人材育成よりもAI導入? フィンテックは途上国で何ができるか
LIMO / 2018年3月23日 20時45分
人材育成よりもAI導入? フィンテックは途上国で何ができるか
途上国SMEローンの課題〜金融の未来と働き方(4)
途上国では「金融包摂」という政策的な観点から、金融アクセスが困難な零細事業者に注目が集まっています。その一方、企業登録しているフォーマルなSME(小・中規模企業)、特に中規模企業は、すでに銀行取引もあって心配ないだろうと思われています。
ところが、世界の途上国全体でフォーマルなマイクロ企業&SMEの資金ギャップ(潜在資金需要から融資残高を差し引いた金額)は5.2兆ドルあり、資金面で障害がある6,500万事業者のうちSMEは900万社と少ないものの、資金ギャップ額は4.5兆ドルとその大半を占めています(出所:国際金融公社、2017年)。
この大きな資金ギャップの中味は何でしょうか。フィンテックは抜本的なソリューションとなり得るのでしょうか。本稿ではSME向けローンに焦点を当てたいと思います。
問題は中長期設備資金の不足
私自身の途上国の現場感覚としては、一つの大きな問題は「中長期設備資金の不足」です。
途上国の金融機関でもスコアリング等、業務効率向上により短期運転資金は融資しやすくなっていますが、それでも「担保主義」といわれる貸出実務が横行しています。
融資の現場では、多くのSMEが「担保不足」を理由に新規融資を断られ、あるいは過大な担保物件を要求されます(例:融資額の2〜3倍の市場価値を有する不動産)。成長意欲のあるSMEが「担保不足」のために事業を拡大したくても設備の為の資金調達ができないわけです。
ちなみに、先進国からきた金融マンが驚くことがありますが、インドシナ半島からインドネシアあたりに共通する担保実務の一つとして、銀行は融資のために担保設定した不動産物件の権利証原本を支店の金庫に保管します。もともと登記制度が未整備なので登記所で権利関係が安心して確認できないためです。
銀行は後順位で担保設定できないため、一つの不動産には一つの銀行しか担保設定できず、結果、複数の不動産を持たないSMEでは取引銀行が一つになります。
途上国で蔓延する担保主義は一つの現象
現地政府や中央銀行、あるいは国際援助機関の方々と話すときに、よく勘違いがあります。つまり、金融機関はSME向けの貸出に際して「担保主義」であり、それが元凶だから政策金融で無担保ローン制度を作ろうという政策です。
これは担保主義が問題だという誤った問題設定をしてしまうために起こる勘違いで、原因をよく考えずに結果だけを見ています。あたかも医者が、患者に熱があるからといって、熱の原因を探らずに解熱剤を処方するようなものです。
実は「担保主義」は現象(結果)であって、問題(原因)は金融インフラの未整備です。つまり、貸出・審査実務を支える金融法制・インフラが脆弱なのです。
たとえば、金利等の規制が厳しく信用リスクが高いSMEへの貸出が難しい、信用情報機関がない、公的な信用保証制度がない、不動産登記制度や担保実行する関連法令が未整備で実効性が低い、SMEの簿記会計が普及しておらず財務分析に必要な数値が確認できない等々です。
中長期設備資金にかかるSME金融ソリューションの模索
私自身、振り返れば、途上国の「中長期設備資金の不足」という問題に対し、先進国でやってきた伝統的な金融モデルやITイノベーションを途上国へ技術移転させようとすることが多くありました。
もちろん金融制度は各地域や国の社会・経済・文化システムの中で形成された極めてローカルなものですので、先進国で機能したモデルをある程度は修正して、埋め込もうとはしました。
しかし、まだSME向け中長期設備ローンにおける「担保主義」という大きな壁を打ち砕くようなソリューションはありません。このことは国・地域によって程度の差はありますが、途上国に限らず先進国でも同じです。
先進国では、在庫担保、売掛債権担保(ABL)、政策金融機関による無担保ローン制度等がありますので進んでいるようにも見えますが、SME向け中長期設備ローンはそう簡単ではありません。
緊急措置としての政策金融を検討するにしても、多くの途上国では、財政事情が厳しくSME向け政策金融制度を作るのも限界があります。また、キャッシュ依存の経済システムの中で銀行による信用創造も機能していないことがあります。
たとえば、国際機関や支援国が支援対象国に100億円の予算を投入しても、SME向け与信残高が100億円増えるだけで、信用創造の循環にはなかなか至りません。大きなインパクト効果を得ようとすれば税金をいくら投入しても足りないのです。
フィンテックは根本的なソリューションとなり得るか?
過去、途上国では無数のSME金融支援プロジェクトが実施されてきましたが、前述した通り、いまだ途上国のフォーマルなSMEには4.5兆ドルもの資金ギャップがあると言われています。
そこで、従来の金融ITイノベーション、政策金融措置とは別に、フィンテックや、それを支える破壊的技術を駆使して何とかならないか。これが金融の未来に向けた1つの大きなテーマだと思います。
SME向け中長期設備ローンに着目して3つの可能性を考えてみますと、まず、第1に、中長期にわたる返済可能性の吟味におけるデータ分析手法の活用です。
長年、SME向け中長期貸出の与信判断は人間の高度な判断能力が求められる領域と言われてきましたが、限定された条件下、一定のサンプル数があれば、それはAIの強い領域かと思います。
機械学習(Machine Learning, ML)を駆使して金融行動予測モデルを作り出すことは有望です。P2P貸出業者などではデータ分析手法を駆使してMLがリスクの高い顧客を予測する等、すでに小口短期ローンの領域では多くの研究成果や実務もありますが、比較的大きな金額の中長期ローンに適したモデルが必要です。
第2に、ビジネスプランの効果予測(含むマーケット需要予測)や、それを踏まえた統合的な与信判断における人工知能(AI)の活用です。
ビジネスプランの効果予測やそれを踏まえた統合的な与信判断は人間にしかできないことなのか、それともAIが自動的にできることなのか、という問題がありますが、この領域は人間の判断能力や経験知とAIの知が融合して成り立つ領域なのではないかと想像しています。
第3に、財務・ビジネス助言業務における人口知能(AI)およびロボット工学(robotics)の活用です。
この領域は、マクロデータ、ビッグデータの有効活用をベースにしてパターン化しやすいものかと思いますので、アドバイス業務がロボットにより遂行されるようになりそうです。
これらは、従来、金融機関に働く専門家に頼ってきた領域ですが、途上国では研修等によってすぐ人間が身につけられるようなスキルではありません。即効性が求められる途上国では、今後、時間がかかる人材育成というアプローチよりはAI活用のアプローチが必要なのかもしれません。
なお、専門家の経験知に依存する従来型システムですと、専門家がいなくなれば経験知がなくなりますが、AIをベースとしたシステム化ができればそれは永久に蓄積・保存して継続活用できるようになりますので、この点、大きなメリットです。金融の専門家として長年やってきた方々には受け入れ難いことかもしれませんが、人間がやるより効率的なのです。
そうした金融の未来が来たら、銀行員がやるべきことは、AIやロボット工学をある程度理解した上で、機械が提供する与信判断や助言内容を理解すること、また、対顧客サービスにおいて顧客が理解できないことがあれば分かりやすく解説してあげることなどでしょう。
まだAIは、なぜその結論になるのかの説明能力が弱いので、そこが改善するまでは、人間がかなりカバーしなければならないでしょう。
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