご紹介したものです。厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる可能性があります。ご了承ください。

<<筆者のこれまでの記事はこちらから(http://www.toushin-1.jp/search/author/%E5%A1%9A%E5%B4%8E%20%E5%85%AC%E7%BE%A9)>>

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