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社員を搾取する「ブラック企業」に投資したら儲かるの?

LIMO / 2018年3月30日 21時20分

社員を搾取する「ブラック企業」に投資したら儲かるの?

社員を搾取する「ブラック企業」に投資したら儲かるの?

労災状況の開示が遅れている日本企業

「ブラック企業に投資したいですか?」

ブラック企業の定義をグーグルで調べてみると、「長時間労働」「残業代未払い」「違法労働」「パワハラ」「社員使い捨て」等の言葉が出てきます。

当たり前な話かもしれませんが、「ブラック企業で働きたいですか」と聞かれて、「はい」と応える人は、おそらくほとんどいないと思います。普通、どうせ働くなら、働いた分だけ正当な対価をもらいたいと思いますよね。それなのに、ブラック企業は、社員を搾取して、経営者が荒稼ぎしているようなイメージが浮かびます。「社畜」なんていう言葉も存在しているくらいです。

では、「ブラック企業に投資したいですか」と聞かれたらどうでしょうか。「働きたいか」に比べて、「投資したいか」と聞かれると、答えを出すのは結構難しいのではないでしょうか。これが今回のテーマです。少し頭を働かせてみましょう。

ブラック企業は、社員を搾取して荒稼ぎをしている企業だとすると、搾取した分だけ利益が出ていて儲かりそうな臭いもします。ただ、その一方で、ブラック企業だということがテレビやSNSで話題になると、ネガティブなイメージが定着して経営が傾いたりするかもしれません。

この点、投資のプロと言われる機関投資家、とりわけ海外の機関投資家はどう考えているのでしょうか。

機関投資家から見たブラック企業

機関投資家にとって、ブラック企業は比較的新しいテーマです。というのも、従来、機関投資家が投資判断で見ているのは、その会社の売上や利益などの業績だけ。利益が増えていれば有望株。利益が減っていれば不安視。その会社の中で社員がどう働いているかなどには関心が向いていなかったからです。

ところが、投資家の期待に応えようと、2000年頃から日本企業にとって「株主重視」「売上より利益」「利益率改善」が重大なキーフレーズになっていきます。

そこで矢面に立ったのが人件費でした。日本企業はいかに人件費を抑え、利益を捻出するかに注力していきます。結果、日本人の給与水準は下落。国税庁の「民間給与実態調査」という統計でも、1998年には420万円ほどだった平均給与は、今は360万円ほどになっています。

シンプルに言えば、人件費を抑え利益を増やすという慣行が、ブラック企業が生まれる土壌を作り出していったことになります。

こう整理すると、機関投資家にとってブラック企業は良い投資先のように思えます。しかし、最近、機関投資家の間でブラック企業をいち早く察知し、投資を避けようという動きが出てきました。彼らには、ブラック企業が「投資機会」ではなく、「投資リスク」と映るようになってきたからです。

ブラック企業の投資上の問題点

2017年7月、機関投資家79団体により、企業の就業規則や労働慣行等を細かくチェックし、労働リスクを把握するための国際イニシアチブ「WDI」が発足。79団体の運用資産の総額は8兆米ドル、約900兆円にもなります。

ここには英シュローダーズ、仏アムンディ、仏ナティクシス、英HSBCアセット・マネジメント、仏アクサ・インベストメント・マネージャーズ、英リーガル・アンド・ゼネラル・インベストメント・マネジメント、蘭APG等、欧州の運用大手企業が多数参加を表明しました。

WDIの動きを一言で言うと、参加企業が協働して上場企業に質問票を送り、労働情報を細かく開示することを求めるというものです。当面は英国の大手上場企業だけが対象ですが、順次主要国に拡大していく予定です。

では、なぜ機関投資家にとってブラック企業が「投資リスク」と映るようになってきたのか。それは、ブラック企業は短期的には利益が上がることもあるかもしれないが、長期的には成長は望めないと思われてきているからです。

機械化や自動化が進む中、人材にはスキルの高度化が求められてきています。しかし、過酷な労働環境を迫るため従業員が定着しない企業には、知見の蓄積が望めないというわけです。

企業にとって労災状況の開示が重要に

このことは、少子化が進む日本のような国ではなおさら懸念されます。すでに、運送業や小売業、飲食業では人手不足のために事業拡大できない、もしくは営業時間を縮小するところまで出てきています。ブラック企業では将来、いっそうの人手不足に陥るリスクが顕在化するでしょう。こうしたリスクを、海外の機関投資家はいち早く察知しようとしています。

また、海外の機関投資家が目を光らせているのは、一部の”特殊な”ブラック企業だけではありません。日本の大手企業でも、労災事故が発生したり、うつ病等の休職者が出ていたりする企業が少なくありません。

最近、このような状況を改善する姿勢を明確に示すため、自主的に労災状況の開示を行うグローバル企業が増えてきています。残念ながら、日本では労災状況の開示を実施している企業は多くはありません。しかし、海外の機関投資家は、開示できないということは、リスクを抱えているのではないかと疑い始めていることには留意すべきです。

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