仮に、100円超の円高が進展した場合の対応策は?(その3)
LIMO / 2018年3月27日 16時15分
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仮に、100円超の円高が進展した場合の対応策は?(その3)
「柏原延行」のMarket View 2018年3月26日
皆さま こんにちは。アセットマネジメントOneで、チーフ・グローバル・ストラテジストを務めます柏原延行です。
これまで本稿の(その1(http://www.toushin-1.jp/articles/-/5479))、(その2(http://www.toushin-1.jp/articles/-/5529))では、100円を超えるような円高が発生した場合の政府・日銀の対策として、「①介入」、「②日銀による追加緩和」、「③(通商問題に対する)政治的なリーダーシップの発揮」という3つの手段をご説明しました。
1つめの介入に関しては、外国政府との関係の中で、(短期的・急激な変動でもないかぎり)使いにくいと考えていることをご説明しました。そして、2つめの追加緩和は、(2017年には市場を動かす主な材料と考えていた「日米金利差に対する思惑」を復活させるため)有効な手段になると考えていることをお話させていただきました。
それでは、本日は政治的なリーダーシップに関してご説明したいと考えます。
まず、前提として米国の通商問題を巡る状況を整理したいと考えます。米国の貿易は輸出額と比較して輸入額が大きい状態、いわゆる貿易赤字が続いています(赤字といいますが、損失が発生しているわけではありません)。
そして、2017年の米国の貿易赤字額(モノ:Goods)は、8,112億ドル(105円換算で約85兆円)となり、前年比8%程度増加しています(図表1)。
図表1:米国貿易赤字額(モノ)が多い上位4カ国(2017年)
![](/mwimgs/c/4/-/img_c450deca4f393adadd1651cbf30911c468600.jpg)
出所:米商務省ホームページ掲載データを基にアセットマネジメントOneが作成。2018年3月7日発表データ。
図表1の国別の割合、および前年からの増減率を見ると、以下の特徴が読み取れます。
まず、貿易赤字の相手国としては、中国、メキシコ、日本、ドイツの順で、かつその割合は中国が約5割、メキシコ、日本、ドイツが約1割となっています 。次に、中国とメキシコに対する米国の貿易赤字額は8%程度増加している一方、日本、ドイツに対する赤字額は(わずかながらも)減少しています。
わが国の対米貿易赤字は697億ドル(105円換算で、約7兆円)です(米国商務省ホームページから)。そして、わが国の貿易データを見ると、(日本から)米国への輸出は約14兆円、米国からの輸入が約7兆円です。そして、輸出約14兆円のうち、「自動車」、「自動車の部分品」で約5兆円を占めます(税関ホームページから、2016年)。
このような状況を踏まえ、本日の主題である円高への3つめの対応策、具体的には、「(通商問題に対する)政治的リーダーシップの発揮」について、考えたいと思います。
米国の通商問題の本丸は、貿易赤字の金額が大きく、かつ増加傾向にある中国であることは明白であると思われます。そして、米国と中国は安全保障上の同盟関係にはありません。
一方で、わが国は、米国と同盟関係にある上、2017年の赤字幅は前年比で増加していません。ただし、自動車という製品は、米国市民にとって身近な製品であり、自動車の大きな輸入超過に対する施策は「製造業を取り戻す」という主張の中で、象徴的な意味が含まれる可能性があります。
また、トランプ大統領が通商問題にならび、2018年に力を入れる政策は、インフラ投資であると思われますが、減税の実施などにより、政府に使えるお金が十分にあるとはいえません。
上記の状況を踏まえ、日本としては、①自動車に関連して、米国内の雇用を促進する施策(例:工場の規模拡大など)、②米国から日本への輸入の拡大施策(例:航空機・エネルギーなどの購入計画)、③インフラ投資に対する貢献施策(例:インフラへ投資する基金への出資(円金利よりも高い配当があることが前提))などの政策パッケージを官民一体となって提案することで、米国と日本の間の通商問題を沈静化させる「政治的なリーダーシップが発揮できる」と効果的な円高対策になると考えます。
トランプ政権の主要人物が相次いで政権を離れるとのニュースが、通商問題に対する懸念と相俟って、市場を不安定化させています。また、わが国でも、政治的な混乱の終息時期が明確でなく、足元での市場は悪材料に脆弱な状況にあり、いましばらく不安定な状況が続く可能性が高いと考えます。
ただし、トランプ大統領も、株価の持続的な下落を招くような政策は望んでいないと私は考えており、中長期的な視野に立った投資が重要であると考えます。
(2018年3月23日 9:00執筆)
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