従業員死亡のサムスンに韓国で情報公開要求
LIMO / 2018年4月27日 20時20分
従業員死亡のサムスンに韓国で情報公開要求
秤にかけられた「国家核心技術」と「労働者の人権」
本記事の3つのポイント
韓国の雇用労働省はサムスン系列企業に対し情報公開請求を行ったが、日本の経済産業省に相当する産業通商資源省は「国家核心技術が含まれる」として報告書の公開を牽制している
これによって今後、情報公開を巡る行政訴訟の過程で、サムスン電子は多少有利になる見通し。だが、雇用労働省側は「国家核心技術に対する保護は重要だが、労働者の健康権も守るべきだ」と主張し続けている
今後も、サムスン電子半導体事業場の情報公開を巻き込んで、国家核心技術の保護と労働者の基本権との駆け引きの行方が注目を集めるだろう
韓国でサムスンへの風当たりが強まっている。韓国の雇用労働省は、サムスン電子とサムスンディスプレー、サムスンSDIなどのサムスン系列企業に「作業環境測定報告書を公開せよ」と要求し、その波紋が広がっている。白血病で死亡したサムスン工場従業員の遺族による訴訟の判決を受けて、同省が2018年3月に「産業安全保健法の全部改正案」を急遽、立法予告したためだ。
しかし、産業通商資源省(日本の経済産業省に相当)は4月17日、半導体専門委員会を開いて、サムスン電子半導体事業場の「作業環境測定報告書(以下、報告書)」には「30nm以下のメモリー半導体製造技術など国家核心技術が含まれている」と結論づけて、報告書の公開を牽制した。
サムスンは「企業秘密の流出」を強く警戒
雇用労働省の改正案は、半導体だけではなく、ディスプレー、化学など先端産業界の全般にかけて情報公開を明記しているため、今後大きな議論を呼びそうだ。報告書では半導体・ディスプレー工場内部の構造などが盛り込まれている情報を公開しなければならず、立法化すれば、これまで企業秘密として保護してきた関連企業の核心技術が流出してしまう懸念が高まる。
サムスン電子側は「報告書が公開されると、30年間蓄積した半導体工程のノウハウが中国などに流出する」と、このほど行政訴訟を行った。これに対して同省は4月9日、「現状では報告書の公開が企業秘密を侵害する余地はない」と、改めて従来の立場を固持している。
雇用労働省を相手に徹底抗戦
論争の発端は、2月に下された大田高等裁判所の判決から始まる。白血病で死亡したサムスン工場従業員の遺族が出した訴訟において、同裁判所は判決で「サムスン電子温陽工場における2007~2014年の作業環境測定の結果報告書を公開せよ」と命じた。判決文で指摘されたのは、簡単な工場図面、関連従業員の有害因子のリスト、測定位置および測定結果、生産ライン別のオペレーターの数、ライン・工程名などである。
サムスン電子側は、このような情報が公開されると、工程別の面積や装置の配置、使用する化学製品名などが推定できるとし、企業秘密の流出を強く警戒している。特に、器興(キフン)、華城(ファスン)、平澤(ピョンテク)半導体事業場と湯井(タンジョン)ディスプレー工場などは、温陽工場の事案とは異なると主張している。
サムスンは、行政訴訟とともに、雇用労働省を相手取って水原地裁にも情報公開決定に対する取り消し訴訟と執行停止仮処分を申し入れるなど、強く抵抗している。
半導体は韓国の「国家核心技術」に相当
こうした最中、産業通商資源省は、4月16日と17日の2回にわたって専門委員会による精査を行った結果、サムスン電子の器興、華城、平澤、温陽半導体事業場の報告書に「国家核心技術が含まれている」と判定した。つまり、専門委員会が報告書の公開に反対したのである。これにより技術流出を懸念していたサムスン電子はひとまず安堵した。また、国民権益委員会傘下の中央行政審判委員会も、雇用労働省が主張してきた情報公開について「暫定保留する」と判定している。
これによって今後、情報公開を巡る行政訴訟の過程で、サムスン電子は多少有利な立場になる見通しだ。だが、雇用労働省側は「国家核心技術に対する保護は重要だが、労働者の健康権も守るべきだ」と主張し続けている。
「企業秘密が労働者の健康と生命よりも優先されるべきではない」
18年3月、韓国の半導体輸出額は前年同月比44.3%増の109.8億ドルを記録した。このうち、メモリー半導体分野が同63%増の80.4億ドルとなり、大幅な輸出増を達成した。非メモリー半導体は同6.1%増の22.2億ドルとなった。半導体は単一品目として初めて、月間輸出額100億ドルを突破。17年通年の韓国の半導体輸出額は979億ドルを達成し、輸出全体の17%を占めた。
韓国で半導体産業は、技術的かつ経済的価値が高く、海外へ技術が流出した場合、国家経済の発展に重大な悪影響を与えかねない国家核心技術分野に指定されている。
一方、雇用労働省が主張する趣旨は「企業秘密が労働者の健康と生命よりも優先されるべきではない」という労働者の生死に対する基本権利を貫いている。
今後も、サムスン電子半導体事業場の情報公開を巻き込んで、国家核心技術の保護と労働者の基本権との駆け引きの行方が注目を集めるだろう。
電子デバイス産業新聞 ソウル支局長 嚴在漢
まとめにかえて
韓国の半導体産業、とりわけサムスン電子の韓国経済における存在感は非常に巨大です。DRAM、NANDフラッシュなどメモリー分野で圧倒的な地位を確保し、年間200億ドルを超える設備投資を実施する企業はサムスンただ1社です。ゆえにサムスンのしかも半導体生産ライン内部の情報が丸裸にされることに危機感を覚えるのは当然といえます。ただでさえ、ライバルとなる中国は国を挙げてメモリーの国産化に乗り出そうとしており、サムスンはこれまで以上に情報管理を徹底しようとしています。こうしたなかで出てきた情報公開の問題。今後の議論の行方に注目していきたいです。
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