自動運転/MaaSのイノベーションの流れは変わらず~Uber自動運転車事故を受けて
LIMO / 2018年4月17日 20時25分
![自動運転/MaaSのイノベーションの流れは変わらず~Uber自動運転車事故を受けて](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/toushin1/toushin1_5722_0-small.jpg)
自動運転/MaaSのイノベーションの流れは変わらず~Uber自動運転車事故を受けて
Uberの自動運転車による死亡事故のインパクト
2018年3月18日夜(現地時間)、米・アリゾナ州で実証実験走行中のUber(ウーバー)の自動運転車が、横断歩道のない場所で自転車を押しながら道路を横断していた歩行者をはね、死亡させるという痛ましい事故が発生しました。公開された映像などからは、各種センサーを搭載していたにもかかわらず自動運転車にブレーキをかけた形跡がない、万が一のために乗車していたはずのバックアップドライバーが1名しか搭乗しておらず、直前まで前を向いていなかった、といったことも報じられています。
事故の原因については様々な推測が飛び交っている状況にありますが、現時点では明らかになっていない点も多く、今後の調査結果が待たれます。
この事故を受け、 NVIDIA(エヌビディア)やトヨタなど一部の自動運転車開発企業は公道上のテストの一時停止を発表しています。一方で、Intel(インテル)やWaymo(ウェイモ)などは、むしろこのような事故を防ぐ意味でも自動運転は有用であるという主張を前提にテストを続行しています。
本当に危ないのは自動運転そのものなのか?
今回の事故の報道をご覧になって「やはり自動運転は危ない」とお考えになった方も多かったかもしれません。テスト中だからといって事故を起こしていいはずはないですし、事故が発生してしまったことは残念でなりません。
ただ、ここで私たちの目、意識を「事故が起こった=自動運転車は危ない」という部分だけにフォーカスしてはいけないとも思う気持ちもあるのです。私たちの視点はいま、実際に起こった事故に向けられていますが、「自動運転によって防ぐことができた事故、今後防ぐことができるであろう事故」は目には見えないからです。
各国政府にとって自動運転技術が「強力に推進したいイノベーション」である3つの理由
自動運転は、次にあげるいくつかの点から各国政府にとって「安全性には十分に注意を払いながらも、強力に推進していきたいイノベーション」であると見ています。
1.事故削減効果
世界保健機関によると、世界では毎年、交通事故で120万人以上の命が失われているとされます。言うまでもなく、交通事故による死傷者やその家族をはじめとする周囲の人々が受ける苦痛の大きさははかりしれません。また、マクロ的視点からは、各国政府機関などが推計する交通事故による社会的・経済的損失は莫大な規模であり、こんにちの世界的な社会問題となっています。交通事故の件数や発生率の低減は各国政府にとっても重要な目標だといえるでしょう。こうした中、自動運転技術には、交通事故を減らす効果が期待されています。
交通事故の主な原因のうち、交通違反や不注意などの人的要因については、自動運転技術の発展により一定の削減・回避が期待できると指摘されています。「破壊的イノベーション」にフォーカスした投資で知られる米国のアーク・インベストメント・マネジメント・エルエルシー(ARK社)は「自動運転車によって自動車事故率が80%以上低下する」と予想しています。
2.交通渋滞・公害対策・高齢者対策
先進国の都市部における交通渋滞は生産性低下を引き起こし、中心部の家賃等の生活コストの高騰を招いています。新興国においてはさらにひどく、事故のみならず公害による健康被害や死亡者も無視できません。
効率的な交通インフラ構築は不可欠であり、例えば自動運転を活用したMaaS(Mobility-as-a-Service、サービスとしてのモビリティ)などによる問題解決は中長期的な課題といえます。日本において近年大きな社会課題となっている高齢運転者による事故という問題を解決する手段になりえますし、過疎地における交通インフラとしての需要もあるでしょう。
3.自国産業のイノベーションの加速
人やモノ、ビジネスの移動という、経済活動の根幹を激変させうる自動運転やMaaSは、巨大産業である自動車関連ビジネスのみならず、多様な産業に革新をもたらしうる破壊的イノベーションといえます。各国政府はその重要性を十分認識しており、同時に規制主体として技術の進展度合いも十分把握していると考えられます。
今後、さらなる法規制の整備や追加措置が必要となる可能性は高いですが、その場合も単に技術の発展・浸透を妨げるような後ろ向きな規制ではなく、安全性を高めながらもイノベーションを促進させるような前向きな規制(法制度の明確化や、テスト条件の具体化など)を模索する動きが顕在化するのではないかと見ています。なぜならば、自動車産業の復興を熱望する米国と、次世代自動車産業の主導権を握りたい中国との間の激しい競争の火ぶたは切られており、仮に自国産業のイノベーションが停滞するようであれば、他国の企業がそれにとってかわる可能性が増すだけの話だからです。
まとめにかえて
先述のARK社は、Uberの事故と自動運転の将来について、以下のようにコメントしています。
「今回の事故を受けて自動運転実験についてさらなる調査が行なわれることは悪いことではないと考えています。Waymoは『自分たちの車は歩行者を検出することができ、公道でテストを続ける』と宣言しています。また、Uberが自動運転トラック部門の責任者の退社を発表したことは、同社が事故の責任を負っていることを示唆している可能性があります」
また、NVIDIAはUberの事故から学ぶために自動運転テストを一時中止する事を選択しましたが、これについて同社CEOのJensen Huang (ジェンスン フアン)氏は同社の投資家向けイベントで「なぜ私たちがテストを止めたのか?私たちが事故について直接責任を負う可能性を考えているのではなく、私たちはこの事故から学びたいのだ。それによって、私たちは豊富な知見を得て、より一層安全性に注意を払いたい」とコメントしています。
自動車交通を巡る問題は世界が当面の間、直面し続けることになる極めて大きな課題であり、自動運転技術の発展・浸透の先にその解決に向けての大きな可能性をあることは論をまちません。今回の不幸な事故から確かな知見を得、これを将来に向けて前向きに生かしていくような取り組みが各国政府と事業体の双方で進められていくことが期待されます。
(本稿は自動運転車開発関連企業を例示していますが、当該銘柄の売買を推奨するものでも、将来の価格の上昇または下落を示唆するものでもありません。また、日興アセットマネジメントが運用するファンドにおける保有・非保有および将来の銘柄の組入れまたは売却を示唆・保証するものでもありません。本稿で述べられている見解は筆者個人のものであり、所属する組織の見解を示すものではありません)
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