金融の原点回帰と新しい貸出モデル〜金融マンが生き残るための力量とは
LIMO / 2018年3月9日 21時20分
金融の原点回帰と新しい貸出モデル〜金融マンが生き残るための力量とは
個人自営業者向けローンの将来像〜金融の未来と働き方(3)
この地球上には無数の個人自営業者が存在していますが、日頃、途上国で働いていると、金融サービスの恩恵を受けられるか受けられないかで個人自営業者の人生に大きな分かれ目を感じる瞬間があります。
いまだ世界では途上国を中心として「不十分な金融アクセス」という大きな社会的課題がありますが、それに対し、従来、先進国中心に普及した金融ITイノベーションでどこまで対応できるのか、あるいはフィンテックなるものがどう抜本的なソリューションを提供し得るのでしょうか。
本稿では、個人自営業者向けのビジネスローンについて、その現状と将来像を考えてみたいと思います。
個人自営業者向けビジネスローンが圧倒的に不足する途上国
先進諸国では、金融機関における金融ITイノベーション、たとえばITを駆使した信用スコアリングモデルやIT会計等により、諸々の課題はあるにしても個人自営業者向けビジネスローンは相応に普及しています。
一方、多くの途上国では、いまだ金融ITイノベーション以前の状況です。たとえば、「フロンティア市場」と言われるミャンマーはキャッシュ依存経済で、信用創造や金融仲介機能が未成熟な段階にあります。
知り合いのミャンマー人の金融機関経営者から「ミャンマーは石器時代金融(Stone Age banking)だ」といったジョークを聞いたことがあります。半分冗談ではありましたが、それが現実なのかもしれません。
国際金融公社(IFC)の発表資料(2017年)によれば、世界の途上国全体で零細・中小企業(micro, small and medium enterprises, “MSME”)の資金ギャップ(潜在資金需要から融資残高を減じたもの)は5.2兆ドルで、6,500万事業者が資金面で障害があるとされています。
そのうち零細事業者(定義は従業員数4人以下)は7,000億ドル、5,600万事業者です。加えて、インフォーマル事業者(非登録事業者)には2.9兆ドルもの潜在資金需要があるとされています。つまり、潜在的に不足している資金はフォーマルな零細事業者とインフォーマルセクターを合わせて3.6兆ドルにも及びます。
解決策としてのマイクロファイナンスの限界
近年、世界各地で「マイクロファイナンス」の手法がクローズアップされ、ITを駆使したスコアリングモデルの導入も広がり、一定の役割を担っています。
しかし、マイクロファイナンスのビジネスモデルは、本質的には融資単価が小さいことからモニタリング・回収コストを賄うのに高コスト体質にならざるを得ません。
また、マイクロファイナンスによって、個人の生活や零細事業者の存続は救えたとしても事業として成長させるまでには至っていないのではないかとの議論もあります(マイクロファイナンスの世界も相当に深いので興味がある方は過去の研究論文などを参照していただければと思います)。
フィンテックの新たな試み
今、フィンテックを支える破壊的技術(disruptive technologies)の波は途上国にも押し寄せ、モバイルアクセス、インターネット、生体認証、ビッグデータ、AI等が活用可能な状態になりつつあります。
したがって、途上国においても今後は、先進国の金融ITイノベーションをそのまま途上国へ移転するのではなく、より大きな効果を得るべく、破壊的技術をベースとしたフィンテックをいかに駆使できるかが重要になってくるかと思います。
最もイメージしやすい技術が携帯電話とインターネットです。最近、フロンティア市場であるミャンマーでもスマホは急速に普及していますし、インターネットユーザー数は、2014年に200万人でしたが、現在は3,900万人超とも言われています。そして若者の多くはSNS、フェイスブック、オンラインゲームに夢中です。
最近ではP2P貸出事業者等が途上国でも認知されてきていますが、その与信審査は通常のスコアリング以外に、ビッグデータ分析を活用した将来の返済予測を試みています。
しかし、そのモデルやアルゴリズムがどれほど確かなのかはまだわかりませんし、某P2P貸出事業者では申込者の大多数が審査で却下されているようです。
結局、フィンテックといっても与信判断の妥当性がカギになってきます。この領域では、たとえば、マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ内のベンチャー企業にDistilled Analytics社(http://distilledanalytics.com/) がありますが、同社ではビッグデータ分析手法を活用した金融行動予測モデルを構築・検証しています。
また、零細事業者(や消費者)向け与信判断におけるAIの活用についても、多くの研究成果があります。今後、実務への適用を注視していきたいと思います。
金融の原点回帰の可能性
ビッグデータ分析やAIを活用した金融行動予測モデルといっても、結局、借入金の返済は人間がやることですから、時折、人間である個人自営業者がなぜ借金を返済するのかという素朴な疑問に立ち戻ることがあります。
やはり与信審査のカギは借入人が将来、多少の困難に直面しても返済を諦めずに努力し続けるかどうかです。それを担保するような貸出モデル、つまり従来の「厳格な審査」「不動産担保」や「第三者保証」などではなく、「社会的信用」や「絆」等をベースにした古臭い与信審査も再考の余地があるのではないかと直感しています。
特に、多くの途上国では、簿記・企業会計、信用情報システム、不動産登記制度、競売制度など、基本的な金融インフラが未整備です。結果、客観的な与信判断そのものが難しく、「担保主義」という不動産担保に過度に依存した金融慣行が蔓延せざるを得ない状況です。
そこでは従来型のITソリューションだけでは抜本的解決が難しく、不動産担保や保証に代わる何かが必要なのです。
今後のヒントになるような成功事例としては、たとえば徹底した支店への権限委譲によりコミュニティバンク化と高収益化を実現したスウェーデンのハンデルス銀行(https://www.handelsbanken.se/en/)(1871年設立、従業員11,819人、総資産1.9兆クローナ、1クローナ=12.8円)があります。
また、日本にも興味深い事例があります。300超もの地元の職業別コミュニティをファシリテートしている第一勧業信用組合(https://www.daiichikanshin.com/)(1965年設立、従業員364人、総資産2,318億円)です。
将来の方向性としては、金融機関や新興フィンテック企業が顧客目線を持ったコミュニティの一員として、エコ・システムの一つとして存在するような環境作りが望ましいのではないでしょうか。いわゆる旧態依然のエゴ・システム(ego-system)からエコ・システム(eco-system)への脱皮です。
今後、個人事業者向けの貸出領域においても、フィンテックは伝統的な与信審査モデル(担保・保証重視、過去の実績重視等々)の単なる効率化ツールではなく、与信審査そのものを根底から変革させる起爆剤になるかもしれません。
フィンテックありきではなく、21世紀の新しい貸出モデル、それはもしかすると伝統的な金融の良さを残しつつ進化した新モデルなのかもしれませんが、それを支えるフィンテック、ビッグデータやAI等の破壊的技術の最適活用が求められてくるのだと思います。
そして、先進国、途上国に関わらず、金融機関の職員・貸付担当者は、コミュニティの一員として、過去の業績数値を吟味する財務分析力というよりは、未来志向の企画力、ファシリテーション能力、アドバイス力のようなものを求められるようになるのはないでしょうか。
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
中小企業デットファイナンスの新潮流 第35回 当座貸越(2)
マイナビニュース / 2024年11月22日 8時0分
-
AIファイナンスのH.I.F.、ベンチャーデット保証 10月度取組報告
PR TIMES / 2024年11月19日 14時45分
-
M&Aの仲介 中小企業が安心できる環境に
読売新聞 / 2024年11月18日 5時0分
-
76%のフリーランスが収入の不安定さを懸念していると回答 フィンテック企業・GeNiE社との共同調査を実施
PR TIMES / 2024年11月6日 12時15分
-
民間版の世界銀行を目指す五常・アンド・カンパニー、175億円のシリーズFラウンド資金調達を完了。併せて、国内金融機関6社より159億円のデット調達を実施
PR TIMES / 2024年10月25日 11時45分
ランキング
-
1副業を探す人が知らない「看板広告」意外な儲け方 病院の看板広告をやけにみかける納得の理由
東洋経済オンライン / 2024年11月23日 19時0分
-
2【独自】所得減税、富裕層の適用制限案 「103万円の壁」引き上げで
共同通信 / 2024年11月23日 18時57分
-
3ローソンストア100「だけ弁当」第12弾は「イシイのミートボール」とコラボした「だけ弁当(イシイのミートボール)」
食品新聞 / 2024年11月23日 20時40分
-
4《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン / 2024年11月23日 16時15分
-
5ドーミーイン系4つ星ホテル「3300円朝食」に驚愕 コスパ最高、味も絶品!極上のモーニングがここに
東洋経済オンライン / 2024年11月23日 8時40分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください