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トランプ大統領の通商政策が与える影響~なぜ株価が下落するのか?

LIMO / 2018年3月6日 6時45分

トランプ大統領の通商政策が与える影響~なぜ株価が下落するのか?

トランプ大統領の通商政策が与える影響~なぜ株価が下落するのか?

「柏原延行」のMarket View 2018年3月5日

皆さま こんにちは。アセットマネジメントOneで、チーフ・グローバル・ストラテジストを務めます柏原延行です。

3月1日の米国市場でダウ・ジョーンズ工業株価平均が400ドル程度下落した影響などを受け、3月2日の日経平均株価は、600円超下落し、ほぼ21,000円の水準となっています(執筆時点、3月2日12:00頃)。

ダウ・ジョーンズ工業株価平均の下落には、3月1日に米トランプ大統領が通商拡大法232条(安全保障を理由として輸入制限の実施を認める条項)に基づき、鉄鋼とアルミニウムの輸入制限を発動する方針を表明したことが背景にあります。

今回の輸入制限の発動は36年ぶりの措置であり、市場にサプライズを与えました。

36年ぶりの措置と聞くと、トランプ大統領が強引で無茶な政策の実施を計画していると感じ、それなら株価下落も仕方がないかと理解してしまいかねないのですが、私はこれからもトランプ大統領は新たな通商政策を実施すると予想しているため、もう少し、理論的に輸入制限が株価下落を生む理由を考えてみたいと思います。

まず、確認しておきたいことは、米国の「輸入した鉄鋼などを利用している企業や人」や「鉄鋼などの輸入者」は、(誰かに無理強いされたわけではなく)商取引として、輸入が有利であるから輸入を選択していること、すなわち輸入によってメリットを受ける主体が米国内に存在することです。

今回の輸入制限(規制)では、「米国の鉄鋼生産者など」はメリットを受ける一方で(雇用も拡大する?)、「輸入した鉄鋼などを利用し、製品を製造してきた企業・人(自動車産業もこの中に含まれると考えます)」などはダメージを受けるとの構図があります。

そして、経済全体に対するインパクトの大きさについて、「メリットを受ける主体」と「ダメージを受ける主体」のどちらがいっそう大きいかは簡単には判断することはできないと思われます。

したがって、米国株式市場が約400ドル下落した原因としては、「①サプライズ(驚き)な発表に伴う今後の通商政策への不透明感の増加(株は不透明感を嫌います)」、「②規制が経済活動の効率性を阻害し、成長率が鈍化するという懸念」、「③規制により鉄鋼などの値段が上昇し(輸入が制限されると少なくとも一時的には供給不足により、値段は上昇すると考えることが自然です)、米国経済全体のインフレ要因となり、長短金利の上昇を招き、成長の阻害要因としてはたらく」などのストーリーが考えられます。

それでは、次のステップとして、前述の①~③の原因の株価下落要因としての持続性を考えてみたいと思います。

まず、「①不透明感の増加」については、通常は時間の経過とともに、市場はその原因(材料)に慣れてくることが想定されます。たとえば、北朝鮮のミサイル・核兵器などの問題は、なんら変化がないにも関わらず、市場のマイナス要因として取り上げられることは、ひと頃に比べ少なくなっているように私は感じます。

しかし、2017年に米国の貿易赤字問題は明確な進展がありませんでした。このため、2018年は知的財産権の保護政策や北米自由貿易協定(NAFTA:North American Free Trade Agreement)などについて、これからも新たな政策が発表され、不透明感が増加するリスクには十分な注意が必要であると考えます。

次に、規制による「②効率性の阻害による成長の鈍化懸念」、「③インフレ懸念」に関しては、私は現段階では、さほど心配していません。

経済学では、「原則として(特に付加価値の高い財を生産する国において)自由貿易が経済にプラスに働くこと」や「安価な海外製品の輸入などにより、自由貿易が物価の安定をもたらす」ことを学びます。したがって、今回のような規制が経済の様々な分野に広く波及していけば、②や③のような懸念が顕在化することになります。

しかし、「①トランプ大統領は株価の継続的な下落や長期にわたる経済の減速をもたらす政策を採用するとは思えないこと(場合によっては、今回の発表によって、株価が上昇すると考えていた可能性すらあると考えています)」、「②米国は覇権国・基軸通貨国として、自由貿易の恩恵を受けている国であると私は考えており、個々の分野では規制を掛けることはあるものの、規制を幅広く経済全般に拡大するとは考えていない」ため、上記懸念が顕在化する可能性は限定的であると思います。

トランプ大統領の通商政策については、メインシナリオとしては、株価の継続的な下落要因にならないと考えていますが、注意が必要なことも確かであると考えます。

なお、今回は、図表がひとつもないコラムになったことを、お詫びさせていただきます。

(2018年3月2日 12:00執筆)

【当資料で使用している指数についての留意事項】
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