実装機メーカーが主導するスマートファクトリー
LIMO / 2018年5月7日 20時25分
実装機メーカーが主導するスマートファクトリー
標準化で競争は新たな次元へ
本記事の3つのポイント
マウンターなど実装機メーカー主導のスマートファクトリー構想が日本国内でも進んでいる。自社のマウンター製品だけでなく、総合ソフトウエアによって他社製品との連携も進めることで、ラインの一括提供も可能にしている
実装機メーカーの足元の業績も好調。海外EMS企業の旺盛な投資を背景に、各社は業績予想の上方修正を再三行っている
ドイツ発のインダストリー4.0に代表されるように欧米企業もスマートファクトリー構想に力を入れており、こうした動きに対抗すべく日本も業界団体が中心となり標準化の動きを進めている
半導体など電子部品を高速かつ高精度でプリント配線板に実装するチップマウンター企業が、スマートファクトリー構築に邁進している。部品不足による段取り時間のロスや品種切り替え時間の短縮、オペレーターの労働負荷の低減、装置不具合の予測・予兆といったことまで可能にし、「止まらない工場」の実現を将来的に目指すものだ。
半導体や受動部品などのSMT実装の組立ラインで主要な工程を担うチップマウンター企業らが主導権を取り、検査機や印刷機などの他社製装置であっても問題なくつながり、一括でライン提供を行えるようになってきた。最近では自動倉庫までを自社開発あるいはシステム化しており、その完成度を高めつつある。これは他社製品であっても機器連携が取れるよう統合化した高度なソフトウエアの存在が大きい。
こうした独自の生産システムを提案し、先行する国内実装機メーカーだが、他社との差異化を推進しているだけでは足元をすくわれかねない事態も想定される。欧米のライバル企業らが猛烈な巻き返しを図ろうとしており、スマートファクトリーで標準的なSMTラインのモノづくりを逆提案されてしまう可能性も無きにしも非ずだ。
そこで、国内勢も動き出した。マウンター企業が所属する日本ロボット工業会(JARA)は、2017年10月に「実装機器通信規約標準化分科会」を発足させており、次世代のモノづくり工場で標準化の動きをリードする思惑が垣間見られる。今後の議論の方向性が気になるところだ。
足元の業績は絶好調
現在、電子機器の受託製造サービス(EMS)企業らによる旺盛な投資をバックに、国内の日系マウンターメーカーらの業績は絶好調で推移している。
㈱FUJI(旧富士機械製造)は、3度にわたる業績の上方修正を行うなど好調な受注が継続している。「大手EMS企業の投資が旺盛で、恐ろしいくらい受注が落ちない」(同社首脳筋)と受注の勢いは止まらない。ヤマハ発動機も1年ほど前に完成した新工場(浜松市)がすでにフル稼働状態となり、増やしたくても増やせない状況が続く。次期中期経営計画では新工場の建設も視野に入ってこよう。
パナソニックのSMT製品を扱うプロセスオートメーション事業の売上高も、17年の年明け以降から、海外メガEMS企業向けのSMT製品の受注が回復して、17年度上期は旺盛な受注に恵まれた。このため、同社のマウンターならびに溶接機械関連を含むプロセスオートメーション事業部の17年4~12月累計売上高は、前年同期比28%増の1414億円となった。例年だと減速するはずの10~12月期ですら同19%増の432億円と業績拡大を続ける。足元も堅調に推移しており、18年1~3月は例年なら大きく落ち込むものの、前四半期(10~12月)並みの堅調な受注が継続しているようだ。
各社各様の一括統合ソフトを提供
こうした絶好調のマウンター業界にあって、一方で次世代のSMTラインの在り方が大きく変わろうとしている。いわゆるインダストリー4.0に代表されるスマートファクトリー実現にしのぎを削っているのだ。
将来トレンドをいち早く見抜き、グローバルでの提携を推進しているのがパナソニックだ。すでにSMT実装ラインの一括制御にとどまらず、実装フロアまで拡張できる統合ラインシステム「iLNB」を積極的に提案する。
これは、自社装置中心の生産管理システムのPanaCIM(パナシム)をベースに、FA機器市場の領域で他社製品とのインターフェースや統合ラインを構築するうえで欠かせない、プログラマブルコントローラー機器の市場で強みを持っていた独シーメンスと提携して開発したものだ。既存のSMTラインの一括制御にとどまらず、フロア全体の管理も視野に入れている。遠隔地からの操作やリモートで簡単な工程の異常などは修正もできるようになる。こうしたライン制御の分野で先行していると言える。
FUJIは、Nexim(ネクシム)という自社のソフトを武器に生産計画を自動的に立てられるシステムを確立している。同社は、はんだ印刷検査機のCKDならびに基板外観検査装置のオムロン、窒素リフロー炉を手がけるタムラ製作所らと共同して、自社の高性能マウンター装置と組み合わせた一連のSMT一貫生産ラインを構築。異なる製造装置メーカーの機種であっても、生産工程が一元管理できるシステムを提案した。
FUJIはマウンター情報だけでなく、ライン全体のトレーサビリティーが可能で、どこからでもリアルタイムで生産状況を確認できることを強調する。検査工程などの情報も管理して、分析や対策に活用して品質向上を目指すという。さらには最適なタイミングで確実なメンテナンスを事前に実施することで、生産停止といった致命的ロスを負わない生産システムの構築を確立する狙いがある。すでにネクシムは主要顧客先に200セット以上の販売実績がある。
将来的には、工場の責任者が出張で現場にいなくても、何か突発事故が生じた場合、工場内のラインをリアルタイムで確認できるようなシステムまで進化させて、外出先から端末1つで指示出しが可能になるという。これにより工場のノンストップ化に寄与して、納期の遅延などによる顧客への迷惑や損害賠償などのリスクを大幅に低減できる。
標準化で新次元の開発競争へ
日系実装機メーカーらは各社個別のSMTラインの一括制御ソフトの開発・展開に注力するが、印刷、検査、リフロー装置などの実装周辺装置を扱う企業がチップマウンターメーカーの様々なソフトに新製品開発をするのも大変だ。
このマウンターを含むSMTラインの装置市場は現在、日系勢が圧倒的なシェアを確保しているものの、いつまでも安泰というわけではない。ドイツ政府が提唱したインダストリー4.0の動きと連動するように、欧州のSMT企業らが独自の標準化の立ち上げの動きをみせているという。いち早く業界のデファクトを握らないと最終的に欧米勢に果実を取られかねない。
危機感を持ったロボット工業会(JARA)も動き出している。昨年秋発足した「実装機器通信規約標準化分科会」は現在、国の関係機関や会員企業らと議論を重ねている。
同分科会による標準化の議論の中身は、例えば電子回路基板製造装置および関連ソフトウエアを製造する事業者が、製造装置間の通信方法(M2M連携)に関して共同で規格を策定するというものだ。18年6月開催予定の実装プロセステクノロジー展までにまとめる計画だ。
SMT実装ラインに組み込まれた様々な製造装置間の通信ルールを標準化することで、企業の垣根を超えた実装システムをユーザーが簡単に構築でき、生産管理も簡単で変種変量生産への迅速対応のメリットが追求しやすくなる。実装機メーカーなどのSMTメーカー各社にとっては、新たな付加価値を生むチャンスとなる。
現在の電子回路基板製造ラインは、印刷機をはじめ検査機、マウンター、リフローなどの様々な装置で構成され、装置間を搬送装置でつないでいる。これらの個々の装置のサプライヤーはそれぞれ異なっていることが大半だ。装置内の基板情報の管理や他の装置との通信方法は各社独特で、ライン全体での一貫した情報管理には大変な手間とコストがかかり、顧客の負担にもなっている。
今回のJARAが進める標準化の動きは、この各装置間で異なる通信方法のハードルを越えようとするものだ。一部には「総論賛成だが各論反対」的な主張を行う企業もあるなか、着々と議論が進み、何らかの標準化に向けた具体的な取り組みが出てくることを期待したい。
標準化を進めるメリットは計り知れない。遅かれ早かれ標準化の動きはやってくる。いち早く業界を取りまとめ次のステージに進むべきだろう。これにより、実装機関連企業各社は、より効率的な生産を行うための「分析」「対策」「予防・予知」といった新たな付加価値の構築と実現のための方策にリソースを集中させることができる。明らかに今後、マウンターメーカーらの競争軸が変わるだろう。従来の実装スピードや正確性を競う単なる機能追求から、工場全体での最適化や生産性向上、最終的には顧客の収益拡大をいかに実現するかといった高度なサービスを提案するべく、競争は新たな次元に突入する。
電子デバイス産業新聞 副編集長 野村和広
まとめにかえて
実装機は多品種少量対応や高速マウントなど技術開発の競争軸はあるものの、コモディティー化しやすく、価格競争に晒されやすい分野と見られています。そのため、実装機メーカーも新たな付加価値戦略の一環として、スマートファクトリー構想を進めることで生き残りを図ろうとしています。足元の業績は好調なものの、これまで市場を牽引してきたスマートフォンが飽和状態となった今、実装機分野は大きな岐路を迎えたといってもよいでしょう。実装機メーカーが打ち出す新たな提案に注目していきたいところです。
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