トヨタは全く燃料電池車量産をあきらめてはいない
LIMO / 2018年4月5日 11時45分
トヨタは全く燃料電池車量産をあきらめてはいない
EVブームの中で着々準備、新型MIRAIは2020年に300万円台で勝負か
次世代自動車を巡る報道が毎日のように各紙の紙面を賑わせている。夢の自動走行運転に向けて世界中で様々な動きがあるが、良いことばかりではない。
3月23日にはテスラの勝負製品であるモデルXの衝突事故で運転手が死亡し、株価は一気に8.2%安、9.2%安の連続の大幅安となった。テスラ関連では、この前にもフロリダ州で自動運転中の死亡事故が発生している。これまでフィーバーを巻き起こしてきたウーバーもまた、3月18日に自動運転車が歩行者をはねて死亡させる事故を起こしている。
自動運転と一口で言うが、絶対の生命の安全は保証されないわけで、ドイツのアウディはレベル3の自動運転について見直しを始めている。国際的なルール作りも難航している。自動運転による死亡事故の場合、責任の所在がどこにあるのかを巡っては、現行の法制度では対応が不可能なのだ。
自動運転に立ちはだかる安全性、独自路線で挑むトヨタ
さて、日本の自動車メーカーにとって絶対の哲学となっているのは、「生命の安全が最優先」ということだ。何しろ日本の交通事故死者数は20年前の半分を大きく下回る年間3000人台に入っており、もはや世界で右に出るものがいないほどの超高齢社会に突入しているにもかかわらず、減少し続けている。機能やスタイル、さらには運転の快適さなども重視するが、とにもかくにも安全走行と死亡事故回避が日本勢の合言葉となっている。
世界ではエコカーブームが巻き起こっており、その主役は何といってもEVだ。ドイツやフランスは、ガソリンエンジン車を作らない方向にカーブを切った。そして中国はまさにEV一色であり、2025年までに700万台のEV実現に向けてひた走っている。米国勢もまたEVについては徹底的に力を注いでいる。そうした中で、日本を代表する自動車メーカーであるトヨタのスタンスは注目に値する。
トヨタもまた自動運転については総力戦で臨んでおり、1000人規模の技術者を投入し、人工知能を活用した自動運転開発に全力を挙げている。また、3000億円を投じて新しいテストコースの建設にも踏み切る。
しかし重要なことは、20年に投入されるといわれるトヨタ初のEVはリチウムイオン電池を使わないという点だ。最も安全性に優れるとされる全固体電池を採用し、生命の安全を前面に出した戦略で進めていく。
東京五輪に合わせて新型MIRAI発売へ
また一方で、EVブームの陰で一気に人気が下がっている燃料電池車についても水面下でこれこそエコカーの本命と認識し、新型MIRAIの開発に持てる力を結集している。グループ会社の豊田合成は三重県いなべ市に新工場を建設しているが、これは水素タンクを量産する工場だ。徹底的なコストダウンを進めるべく、資材および電子デバイスの低コスト化にも取り組んでいる。今のところは20年の東京オリンピックに合わせて、何と市場価格300万円台の新型MIRAIを発表する考えがあるとみられている。
燃料電池車についてはトヨタだけではなく、日本勢ではホンダ、韓国勢では現代自動車がかなり力を入れて新型タイプを開発している。都では東京オリンピックにおいて、選手村から各競技会場に選手を運ぶ自動車をすべて燃料電池車にすることを検討している。世界に冠たる日本の水素技術及び燃料電池車のすごみを見せつけたいということが背景にあるのだろう。
ちなみに、全国のガソリンスタンドはEVシフトをまったく歓迎していない。充電には20~30分もかかるわけで、店の回転率は一気に落ちる。しかも、1回の充電で数百円しかもらえない。これが水素エネルギーであれば少なくとも4000円くらいはもらえる。全国のガソリンスタンドがEV充電器設置を望むか、水素ステーション設置を望むかは火を見るよりも明らかなのだ。ただ、水素エネルギーステーションの設置にはまだ2億円以上のコストがかかるため、これを大きく下げることが肝要なのだといえよう。
トヨタの燃料電池車がブレークする時、水素ハンドリングにおいて評価される企業は岩谷産業、大陽日酸、日本エア・リキード、三菱化工機、神戸製鋼所、新日鉄住金などである。ディスペンサーではトキコテクノ、タツノが注目され、冷凍機においては前川製作所、蓄圧器においてはサムテック、日本製鋼所が一気に浮上してくる。ガス検知器のトップメーカーである新コスモス電機ももちろんマークしなければならない企業になるだろう。温度センシング世界トップのチノーは燃料電池車評価システムにおいても最先行しており、今後燃料電池に係るデバイスメーカー、センサーメーカーには、さらに活躍する舞台が待っているのだ。
(泉谷渉)
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■泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は電子デバイス産業新聞を発行する産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎氏との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)などがある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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