仮想通貨の”信用”がまた落ちる? 国家初の発行、ベネズエラ「ペトロ」の危うさ
LIMO / 2018年2月27日 21時25分
仮想通貨の”信用”がまた落ちる? 国家初の発行、ベネズエラ「ペトロ」の危うさ
ビットコインとの違いは何か
ベネズエラで世界初の国家による仮想通貨が発行され、話題を集めています。ただ、ビットコインとは発行の仕組みが大きく異なっているほか、背景には複雑な事情も見え隠れしています。
そこで今回は、ベネズエラが発行した仮想通貨「ペトロ」について、発行の背景や他の仮想通貨との違いなどについてまとめてみました。
ベネズエラが発行した仮想通貨「ペトロ」とは?
深刻な財政危機に陥っている南米ベネズエラのマドゥロ大統領は20日、原油を担保にした独自の仮想通貨「ペトロ」の発行を開始したと発表しました。
ベネズエラ政府によると、国家が仮想通貨を発行するのは世界で初めてで、1億ペトロを発行する予定です。今回は、発行上限の38.4%にあたる3840万ペトロを機関投資家向けに発行したとされています。
1ペトロあたり60ドルの売り出しを予定していましたが、人気の凋落により60%割引で販売された模様です。ベネズエラ政府は、今回の売り出し初日で7億3500万ドルを調達したと述べていますが、買い手の情報は明かされておらず、実際に取引があったかは不明です。
また、1ペトロはベネズエラ産原油1バレルを裏付けとするとしていますが、ペトロと原油との交換は保証されていません。現時点では不透明な部分も多く、実態が明らかとは言い難い状況です。
破綻状態のベネズエラ経済
ペトロ発行の背景にはベネズエラ経済の破綻が関係しているようです。
国際通貨基金(IMF)によると、2018年のベネズエラの国内総生産(GDP)成長率はマイナス15%、インフレ率は1万3000%と予想されており、深刻な経済危機下にあります。
ベネズエラは外貨収入の90%以上を原油の輸出に頼っていますが、汚職問題や生産設備の老朽化、膨大な債務などの影響で生産量は減少の一途を辿っています。今年1月の原油生産量は日量160万バレルと前年同月比で20%減少し、2003年の石油業界スト時を除くと過去約30年で最低の水準となっています。
こうした中、ベネズエラは1500億ドルを超える対外債務を抱えているとされており、昨年11月以降は一部債務の返済が不履行となりデフォルト状態が続いています。
文字通り“仮想”の通貨となる恐れも
ペトロ発行の“ミソ”は、ペトロの購入には法定通貨であればドルかユーロ、仮想通貨であればビットコインかイーサリアムに限定されている点に集約されているのかもしれません。
ベネズエラ国債の一部は既にデフォルト状態にありますが、借金の借り換えがほぼ不可能となっています。これには、トランプ大統領が昨年8月、べネズエラ政府と同国の国営石油会社PDVSA(国営ベネズエラ石油)との新規融資取引を禁止する経済制裁を課したことが大きく影響しています。
ベネズエラの通貨ボリバルはハイパーインフレによりほぼ無価値の状態にありますので、自国通貨ボリバルでの購入を禁止しているのは、資金調達の目的が債務返済のための外貨獲得にあることを匂わせています。
したがって、首尾よく資金調達ができたとしても、債務の返済に当てられて設備投資には回らない恐れがありそうです。
ただ、資金調達の成功も怪しいところです。米財務省はペトロの購入者は米経済制裁の対象になる可能性があると警告しており、今回の発行での大幅割引の一因とされています。
また、ベネズエラの憲法が国家の埋蔵原油を財政運営の保証として使用することを禁じているため、ベネズエラ議会はペトロの発行を違法だとしています。
したがって、マドゥロ政権が倒れた場合、あっさりと違法になり、交換が拒否される可能性も否めないでしょう。その場合、ペトロは文字通り“仮想”の通貨となる恐れもありそうです。
ビットコインとは何が違うのか?
ペトロにはまだ不明な点が多いことから断言はできませんが、ペトロをベネズエラが国家として管理するのであれば、ビットコインとは本質的なところで大きく異なる可能性あります。
仮想通貨の根幹となる「ブロックチェーン」には、大きく分けると「パブリックチェーン」と「プライベートチェーン」があり、ビットコインが前者であるのに対し、ペトロは後者に当たるからです。
一般に、パブリックチェーンには管理者が存在せず、誰からも許可を得ることなくネットワークに参加できます。また、お互いに信頼していない者同士でも安全に取引を行うことができるところに特徴があます。
プライベートチェーンでは、あえて管理者を置くことで、管理者の許可による特定の参加者によるネットワークとなります。プライベートチェーンではプロトコルの変更が比較的容易である点に警戒が必要かもしれません。
国家が発行する仮想通貨は、ざっくりといえば、法定通貨をプライベート型のブロックチェーンで管理すること、と言い換えることができます。
ビットコインは管理者のいないパブリックチェーンですが、ペトロは国家が運営するプライベートチェーンという点が大きな違いとなりそうです。
“信用”のない国家による仮想通貨発行が相次ぐ?
マドゥロ大統領はペトロの発行を発表した翌21日、金を裏付けとする仮想通貨「ペトロ・ゴールド」を来週導入すると発表しています。
コインチェック問題で再び“信用”に対する警戒感が強まっている仮想通貨市場にあって、国家が発行し、しかも実物資産の裏付けがあるというのは一見すると信用を高めているといえるでしょう。
ただし、ベネズエラの実情を見れば、ペトロの発行は自国通貨での資金調達が事実上不可能となった末の究極の選択であることがわかります。
こうした中、ベネズエラによるペトロの発行に触発されて、イランやトルコでも独自の仮想通貨発行が検討され始めたようですが、ベネズエラ同様、イランやトルコも資金調達難に陥っています。
2016年1月に緩和されたものの、イランは国際的な経済制裁下にあり、米トランプ政権は経済制裁の強化を探っています。
トルコでは景気減速で財政赤字と経常赤字の双子の赤字が拡大し、投資資金の国外流出でトルコリラが急落しています。また、シリア問題で米国との関係が悪化、人権問題では欧州との関係が悪化しており、国際的に孤立している点もベネズエラやイランと似ています。
今後、何らかの事情により資金調達が困難になった国から、独自の仮想通貨が発行される可能性は小さくないかもしれません。とはいえ、国家が発行主体となったからといって必ずしも仮想通貨の信用が高まるわけではない点には注意が必要となりそうです。
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