青色LEDゆかりの地、鹿児島の2社の大発明
LIMO / 2018年4月19日 21時20分
青色LEDゆかりの地、鹿児島の2社の大発明
交和電気は世界初の人工太陽、エルムは農業革命で世界制覇への道
「半導体が光を放つ」ということを発見した人はすばらしい。すなわち発光ダイオード(LED)という半導体は今や一般照明にも使われるほどの普及ぶりであるが、青色LEDを作るまでの道のりは大変なものであった。周知のように光の3原色はR(赤)、G(緑)、B(青)であり、赤色と緑色のLEDはかなり早期に作れていたが、青色LEDがなかなか作れなかった。
しかし世界初の高輝度青色LEDを実現し、実用化への道を開いたのは日本人であった。鹿児島県南九州市知覧町出身の赤崎勇氏(※正しくは「崎」の字の大が立)がその人である。これだけのことをやってのけたのであるから、当然のことながら堂々のノーベル物理学賞を受賞したのだ。筆者は赤崎氏と一緒に講演したこともあり、度々お目にかかることも多かったが、何ともすばらしい人格者であったことを覚えている。
先ごろ赤崎先生の出身地である鹿児島の地を歩く機会に恵まれ、その折に驚くべきLEDカンパニーに出会うことになった。それは交和電気産業(本社鹿児島県出水市)とエルム(本社鹿児島県南さつま市)の2社である。この2社はまるで赤崎先生のファイティングスピリッツが乗り移ったかのような開発を次々と成功させて、画期的ともいえる製品を世に送り出し始めたのだ。
11万ルクスの「人工太陽」を農業用に実用化へ
交和電気が発明したものは世界初の「人工太陽」である。何しろ2300Wの単一光源型LED照明を作り上げ、光源直下3mで11万ルクスというすさまじい明るさを実現した。青色の強度を他社の半分まで落としてバランスの取れた自然光を実現し、しかも世界初となる自己排熱型LEDモジュールとして完成させたのだ。
トヨタ自動車九州が評価用としてこれを搭載した車を試作したところ、世界中の照明メーカーが圧倒された。シリコンの封止面ぎりぎりいっぱいで光が表に出るということはほぼ不可能であったが、これを可能としてしまったのだ。
交和電気産業は、これを農業用LED照明として実用化すべく全力を挙げていく考えだ。もちろんここまで明るいのだから、夜の競技場などを昼間と同じ状況にすることも可能であり、いつか昼と夜の区別がつかない世界も実現できるのかもしれない。
生産性1.5倍の育苗システムを世界展開
もう1つのサプライズLEDカンパニーはエルムである。同社が作り上げたLED育苗システムもすばらしい発明だと言える。キャベツやレタス、トマト、なす、きゅうり、ピーマンをこのLED育苗システムで育てれば、実に1.5倍の生産性で収穫できるのだ。
世の中にはレタスやキャベツのLED栽培を行っているカンパニーは数多いが、そこには巨大な壁がある。はっきり言えばコストが合わないのだ。ところがエルムのシステムを使えば、これまで5週間かかっていた苗の育成が2週間に短縮できる。通常200円程度で作られるレタスがたったの50円でできる。もっと分かりやすく言えば、同社の2.5×12mのコンテナを使い栽培されるキャベツを普通の農地で作るには、62倍の面積が必要になるというのだ。
この成果だけでもすごいが、エルムのこの次の展開を聞いてさらに驚いた。それはこのLED育苗システムで農業革命を起こし、日本発のこの技術が世界制覇していくというシナリオであった。すでに韓国に第1号を展開する会社が立ち上がり、次いで台湾、香港、カザフスタンへの進出もほぼ決まっている。アジア、中近東で地歩を固めた段階で本丸の中国、インド、そして米欧へと拡大していく壮大な構想なのである。
LEDを世界的な普及品に持っていくために努力したのは我が国ニッポンであったが、これが一大開花した時には中国、台湾、韓国にイニシアチブを取られ大量産という点では負けてしまった。ニッポンがもう一度LED革命で巻き返すのは、やはり赤崎先生の生誕の地である鹿児島からではないかと思えてならなかった。
(泉谷渉)
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■泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は電子デバイス産業新聞を発行する産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎氏との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)などがある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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