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ついに開戦、米中貿易戦争~報復関税合戦は勝者なき戦いだが

LIMO / 2018年3月20日 21時20分

ついに開戦、米中貿易戦争~報復関税合戦は勝者なき戦いだが

ついに開戦、米中貿易戦争~報復関税合戦は勝者なき戦いだが

米国ではインフレ、中東情勢、ロシア疑惑を警戒

トランプ政権による対中制裁が相次いで発表されており、米中貿易戦争の火ぶたが切って落とされた模様です。世界経済への悪影響が懸念される中、米国では関税引き上げに伴う物価上昇への警戒が強まっているほか、中東情勢やロシア疑惑とのリンクにも注目が集まっているようです。

米中貿易戦争ついに開戦、米国が対中制裁を矢継ぎ早に発表

米中貿易戦争の火ぶたがいよいよ切って落とされたようです。

トランプ大統領は3月8日、鉄鋼に25%、アルミ二ウムに10%の輸入関税を導入する大統領令に署名しました。すべての国が適用の対象となりますが、標的は中国と見られています。

2017年の米国の対中貿易赤字額は3752億ドルで、トランプ大統領は中国に対し1000億ドルの赤字削減を求めているからです。

輸入関税とは別に、トランプ政権は中国による知的財産侵害や企業への技術移転強要への対抗措置として昨年8月から米通商法301条に基づく調査を進めており、高関税の導入などにより年600億ドルの制裁措置を検討中とされています。

さらに、これらの動きとは別に、米国際貿易委員会(ITC)は3月15日、中国製アルミホイルの輸入で米企業が損害を受けているとの最終決定をし、中国製品に対する制裁関税の適用が確定しています。反ダンピング関税は最大で106.9%、相殺関税は最大で80.97%となっています。

このほか、トランプ政権は1月23日に洗濯機と太陽光パネルに輸入関税をかける緊急輸入制限(セーフガード)を発動していますが、太陽光パネルは中国を念頭に置いた措置と考えられています。

中国からの輸入物価上昇に警戒感、利上げを後押し

報復関税をかけ合う貿易戦争には勝者はいないとされており、世界的な景気減速リスクが危惧されていますが、それと並行して米金融市場では物価に対する警戒感も強まっているようです。

米消費者物価指数(CPI)を財(コモディティ)とサービスに分けると、コモディティが37.4%、サービスは62.6%を占めています。ただ、6割強を占めるサービス価格が比較的安定しているのに対し、コモディティ価格は変動が大きいことから、物価動向のカギを握るのはコモディティ価格の動きといえそうです。

たとえば、サービス価格は2014年と2015年がともに2.5%上昇、2016年は3.1%上昇とやや上振れていますが、2017年は2.6%上昇に低下し、2017年2月現在も2.6%上昇とおおむね安定して2%台後半を推移しています。

一方、コモディティ価格は2014年が2.0%低下、2015年が2.1%低下、2016年が0.4%上昇、2017年が1.3%上昇、2017年2月現在は1.5%上昇と大きく振れています。

コモディティ価格は輸入物価とおおむね連動しており、その輸入物価は2014年が5.6%低下、2015年が8.3%低下、2016年が1.9%上昇、2017年が3.2%上昇、2017年2月現在が3.5%上昇となっています。

さらに、中国からの輸入物価を見ると、2015年、2016年がともに1.7%低下、2017年が0.1%低下、そして2017年2月は0.3%上昇とついにプラスサイドに浮上しています。

中国は米国最大の輸入国であり、輸入全体の約2割を占めていますので、中国への輸入関税が物価を押し上げる恐れがあるわけです。

近年の米インフレ率の低迷はコモディティ価格が弱かったことが影響しており、中国がデフレを輸出していると揶揄されてきました。ところが、中国からの輸入物価は既にプラスに転じており、歩調を合わせてコモディティ価格も上昇に転じて現在に至っています。

2月の米CPIは2.2%上昇とまだ落ち着いた数字となっていますが、輸入関税で物価上昇に拍車がかかった場合には、インフレ加速への警戒から利上げスピードも速まるのではないかと懸念されています。

輸入関税はリトマス紙~友なのか敵なのか

鉄鋼とアルミニウムの輸入関税では、いち早くカナダ、メキシコ、オーストラリアが除外されたことから、輸入関税と中東政策とがリンクしているのではないかとの思惑を生んでいます。

昨年12月、イスラエルの首都をエルサレムに認定した米国に撤回を求める国連決議が採択され、日本を含む128カ国が賛成。米国、イスラエルなど9カ国が反対、35カ国が棄権に回っています。

これに対しトランプ大統領が賛成した国への経済援助の停止を表明したほか、米政府は「米国は投票結果を決して忘れない」と強調しました。

国連決議では、カナダ、メキシコ、オーストラリアが棄権に回っていたことから、今回の適用除外は米国が“投票結果を忘れていない”ことを匂わせているわけです。

トランプ大統領の中東政策は、エルサレムの首都認定やイランとの核合意見直しなど、さまざまな点で日欧とは見解の相違が見られます。

中東問題に限った話ではありませんが、米国からの譲歩を引き出すには、まずは中東問題での協調が求められることを覚悟する必要があるのかもしれません。

極論ではありますが、輸入関税は何があっても米国と行動を共にする友であるのか、それとも敵であるのかのリトマス試験紙となる恐れもありそうです。

ロシア疑惑の煙幕?

こうした米国第一主義の打ち上げ花火が続く中、ロシア疑惑の捜査がトランプ大統領本人へと近づいている模様です。

ニューヨーク・タイムズ紙は3月15日、モラー特別検察官がトランプ氏が経営していた「トランプ・オーガニゼーション」に捜査令状を出したと報じています。

同社は2015年にモスクワにトランプタワーの建設を計画していたとされており、モラー氏は同社の活動と大統領選挙との関係を調べているようです。

また、2月23日にはトランプ陣営の元選対本部長ポール・マナフォート被告の右腕だったリック・ゲーツ被告が司法取引に応じています。

トランプ陣営からこれまでに起訴された4人のうち、マナフォート被告を除く3人が司法取引に応じており、司法取引を拒んでいるマナフォート被告が翻意するのかどうかが注目されています。

ロシア疑惑には3つの柱があり、1つは大統領選挙におけるロシアとトランプ陣営の共謀の有無です。ロシア疑惑の根幹部分ではありますが、立証は困難と見られています。

2つ目が司法妨害の有無です。昨年5月にコミー米連邦捜査局(FBI)長官(当時)が解任され、この解任が司法妨害に当たるのではないかと見られています。

さらに、今年1月にはコミー氏の腹心であったマケイブFBI副長官が辞任しており、トランプ大統領からの圧力との憶測が流れています。

トランプ大統領はかねてからマケイブ氏に対する批判を続けていましたので、同氏の辞任によりトランプ大統領への司法妨害の嫌疑がますます強まっています。

3つ目がトランプ氏およびその周辺人物とロシアとの不透明なビジネスであり、今回の捜査令状やゲーツ被告、マナフォート被告の関与が疑われています。

また、捜査令状が明るみに出た15日には、トランプ氏の長男ジュニア氏の離婚が伝えられています。関連は定かではありませんが、絶妙なタイミングであったことからトランプ一族への捜査の手が迫っているとの憶測を呼んだようです。

弾劾の可能性がある司法妨害の疑いに加え、一族が一網打尽となる恐れがある脱税や資金洗浄など不適切なビジネスに対する嫌疑についてもトランプ包囲網が狭まっているようで、モラー氏解任のうわさは後を絶ちません。

ややうがった見方ではありますが、トランプ大統領の対中強硬路線をはじめとする一連の外交政策は国民の目を海外に向けさせること、すなわちロシア疑惑への煙幕との見方もあるわけです。

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