発達障害の子を持つ父として〜経済学部を出て医師になった僕が考えること
LIMO / 2018年4月1日 6時0分
発達障害の子を持つ父として〜経済学部を出て医師になった僕が考えること
我が家には発達障害の子がいて、地元の小学校に通っています。この小学校では、5年前は支援学級は1教室だったのに、今はなんと4教室に増えています。子供全体の数は減少傾向なのにもかかわらず、です。
昨夏には『急拡大する「発達障害ビジネス」その功と罪(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52401)』(現代ビジネス)という記事がありました。では、この障害が、最近すごい勢いで増えているのでしょうか?
そうではなく、「昔から発達障害の子はいて、その数(率)は大して変わっていないが、一方で "発達障害" という障害についての一般社会への周知は進んだ、理解は深まった。(=診断の機会が増えた)」という方が近いような気がします。
その流れの中で、記事のような「発達障害ビジネス」が急増してきているのだということでしょう。
今回は、経済学部を出てから医学部に入り直し医師になった者として、親の視点、医師の視点、経済の視点、いろいろな立場からこの件について考えてみます。
親として:子にどう接するか
うちの子は普通小学校に通い、特殊学級と普通学級と半々の生活を送っています。欠点を挙げればキリがありません。聴覚が敏感すぎるのか、耳を塞いで教室から逃げ出すこともあります。
友達との距離感が近すぎるためか、バカにされるからなのか、クラスメートとトラブルになることが多く、ケガをさせてしまった時は、親子3人で菓子折りを持って謝りに行きます(泣)。
ただ、ほんの一部かもしれませんが、長所もあります。たとえばレゴブロックだったり、恐竜の図鑑だったり、好きなものに集中するときの集中力には驚くほどすごいものがあります(それも障害の一部なのかもしれませんが)。
そういうと、何か「発達障害」に特別な、すごい教育法でもあるのか、と思われるかもしれませんが、うちに限って言えばそういうものはありません。
一つだけ挙げるなら、無理に欠点を克服しようともせず、無理に長所を伸ばそうともせず、「自分は自分、ありのままの自分でいいんだ。それだけでお父さんにもお母さんにも、みんなにも愛されるんだ」というメッセージを全身で伝えようと思っています。
そして、できた時は一緒に喜んで、「君の力が伸びるとお父さんも嬉しいよ」ということを伝える。ただそれだけです。それだけなのですが、今は、好きな分野だと中学レベルの本も読んでいたりします。
一方で、算数などは悲惨です。それは、そのうちなんとかなるかもしれないし、ならなければそれでもいいと思っています(笑)。
流行りの言葉で言うと「自己肯定感」を育てる、というのに似ているかもしれません。そういう意味では、この姿勢はほかの兄弟も一緒で、つまり発達障害がどうこうではなく、我が家の普遍的な教育法なのだと思います。
加えて、近隣や地域の方々に決して隠さず、どんどん発信しています。「こういう子が地域に住んでいる」と知ってもらって、地域のみんなで理解して支えてくれたほうが、彼が生きやすい、そして親も楽かな(笑)と思っています。
医師として:治療と支援をどう考えるか
僕は彼を治そうと思っていません。発達相談・療育などの支援は早いうちから受けていましたが、投薬などの「治療」は全くしていません。発達障害についてはまだまだわからないことが多いのが現状で、今のところ「根本的な治療法」はありません。
というより、治療の対象と思うことすら僕は間違っていると思っています。多分、これは生来のもので、彼の個性です。例えは悪いかもしれませんが、「ダウン症を治す」「陰気な性格を治す」という医師がいないのと同じ感じでしょうか。
今、彼に治療は必要だとは思いませんが注1、その代わり周囲の理解(少し変わっていても別に気にしないよ、という理解)と、それを補う適切な支援は必要だと思います。
それさえあれば、彼は多分今後の人生を普通に一般社会で生きていけるし、社会に十分貢献できる存在になれると思っています。
注1:発達障害に対してすべての治療が必要ないとは思っていません。症状を和らげる「対症療法」的な投薬は「適切な支援」にも含まれるものだと思います。
経済学の視点から:医療とビジネス
病気や障害は、ビジネスに馴染みません。これは「市場の失敗」です。「発達障害ビジネス」に関して言えば、問題は以下の2点だと思います。
(1)情報の非対称性
そもそも医療の世界では、医師などの「供給」サイドと、患者・家族などの「需要」サイドで、その医学的知識に大きな差があると言われています。
つまり「医療」という商品(あえて商品と言います)については、供給側と需要側でその商品の価値・有用性の判断能力に大きな差があるということです。
特に発達障害の世界は、本当にまだまだわからないことだらけで、医療者でさえ本当のところがわかっていません。そう考えると、患者・家族の「需要」サイドにとって、商品の有用性・価値判断は、いっそう困難であることが予想されます。
このような、「いい商品なのか、そうでもない商品なのか」が判定困難な状態では「市場原理」は成り立ちにくい、ということです。
(2)再現性の欠如
「発達障害」を治療します・支援します、と言う時、通常それは長期にわたるトライアルとなります。そしてそれは、患者側にとって1回きりのものです。その効果も、それが通常の発達段階なのか、治療・支援のおかげなのか、わかりにくいのです。
つまり、「発達障害治療」という商品は、人生で1回しか購入の機会がない商品であり、しかも非常に個別性が強く隣人との比較が困難な商品、と言うことができます。結果、こういう商品については、どうしても売り手側の理論が強く反映されてしまいます。これでは市場原理は成り立ちにくい。
市場原理が成り立たない市場(売り手に優位性が高い市場)で、医療を自由に売っていいということになれば、売上は右肩上がりにどんどん増えていきそうです。冒頭の「発達障害ビジネス急増」の記事の裏には、そうした経済学的な背景があるのかもしれません。
以上のことは、がん治療(代替療法など)にも当てはまるし、もっと言えば、医療業界全体にも当てはまります。
まとめ
繰り返しますが、医療はビジネスには馴染みません。医療はもっと謙虚に、「過剰もなく不足もなく、真に患者さんの人生に貢献できるもの」を目指すべきで、もっと明確に「公」を目指すべきだと思います。
発達障害については、まだ医学的にもよくわかっていません。根本的治療もありません。彼らに必要なのは、周囲の理解と適切な支援だと思います。
「障害があっても、病気があっても、高齢になっても、地域のみんなで違いを認めあって笑って過ごすことができる豊かな社会」
そんな社会を考えると僕は、出生率日本一の徳之島注2や、総合病院がなくなったのに大きな健康被害もなく高齢者医療費を減らした夕張市のことに思いを馳せてしまいます。
このような離島や僻地では、自然な形で周囲の理解と適切な支援が存在しているのです。実は、そんな社会は結果として、低コストで子育てにやさしいのかもしれません。
それこそが、本格的な人口減少・少子高齢化を迎える日本が目指すべきところなのではないか。僕は今、そんなことを考えています。
注2:鹿児島県の徳之島にある伊仙町の平成20年~24年の合計特殊出生率(ベイズ推定値)は2.81で、“子宝日本一の島”として注目されています(出所:厚生労働省)。
※本稿は2017年9月24日初出の筆者のブログをリライトしたものです。
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