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動き始めた水素発電~政府が後押し、20年ごろから実用化

LIMO / 2018年4月9日 21時20分

動き始めた水素発電~政府が後押し、20年ごろから実用化

動き始めた水素発電~政府が後押し、20年ごろから実用化

本記事の3つのポイント

究極の発電システムとして期待される水素発電がNEDO助成事業として実施される。水素発電はCO2フリーの電源という特徴のほか、既存の副生水素などあらゆるエネルギー源から取り出すことができ、エネルギーセキュリティーにもつながりやすい

一方、水素発電、さらにはFCV(燃料電池車)を最大限に導入するには水素インフラの整備が不可欠。現状では製油所や製鉄所などで生成される改質水素や副生水素でFCVの需要はまかなえるが、水素発電が本格化すれば、新たな供給体制が必要になってくる

そこで、現在注目を集めているがのが海外から水素を調達する水素サプライチェーンの構築。川崎重工業などを中心に、褐炭を資源にCO2フリーで水素を製造・輸送する「CO2フリー水素コンセプト」を進めている

 

 東日本大震災以降、火力発電に依存してきた我が国のエネルギー情勢に大きなインパクトを与える「水素発電」。CO2を排出しない、環境負荷低減に寄与する究極の発電システムとして大いに期待されている。

 その水素発電の実証試験が、このほどNEDO助成事業として川崎重工業と大林組によって実施。水素社会の一翼を担う水素発電の初めの一歩となる。我が国では燃料電池車(FCV)および水素ステーションの導入で先行しているが、次のステップの発電分野でも先駆けるかたちとなる。水素発電を取り巻く状況をレポートする。

 水素を燃料とする発電システムとしては、ガスタービン発電、ボイラー発電、それに燃料電池があるが、一般的にはガスタービン発電およびボイラー発電を水素発電と呼ぶ。ガスタービン発電は、水素または水素と天然ガスなどをタービンで燃焼させることで回転力を確保し、発電機を駆動させて発電する。一方、ボイラー発電は水素または水素と天然ガスなどをボイラーで燃焼し、発生した蒸気によりタービンを回転させ、発電機を駆動させて発電する。

 水素発電の最大の特徴は、発電時にCO2が発生しない点だ。水素製造で再生可能エネルギーを活用することで、完全なCO2フリーの電源となり得る。また、水素は既存の副生水素、改質水素のほか、石炭、木質バイオマス、下水汚泥などあらゆるエネルギー源から取り出すことができ、エネルギーセキュリティーにもつながりやすい。

 一方、水素は天然ガスなどと比較して、発熱量が低い(天然ガスと比較して体積あたり1/3)、燃焼速度が速い(同7倍)、断熱火炎温度が高い(同+10%)といった特性を持つ。このため、例えば従来のガスタービンに導入すると断熱火炎温度が高いことで局所的にホットスポットが生じ、窒素酸化物(NOx)が発生する。

 NOxは有害物質の一種で、大気汚染の原因であるほか、人体への影響も大いに懸念される。環境負荷低減どころか、環境を悪化させることにもなりかねない。水素発電では従来のガスタービンなどと異なる設計が必要となっている。

政府が強力に後押し

 水素発電の実用化を強力に後押ししてきたのが、言うまでもなく経済産業省だ。同省が2016年に発表した「水素・燃料電池ロードマップ」によると、20年ごろから自家発電、30年ごろから発電事業用が導入されるとしている。また、NEDOはこうした目標に向けて15年度から「水素社会構築のための技術開発事業」を実施し、水素発電事業として「水素CGS活用スマートコミュニティ技術開発事業」(期間15~17年度)および「低炭素社会実現に向けた水素・天然ガス混焼ガスタービン発電設備の研究開発」(同15~18年度)を採択している。 

 前者は、先述の川崎重工と大林組が実施しているプロジェクトだ。これは水素によるガスタービン発電設備を設置し、地域レベルでの熱・電気のエネルギー効率利用を目指した新エネルギーシステム(統合型EMS)を実証するもの。

 具体的には、神戸ポートアイランド内に1MW水素コジェネレーションシステム(水素CGS)を構築し、水素CGSから発生した熱・電気を近隣4施設(ポートアイランドスポーツセンター、神戸国際展示場、下水処理場、中央市民病院)に供給する。エネルギー管理に統合型EMSを採用し、実証実験を通じて出力、回転数、排気温度、圧力などの各種データを取得し、燃焼安定性や運用性を確認した。水素CGSは水素だけの専燃、水素と天然ガスを任意の割合で混ぜ合わせた混燃のいずれにも対応する。

 後者は、既存の発電所に適用可能な天然ガス・水素混焼ガスタービン燃焼器の研究開発を実施し、500MW級水素混焼プラントの基本設計を確立するもの。三菱重工業が燃焼解析や要素試験、三菱日立パワーシステムズがプラント設計や実機試験などをそれぞれ行っている。

水素インフラ整備も急務

 一方、水素発電、さらにはFCVを最大限に導入するには水素インフラの整備が不可欠である。現状では製油所や製鉄所などで生成される改質水素や副生水素がメーンだ。前者は天然ガスなどを改質して製造した水素。例えば、製油所などでは以前から石油精製で水素が活用されてきた。後者は化学工場などの加工プロセスで生じる水素で、アンモニア合成、メタノール合成などで副次的に発生する。

 先述の「水素・燃料電池ロードマップ」によると、30年における我が国の水素需要は年間30億N㎥。改質・副生水素の供給量は年間120~180億N㎥であるため、FCV需要に対しては十分にまかなえる量だ。ただし、水素発電が本格化すれば同250億N㎥となり、改質・副生水素ではまかなえなくなる。

 そこで導入が期待されているのが海外から水素を調達する水素サプライチェーンだ。いち早く進めているのが川崎重工で、同社は褐炭を資源とし、CO2フリーで水素を製造・輸送する「CO2フリー水素コンセプト」を進めている。これはオーストラリアの褐炭から水素を製造・液化し、日本国内に液化水素運搬船で輸送するもの。水素の製造・液化には再生可能エネルギー(再エネ)の電力を利用することからCO2フリーを実現する。

 また、若い石炭である褐炭は、埋蔵量が石炭と同程度で大量に存在するものの、水分量が50~60%と多い。乾燥すると自然発火しやすく、輸送が困難であるため現地の発電でしか利用されない。一方、輸送が困難であるため取引は少なく、また、取引が少ないため安価に利用できるという。同社は30年の事業化を目指している。

 このほか、下水汚泥、木質バイオマス、水の電気分解など、水素を製造するあらゆる方法が考えられている。重要となる水素貯蔵・輸送においても液体水素や有機ハイドライド法といった方式が開発されている。

エネルギーミックスに向けて

 16年11月に正式発効したパリ協定。我が国では30年の温室効果ガス排出量を13年水準から26%削減することを目標としている。同目標に向けて30年のエネルギーミックス(総発電電力量)を、水素発電含む再エネで22~24%、再エネと原子力発電で42~46%と設定。現在は、火力発電が9割稼働している状況で、同目標に向けては大きなハードルが立ちはだかっている。

電子デバイス産業新聞 記者 東哲也

まとめにかえて

 日本の水素技術は世界でもトップクラスの地位にあり、今回の水素発電同様に、究極のエコカーとも呼ばれるFCVの開発も気になるところです。トヨタ自動車は現状の価格を大幅に引き下げた新型MIRAIを開発中ともいわれ、東京オリンピック・パラリンピックに合わせて、市場投入してくる可能性もありそうです。2020年に向けて日本の水素エネルギーを取り巻く環境は一気にスピードアップしてきそうです。

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