サムスンが青色燐光発光材料の劣化メカニズムを解明
LIMO / 2018年4月4日 11時40分
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サムスンが青色燐光発光材料の劣化メカニズムを解明
有機ELの「フル燐光」実現なるか
サムスン電子総合技術院と梨花女子大学(韓国ソウル市)の研究チームは、有機ELの青色燐光発光材料の寿命が低下する劣化メカニズムを解明し、これを改善できる発光材料の設計手法を見出したと発表した。これが商用化されれば、燐光発光材料で赤緑青(RGB)の3原色が揃うことになり、有機ELのディスプレーや照明パネルの性能向上につながると期待される。
発表によると、両者は青色燐光発光材料の分解経路を分析するなかで、燐光を構成する要素間の電子遷移過程で形成された電荷分離種が劣化を加速させるというメカニズムを確認した。さらに、電荷分離種が消滅する速度に応じて最大数十倍の寿命の差が発生することを確認したほか、電荷分離種をできるだけ早く消滅させて寿命を延ばすことができる素材の結合構造も提示することができた。
梨花女子大のユ・ヨンミン教授は「青色有機EL素子の寿命が短い原因を説明する新しい化学メカニズムを提示したことに意義があり、このメカニズムは有機トランジスタなどの寿命を理解することにも使うことができる」と述べた。また、サムスン電子総合技術院は「今後さらなる研究を通じて劣化を最小限に抑える青色燐光材料を探索し、これを実際のシステムに適用することが最終目標」とコメントした。
現時点で青色発光材料の商用化は蛍光のみ
有機EL発光材料は、蛍光材料を第1世代、燐光材料を第2世代と呼ぶ。蛍光材料は性能や寿命に優れているが、理論上、流した電気の25%しか光に変換できない。一方、燐光材料は理論上100%光に変換できるが、レアメタルを使用するため蛍光材料に比べて高価だ。これに加えて近年は、電気を100%光に変換できるうえ、レアメタルなどを使用しないため安価な第3世代の材料「熱活性化遅延蛍光(TADF)材料」の研究開発が世界中の化学メーカーおよび研究機関で活発化している。
しかし、青色発光材料に関しては、現在のところ蛍光材料でしか実用化できていない。青いバラやチューリップを開発するのが難しいのと同様、深みのある青で長寿命(電気を流し続けても発光効率や色味が落ちにくい)の青色発光材料を燐光やTADFで実現するのは極めて難しいのだ。
現状では「実用化に近い寿命を実現できたとしても、色味はまだスカイブルーに近いレベル」(材料メーカー研究者)にとどまっており、赤色と緑色との性能差がディスプレー各社の悩みの種になっている。世界最大の有機EL燐光発光材料メーカーである米ユニバーサルディスプレイコーポレーション(UDC)は、青色の燐光発光材料について「商用化に近づいている」とは述べているものの、具体的な時期については明言できていない。
こうした状況にあるため、現在量産されているスマートフォンの有機ELディスプレーには、一般的に赤色と緑色の発光材料には燐光材料、青色には蛍光材料がそれぞれ使用されている。
商用化に近い独サイノラの青色TADF
現在のところ商用化に最も近そうなのが、TADFの青色発光材料だ。ドイツの有機材料ベンチャーであるサイノラ(Cynora)は2003年に独アーヘン工科大学からのスピンアウトで設立され、有機EL材料の開発をメーンに事業を展開してきた。16年末、「17年末までに青色TADF発光材料を商用化する」と表明し、17年5月にはシリーズBとしてサムスン傘下の投資会社サムスンベンチャーズ、および有機ELディスプレーメーカーの韓国LGディスプレー(LGD)から総額2500万ユーロの資金調達を実施した。
サイノラは、青色TADF発光材料に続き、18年に緑色TADF発光材料、19年までに赤色TADF発光材料も実現し、すべての発光材料をTADFで実現することを目標に置いている。先行して開発した青色TADF発光材料は、LGDが近日中にテレビ用有機ELパネルに採用する考えではないかと噂されている。
サムスンは材料開発でも先駆者となるか
RGB発光材料をすべて燐光で揃える「フル燐光」が先か、TADFで揃える「フルTADF」が先か、現状では材料メーカーのさらなる開発成果を待たねばならないが、サムスン電子総合技術院と梨花女子大の成果が商用化に近いものであれば画期的だ。
サムスンは13年にドイツの有機EL発光材料メーカーであるノバレッド(Novaled)を買収しており、グループ企業のサムスンSDIと緑色燐光発光材料を共同開発して自社のスマホ「Galaxy」シリーズに採用した実績も持つ。スマホ用有機ELディスプレー市場で90%以上の世界シェアを持つサムスンが、発光材料の開発でも専業他社に先駆けるとなれば、有機EL市場におけるサムスンの存在感は今以上に高まるだろう。
(津村明宏)
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