安全保障が理由!? 自動車関税問題が与える影響とは
LIMO / 2018年5月26日 9時25分
安全保障が理由!? 自動車関税問題が与える影響とは
「柏原延行」のMarket View 2018年5月24日
皆さま こんにちは。アセットマネジメントOneで、チーフ・グローバル・ストラテジストを務めます柏原延行です。
5月も下旬になり、私の地元のスーパーでは、梅酒などの果実酒の材料が店頭を飾るようになってきました。私も、「泥らっきょう」を仕込み終わりました。およそ4週間程度で完成し、梅雨のジメジメとした暑さで疲れる体を癒やしてくれそうです。
さて、今回の記事のポイントは以下の通りです。
各種メディアでは、「トランプ米政権は、安全保障を理由に自動車や自動車部品に追加関税を課す輸入制限の検討に入ると発表した」という趣旨の報道がなされている。
2018年4月24日公開の記事、『自動車輸出が通商問題に? 日本の自動車産業の基礎知識を整理する(http://www.toushin-1.jp/articles/-/5831)』でご説明した通り、米国の通商問題において我が国の自動車産業がターゲットをなることは自明のことであると考えていた。
一方で、この自動車産業の問題が貿易の不均衡ではなく、安全保障上の問題であると整理されたことには筆者には意外感があった。貿易不均衡であれば、米国からの他の製品(例:農産物や航空機など)を輸入して、全体としての貿易不均衡を是正する方法もありうるが、安全保障の問題とされた場合は、「自動車産業単独での問題解決が必要で、解決が一層困難になる」可能性がある。
24日の株式市場では、日経平均株価が252円73銭(-1.1%)安い22,437円01銭となり、東証輸送用機器指数は-3.0%、トヨタ自動車は-3.1%下落している。もちろん、追加関税は検討段階であり、内容についての不透明感は高いが、今後の展開に十分な注意が必要。
「米トランプ大統領はロス米商務長官に対して、安全保障を理由に輸入制限を課せる通商拡大法232条に基づく調査を指示し、商務省は乗用車やトラック、自動車部品を対象に調査を始めた」ことが報道されています。
現地生産化が進み、我が国の自動車輸出台数は、確実に減少しているようなイメージもあるのですが、 4月24日公開の記事でご紹介したとおり、輸出台数は2010年以降ではほとんど減少していないと評価できると思われます。
このような状況の中、米国民に身近な自動車産業での貿易不均衡は、「通商問題においてターゲットとなりやすい状況が明らか」 (上記コラムでの表現)と考えていました。
一方で、トランプ大統領の指示が安全保障を理由としたことには、私は意外感を持ちました。
少なくとも、乗用車は米国の消費者(個人)が主に購入するものであり、安全保障の問題があるといわれても、直ぐにはピンとこないところがあります(そして、仮に25%の関税がかかるとすれば、直接的にはこれを負担する主体も米国の消費者などです)。
もちろん、安全保障上の問題がなかったとの結論になる可能性もあるのですが、これまでのトランプ大統領の行動を見る限り、安全保障を理由として、(選挙において、国民受けしやすい)なんらかの貿易不均衡状態の是正策を求めてきていると考えることが自然であるように思います。
加えて、貿易不均衡を理由とするのであれば、米国が得意とする他の製品(例:農産物、航空機など)の我が国への輸入拡大によって、問題を解決する道もあります。しかし、安全保障が理由であるとすると、自動車産業単独でなんらかの対応策を実施しなければいけない可能性が高まると考えています。
日経平均株価が5月の高値23,002円(21日)から下落している理由としては、①2017年末水準を超えたことによる利食いの動き、②北朝鮮問題の混迷などの影響もあると思われますが、今回のコラムで取り上げている通商問題の影響が一番大きいと私は考えています。
2018年4月23日公開の記事でご紹介した通り、自動車産業の「直接・間接に従事する就業人口は、我が国の全就業人口の約8%」、「製造品出荷額は、全製造業の製造品出荷額の約18%」、「設備投資額は、主要製造業の約22%」であり、通商問題の進展状況によっては、我が国の経済全体へ影響する可能性があります。
私は、本件問題については、政府・産業界などの総力を挙げた取り組みが必要であり、対応状況の進捗について十分な留意が必要だと考えています。
(2018年5月24日 16:00頃執筆)
【当資料で使用している指数についての留意事項】
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