2018年を通しては、今より米ドル高・円安を見込む(その2)
LIMO / 2018年2月3日 8時20分
2018年を通しては、今より米ドル高・円安を見込む(その2)
「柏原延行」のMarket View 2018年2月1日
皆さま こんにちは。アセットマネジメントOneで、チーフ・グローバル・ストラテジストを務めます柏原延行です。
本コラムは、2018年2月2日公開の『2018年を通しては、今より米ドル高・円安を見込む(その1)(http://www.toushin-1.jp/articles/-/5142)』の続きです。
(その1)では、米ドル安・円高の進展の原因について、主要と思われるものをご紹介した上で、私は「2018年を通じて」という観点からは、今よりも米ドル高・円安を見込むことをお伝えしました。
そして、変動が大きくなっている市場の状況を鑑みて、上記の予測が的中しない原因としては、私の想定より保護主義的な動きが強くなる可能性を考える必要がある旨をご説明しました。
今回のコラムでは、他の原因について、ご説明したいと考えます(その 1の図表1ご参照)。
(1)要人発言について
ムニューシン米財務長官の「米ドル安」を引き起こした発言の後、トランプ大統領は「私は強いドルが見たい」と発言し、財務長官の発言の影響を火消ししています。
次に、黒田総裁のダボス会議での発言である「私たちはようやく(2%の物価安定)目標に近づいている」との発言のみを切り出して、日銀が金融政策を変更する可能性を過大視することには、強い違和感を感じます。全体として考えれば、黒田総裁は金融政策の変更には慎重であると解釈すべきと思っています。
また、「日銀は本音では金融政策の正常化を志向している」、「黒田総裁は任期満了が近いため、市場の懸念を払拭できない」との解釈については、私は「金融政策は公式なものなので建前に従って実行されるもの」、「黒田総裁は再任される可能性が高い」と考えています。
仮に黒田総裁が交代するとしても、2019年10月の消費税引き上げが安倍政権の大きな政策課題である中で、経済・市場環境の混乱を引き起こしかねない金融政策の変更は難しいことも指摘したいと考えます。
最後に、ドラギ欧州中央銀行総裁の理事会後の記者会見での発言について「ユーロ高警戒の程度が低いと解釈された」との報道もありますが、ドラギ総裁はユーロ圏の景気回復に大きな力となった「ユーロ安を実現した立役者」と評価しているため、簡単に(ユーロ安)カードを手放すとは思えません。
結論として、これらの要人発言は、持続的な米ドル安・円高要因と考えるべきではないと思います。
(2)インフレ率の上昇懸念
米国の10年国債金利は、2017年末の約2.4%から、足元では2.7%超まで上昇しています。大統領選挙におけるトランプ氏勝利後の金利の上値は2.6%程度であったため、今回はこれを超える上昇があったことで、米国のインフレ率が(大きく)上昇することを市場は意識していると解釈することも可能です。
この意識の背景には、原油価格の指標として利用される「WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の先物価格」が、2017年末の1バレル=約60ドルから、足元では同約65ドルに上昇しており、これが好調な経済と相俟って米国のインフレ率上昇に繋がるという懸念があります(なお、米ドル安は米ドル建てで表示される資源価格のさらなる上昇に繋がるとの考え方もあります)。
この考え方に対して、ご説明したい点は2つあります。
一つ目は、原油価格の上昇が続くか否かです。これに関しては、私は原油価格上昇の持続性には懐疑的です。その理由しては、中長期的視野に立った場合、「供給サイドではこれ以上の価格上昇があった場合には、シェール・オイルに代表される非OPEC加盟国(後述のOPECご参照)の供給量が増加する」、「需要サイドでは温暖化ガスの発生抑制への動き(自然エネルギーへのシフトなど)や、技術革新による原油の効率的な利用が需要の伸びを抑える方向に働く」と考えているからです(短期的には減産合意の遵守状況などOPEC(石油輸出国機構)の動向が重要です)。
二つ目としては、仮に米国においてインフレ率が想定以上(3%程度をイメージしています)に上昇し、長期金利が同じく想定以上(10年国債金利で3.5%をイメージしています)に上昇したとしても、これが「米ドル安・円高要因になるのか?」という疑問です(インフレ率3%、10年国債金利3.5%超が2018年中に実現する可能性は低いと考えます。なお、インフレ率はPCE(個人消費支出)デフレーターでのイメージ)。
インフレは、モノなどに対して通貨の価値が減価する現象ですから、米ドル安要因として捉えることができます。一方で、インフレは通常は金利の上昇を招き、高い金利に魅力を感じる海外投資家が米ドルにお金を投資するため、米ドル高要因と捉えることもできます。
このように、インフレ率の上昇は必ずしも、米ドル安要因として捉えることはできません。
米ドル/円の関係では、日銀の長短金利操作によって円金利水準が固定されている中で、これまで米国の金利上昇は米ドル高要因とされてきたと思われます。しかし、今回の米国の金利上昇は、節目である2.6%程度を超えたため、市場は少しビックリして、従来とは異なる米ドル安・円高の方向で反応したと私は考えています。
したがって、インフレ率の上昇懸念についても、持続的な米ドル安・円高要因とはならないと考えます。
次回以降のコラムでは、(その1)の図表1項番4以下の原因などについてご説明する予定です。
(2018年2月1日 9:00執筆)
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