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経済学部の卒業生は役に立つのか

LIMO / 2018年4月5日 21時20分

経済学部の卒業生は役に立つのか

経済学部の卒業生は役に立つのか

経済学を一つだけ学ぶなら「合成の誤謬」がオススメ

経済学を学んだからといって、経済が理解できたと思ってはいけないが、経済学を学ぶこと自体には価値がある、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は説きます。

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新年度になり、新入社員研修で「景気、経済の見方」といった講義を担当する時期を迎えました。その冒頭で筆者は「大学で経済学を学んだ人も多いと思いますが、経済学を学んだからと言って、経済がわかったと思ってはいけません。でも、経済学を学んだことは無駄ではありませんから、がっかりしないでください」と言います。今回は、その理由をご説明します。

経済学の単純化の仮定は極端すぎ

ニュートンの法則を覚えていますか? 「引力も空気抵抗もなければ、投げたボールはまっすぐ飛んでいく」といったものです。これでは使えませんね(笑)。でも、物理現象は単純ですから、「実際には引力と空気抵抗があるから・・」という応用編にすぐ移れて、ロケットも飛ばせるわけです。

それに比べると、経済は複雑です。そこで、ニュートン並みの極端な単純化の仮定を置いて議論をするだけでも十分大変です。どんな仮定が置かれているかというと、「人々はなんでも知っていて、しかも合理的に行動する」という仮定です。

したがって、「減税をすると、人々は財政赤字が膨らんだことを知り、将来増税されると思うので、それに備えて貯蓄に励むようになる。したがって、減税が消費を増やして景気を刺激することはない」といった議論を大真面目で繰り広げるわけです。おかしいですよね(笑)。

だからといって、経済学者に「あなたはまさか、衝動買いなどしていませんよね?」と聞いてはいけませんよ。不機嫌な顔で「そうしたことは、経済学が発展していく間に考慮されるようになっていくのだよ」と諭されてしまいますから。

経済学に最も欠けているのは、心理学とのコラボレーションでしょう。最近になってようやく「行動経済学」という分野が脚光を浴びるようになり、昨年度のノーベル経済学賞を受賞しました。ただ、そのレベルは「人間は合理的に行動しないものである」ということを証明した、というものです。そんなことは、ノーベル賞学者に教わらなくても知っています(笑)。

というわけで、経済学と心理学のコラボレーションによって、経済学が使えるレベルに達するには100年は必要だと思われます。

それなのに、経済学者たちは「経済学も学ばないで経済政策を論じる人々がいるのはケシカランことだ」と、筆者たち「景気の予想屋」を批判します。「予想屋たちは勘ピューターだ」というのです。もちろん予想屋は経済学者のことを「理路整然と間違える人々」と呼んでいますが(笑)。

経済学を学ぶと賢くなれる

経済学は、非常に精緻な学問です。しっかりとした仮定のもとで、精緻な論理を組み立てると、こういうことが言える(たとえば減税は景気を回復させない、等々)ということを論じるわけです。

非現実的な仮定を置いて議論するということは、常識に囚われてはいけないわけで、純粋に理論的な正しさを追求するわけです。これは、非常に良い頭の訓練になります。要するに、経済学を学ぶと頭が良くなるわけです。

経済学部出身者が「経済学は世の中に出てから役に立たないのか」とがっかりしているとすれば、それは間違いかもしれません。法学部で学んだことも(法律家にならない限り)世の中で役に立つとは思われないからです。

ちなみに筆者は大学の法学部を卒業して、銀行で24年間働きましたが、法学部で習ったことで役立ったことはほとんどありません。法学部では、理屈っぽいことばかり教えられて、実務で役立つような知識(たとえば道路交通法等々)は教わらないからです。

それでも、法学部や経済学部の出身者を銀行等が採用するのは、法律や経済を学んだことで、物事を論理的に考える訓練ができているという点を評価してくれているのでしょうね。ということは、「経済学部卒は世の中で役に立つ」ということです。自信を持ちましょう。

経済学部を出ていないけれど、経済学を学んで賢くなりたい人は、今からでも経済学を勉強してみましょう。市販の教科書が難しいと感じる人は、まず入り口として拙稿『一番わかりやすい経済学入門(https://ameblo.jp/kimiyoshi-tsukasaki/entry-12340958319.html)』をご覧いただければ幸いです。

経済学を一つだけ学ぶなら「合成の誤謬」が刺激的

経済学で学ぶことは数多くありますが、一つだけ学ぶなら、筆者のオススメは「合成の誤謬」です。

劇場火災の時に皆が出口に向かって走ると大混乱が起きるわけですが、皆が「個々人にとって最も正しいこと」をしているので、劇場管理人としてはこれを止めるのが大変難しいのです。そしてそれ以前に、劇場火災が起きてみないと何が起きるのか予想するのが難しいのです。

同様のことが、銀行の取り付け騒ぎにも株価の暴落にも言えます。「皆が豊かになろうと思って倹約すると、物が売れ残って倒産する企業が増えて皆が貧しくなる」ということも起こり得ます。「では、どうすれば良いのだ」と言われると、劇場管理人と同様に悩ましいですが。

ちなみに、経済学者たちの中にも「金融危機に経済学が対応できていない」ことを問題視している人は多いようです。詳述はしませんが、筆者に言わせれば、金融危機の本質は劇場火災と同じ「合成の誤謬」だと思います。

この点について、よろしければ拙稿『合成の誤謬(https://ameblo.jp/kimiyoshi-tsukasaki/entry-12340959793.html)』をご覧いただければ幸いです。

なお、本稿は厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる可能性があります。ご了承ください。

<<筆者のこれまでの記事はこちらから(http://www.toushin-1.jp/search/author/%E5%A1%9A%E5%B4%8E%20%E5%85%AC%E7%BE%A9)>>

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