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止まらない円高、その理由は何か〜ドル円は一時105円台突入

LIMO / 2018年2月20日 21時20分

止まらない円高、その理由は何か〜ドル円は一時105円台突入

止まらない円高、その理由は何か〜ドル円は一時105円台突入

日銀リフレ派人事をなぎ倒す“相互税”の破壊力

先週は世界的に株価が持ち直しましたが、円高の流れは止まることなくドル円は1年3カ月ぶりに105円台に突入しました。金融市場が安定感を取り戻す中、なぜ円高が進行しているのか。今回は円安要因が目白押しでも止まらない円高の背景を探ってみました。

米保護貿易の動きが加速~世界貿易戦争への発展を警戒へ

最近の円高の背景の一つには、米保護貿易の動きがあります。米中貿易摩擦の激化や世界的な貿易戦争への突入が懸念され、リスクオフの円高が警戒されるからです。

トランプ大統領は12日、「米国に関税を課すことを認める一方で、相手国には何も課さないという状況を続けるわけにはいかない」と述べ、米国製品に関税を課している諸外国に対し“相互税”を導入する考えを示しました。

相互税の詳細は明らかにされていませんが、トランプ氏は昨年、国境調整税は“名称”が好ましくないと指摘した上で、「相互税と呼べば誰の怒りも買うことはない」との持論を展開していますので、税制改革で採用が見送られた国境調整税が名称を変えて復活することを匂わせています。

トランプ政権の保護貿易主義的な動きは相互税導入のみにとどまりません。1月には太陽光パネルと洗濯機にセーフガード(緊急輸入制限)が発動されています。セーフガードの発令は2002年以来、16年ぶりのことです。

また、米商務省は16日、鉄鋼とアルミニウムの輸入を制限するように大統領に提案しました。鉄鋼に関しては4月11日、アルミに関しては4月20日までに決定が下される見通しで、鉄鋼についてはすべての国に対し最低24%、アルミ二ウムは最低7.7%の関税をかけるなど複数の案が提示されています。

このほか、トランプ大統領は1月17日、中国の知的財産権侵害に対して「多大な罰金を検討」しており「まもなく発表される」と述べています。同大統領は昨年8月に中国の知的財産権侵害を調べるよう指示を出しており、制裁措置として中国製品への高関税の導入などが検討中とされています。

日本は消費税への“国境調整”を警戒か

トランプ政権が保護主義的な貿易政策を加速させている背景には米貿易赤字の拡大があります。

トランプ大統領は「貿易赤字が米国内での雇用を奪っている」と主張し、貿易赤字の縮小を公約に掲げていますが、2017年の米貿易赤字は前年比8.1%増と公約に反して赤字が拡大してしまいました。

11月には中間選挙を控えていることもあり、政権発足1年目の失敗を踏まえ、公約実現に向けてなりふり構わぬ姿勢を見せているともいえそうです。

トランプ大統領は「中国、日本、韓国など多くの国に対して多額の損を出している。これらの国には多少の困難を強いることになる」と述べていますが、ここでいう“損”が貿易赤字を指していることは明らかでしょう。

2017年の米貿易赤字を国別で見ると、日本は中国、メキシコに続く3位となり、2016年の2位から順位を下げています。とはいえ、常に上位に顔を出していますので、貿易問題で日本への風当たりが強まることは想像に難くありません。

日本が相互税の対象となる場合、焦点となりそうなのが“消費税”です。消費税は輸入品に課税される一方で輸出品には免税となります。したがって、消費税には輸出を促進する面があることは否めません。

また、米国側から見ると、米輸出企業は米国には法人税、日本には消費税と二重に税を支払っています。

このように、米国には連邦レベルでの消費税がないことから、日本の消費税が不公正な貿易を招いているように映るわけです。

米国は輸出企業に対する法人税を免除し、輸入品に対して相互税を課すことで不公平な貿易慣行を解消したいと主張してくる恐れがあり、これは採用が見送られた国境調整税と大同小異となります。

米長期金利上昇、インフレよりも財政悪化を懸念か

最近の米長期金利上昇は、インフレよりも財政悪化が懸念されている可能性もありそうです。

米金利の上昇は円安要因と考えられますが、財政悪化によるデフォルトリスクへの警戒が上回る場合にはドル売り材料となり、円高要因となるとも考えられます。

米格付け会社のムーディーズは9日、「最近合意された税制改革が格下げ圧力を高めている」と指摘しており、深刻な財政赤字により米の格下げリスクが高まっているようです。

また、12日に公表された米予算教書では2019年度(2018年10月から2019年9月)の財政赤字は9840億ドルと7年ぶりの高水準に達する見通しです。

昨年成立した減税法案には財源がなく、米政府は高成長による税収増が財政を中立化する“はず”だと主張しています。2019年も3.2%の高成長を見込んでおり、米議会予算局(CBO)が1.8%と推計している潜在成長率からはかけ離れた数字となっています。

法人税引き下げの財源であった国境調整税が見送られたことで、米国はやや現実離れした高成長で税収を増やさないことには財政の維持が困難となってきています。

貿易赤字の縮小による成長の押し上げや相互税の導入による財源の確保は、見方を変えると現実路線への回帰といえるのかもしれません。

円安要因が目白押しの中での円高進行、米景気減速なら加速も

米保護貿易の動きが加速する中、株価回復によるリスクオンの流れ、米金利の上昇、日銀のリフレ派人事といった円安要因をなぎ倒して円高が進んでいます。

貿易赤字の縮小を公約としながらも、政権発足1年目の貿易赤字が拡大したこと、さらに財源なく減税を実施したことで急速な財政悪化が懸念されていることなどを踏まえると、米国が高関税の適用や相互税による財源の確保に動くインセンティブは小さくなさそうです。

ただし、中国からは鉄鋼やアルミなどに対する高関税が実施された場合、対抗措置を講じるとの警告が出されており、米中貿易摩擦が激化することは必至な情勢となっています。世界的な貿易戦争へと発展する恐れもあり、リスクオフの円高が継続することが警戒されます。

さらに、先週発表された米経済指標では1月米小売売上高と1月米鉱工業生産がともに予想外のマイナスとなり、米景気の減速も警戒され始めています。

米保護貿易の動きで円高の進行が懸念される中、米景気の減速が確認されるようだと円高が加速する恐れもありそうです。

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