日本に逆風? 想定外の米中関税報復合戦でドル円100円シナリオに現実味も
LIMO / 2018年4月10日 20時45分
日本に逆風? 想定外の米中関税報復合戦でドル円100円シナリオに現実味も
米中貿易戦争は報復合戦の様相を呈し、対話路線への期待が萎んでいます。また、米国が工業品を中心に、中国が農産品を中心に報復関税をかけてきたことから日本が漁夫の利を得られるとは考えづらくなっているようです。むしろ、円高圧力が強まることも想定されますので、米中貿易戦争の激化が日本に大打撃を与える恐れもありそうです。
想定外の報復合戦、対話路線への期待は次々と撃沈
トランプ大統領は5日、中国の「不当な報復」に対し、1000億ドル相当の追加関税の検討に入ったことを明らかにしました。
米国は3日、知的財産権への侵害を理由に500億ドル相当の中国製品への追加関税案を発表し、これに対して中国は4日、同額の米製品への報復関税を発表していましたので、文字通りの報復合戦となっているわけです。
市場関係者の間では、中国にはトランプ氏の挑発に乗らない「大人の対応」が期待されていましたが、中国が予想外の報復に動いたことで梯子を外されてしまいました。
続いて、中国の報復関税が農産品に集中したことから、主要産地であるスイングステイト(共和党と民主党の支持率が拮抗している州)を狙い撃ちにしたのではないかとの見方が広がり、中間選挙への打撃を避けるため、双方が歩み寄るのではないかとの期待も寄せられました。
しかし、今回の追加関税検討で対話路線への期待は再び打ち砕かれた格好となりました。
2017年の米国の対中貿易赤字額は3752億ドルですが、輸入が5056億ドル、輸出1302億ドルとなっています。これは、米国の中国に対する課税対象額が5000億ドルあるのに対し、中国には1300億ドルしかないことを示唆しています。
米国は第一弾と第二弾の追加関税により1500億ドル相当の品目への課税を検討しています。中国は既に500億ドル規模の報復関税を発表していますが、これを1500億ドルに引き上げることは物理的に難しいでしょう。税率を引き上げることで金額をバランスさせることはできますが、物量作戦で中国に分がないことは明らかです。
そこで注目されるのが、中国が大量に保有している米国債の売却です。いずれにしても戦線は貿易以外の局面へと拡張していくことになりそうで、金融市場の混乱が長期化するリスクが高まっているようです。
「メイド・イン・チャイナ2025」を狙い撃ち、日本へも打撃
米中貿易戦争は日本にチャンスとの捉え方もあります。
たとえば、根拠ははっきりしませんが、米国が中国から輸入しているのは労働集約型で米国内で生産可能であり、中国が米国から輸入しているのは技術集約型で中国は自国の技術では生産できないモノを米国からの輸入に頼っているので、米国から輸入できなくなれば代わりに日本から中国への輸出が増えるのではないかと考えられています。
ただ、米国は関税の対象を「『メイド・イン・チャイナ2025』に基づいて特定した」と説明しています。メイド・イン・チャイナ2025とは中国が産業を高度化し、建国100周年の2049年までに世界一の製造強国になることを目標に掲げた戦略のことです。
米国の制裁案には産業機械、航空機、船舶といった工業品目が並んでおり、電気自動車や産業用ロボットといった輸出されていない品目までが含まれています。テクノロジー大国の座を中国に奪われるとの懸念が見え隠れしていますので、米中貿易戦争の舞台設定として、中国からの輸入は労働集約型であり、米国内でも生産可能と考えるのは視点がずれている可能性がありそうです。
また、中国の報復関税は大豆やコーン、小麦、牛肉、綿花といった農産品がメインとなっており、日本から輸出できるものではありません。
中国の工業製品は日本からの中間財を利用している可能性が高く、中国から米国への輸出が減ることは日本にも痛手となる恐れがあります。また、中国の報復関税は主に農産品ですので、日本が肩代わりできるとは考えづらいところです。したがって、米中貿易戦争で日本が漁夫の利を得ると考えるのはあまり説得力がないようです。
付加価値貿易から見える日本の2つの懸念
2017年の米国の対中貿易赤字額が3752億ドルなのに対し、対日赤字は688億ドルと大きな差があります。ただし、これは2国間で直接取引された金額であり、中間税を含めると状況はやや異なる可能性があります。
経済協力開発機構(OECD)は中間財を考慮した統計を作成しており、付加価値貿易と呼ばれています。たとえば、日本が中国に70で輸出した中間財を中国が最終財として米国に100で輸出した場合、日本から米国への輸出が70、中国から米国への輸出が30と考えます。
通常の貿易統計では日本から中国への輸出が70、中国から米国への輸出が100と記録され、日本から中国へ輸出された中間財は2回カウントされることになります。
OECDは輸出に占める国内での付加価値の割合を算出しており、2014年の数字を見ると、米国は84.78%、日本は81.8%、中国70.7%、メキシコ66.5%などなっています。たとえば、中国からの輸出のうち約3割は海外から輸入された付加価値であることを示しています。
しばしば指摘されているように、iPhoneは中国で組み立てられて米国に輸出されています。中国での付加価値は全体の10%以下であり、3割以上が日本の付加価値といわれています。
こうした付加価値貿易の観点から見ると、米中貿易戦争は2つの点で日本に逆風となりそうです。
まず、中国への関税は間接的に日本への関税でもあるということです。中国の輸出の3割を海外に依存しており、iPhoneに至っては9割以上と推測されているからです。
2016年の日本からの中国への輸出は1139億ドルと米国の1304億ドルに次いで国別では第2位のお得意様です。中国への輸出の一部は米国へと再輸出されていると考えられますので、日本への打撃も小さくない恐れがあります。
また、第一弾(500億ドル相当)の関税では消費者への影響が大きいスマホやパソコンなどは対象外とされましたが、第二弾(1000億ドル相当)では含まれてくるかもしれませんので、打撃はさらに大きくなるかもしれません。
次に、日本の貿易黒字がクローズアップされる恐れがあります。日本からの輸出品は海外からの調達に依存している割合が低く、中国やメキシコの輸出品は海外依存度が高いということは、中間財を含めて捉え直すと米国の対日赤字は2国間での数字よりも大きいことを匂わせています。
すなわち、日本は中国やメキシコを隠れ蓑にして米国に輸出している疑いがあるわけです。たとえば、トランプ大統領はメキシコから自動車関連の輸出が増えていることに強い不満を表明していますが、その部品がどこから来ているのかを調べた結果、不満が日本へ飛び火しないとも限らないでしょう。
FTAでの為替条項、円高圧力を要警戒へ
トランプ政権は3月27日、韓国との米韓自由貿易協定(FTA)の見直しで合意に達したと発表していますが、その際に通貨安誘導を禁止する「為替条項」を盛り込みました。
米政府高官によると、為替条項は(1)競争的な通貨切り下げを禁じる、(2)金融政策の透明性と説明責任を約束する、といった内容となっています。
トランプ大統領は日米FTAの締結を強く求めており、その際に為替条項が盛り込まれることも想定内になったといえるでしょう。為替条項が盛り込まれれば、少なくとも円安にはなりにくくなりそうです。また、日銀は金融政策について米国への説明責任という厄介な役割を担うことになるのかもしれません。
米中貿易戦争のベースとなっているのは中国の対米貿易黒字です。当然、日本の貿易黒字もターゲットであり、日本の自動車などへの追加関税のほか、円高圧力を強める可能性も排除できませんので、ドル円は1ドル=100へと向かうシナリオも現実味を帯びてきたのかもしれません。
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