東京エレクトロン、「20年度に売上高1.7兆円」の新中計を発表
LIMO / 2018年6月5日 21時25分
東京エレクトロン、「20年度に売上高1.7兆円」の新中計を発表
競合よりも強気の市場想定でサプライヤーを鼓舞?
国内最大手の半導体製造装置メーカーである東京エレクトロンは5月末、2020年度(21年3月期)をめどに、売上高を最大1.5倍(17年度実績比)の1.7兆円にまで高める新中期経営計画を発表した。前提となるWFE(Wafer Fab Equipment=前工程製造装置)は、20年度に620億ドルを想定しており、今後も一段と市場成長が続くとの見解を示した。
WFE市場想定620億ドルが基本線
同社はWFE市場が450億ドルの想定で、19年度に最大1.2兆円を目指す財務モデルを17年に公表していた。しかし、半導体メーカーの旺盛な投資意欲を受け、18年度は売上高1.4兆円を計画。目標を前倒しで達成する見通しとなったため、財務モデルを今回修正した。
新たに提示された財務モデルには、WFE市場想定550億ドルでの事業計画も設定されているが、「(550億ドルと620億ドルの中間値となる)580億ドルがミッドポイントではない」(河合利樹社長兼CEO)として、あくまでも620億ドルを基本線に据えていることを強調した。550億ドル想定は「リスクシナリオでもこのレベルの業績は達成可能」(同氏)という意味で提示したという。
海外を含む大手前工程装置メーカーのなかでも、TELの市場見通しは強気だ。同社はWFE市場想定について18年580億ドル、19年610億ドルと予想。これに対し、米Applied Materials(AMAT)は18~19年の2カ年で計1000億ドルと見込んでおり、TELに比べて若干トーンは低い。同じく競合の米Lam Researchも18年は530億ドルと予想、大手メーカーで見通しに少なからずギャップが生まれている。
同社の強気な市場見通しは、TELを頂点とする国内の半導体製造装置サプライチェーンに属するサプライヤーを鼓舞する意味合いもありそうだ。同社は20年に向けて宮城工場(東京エレクトロン宮城)の拡張を筆頭に、国内生産拠点の拡張を相次いで進める。この生産体制強化を実現するうえで欠かせないのが、TELに部材・パーツを供給するサプライヤーの能力増強だ。「ここで弱気な見通しを披露すればサプライヤーが付いてきてくれない」――今回の新中計にはこうした狙いも見え隠れする。
シェア拡大で市場成長上回る増収を
半導体製造装置部門の売上高は、20年度に売上高を最大1.6兆円に引き上げる考えで、市場成長と同時に市場シェアの拡大も図る。17年度時点でのWFE市場シェアは14%であるが、これを20年度までに18%に引き上げる。注力分野に掲げるエッチング、洗浄、ALD分野でのシェア拡大を図っていく。
シェア目標について、エッチング装置では20年に30%以上の獲得を目指す。DRAMでは強みのHARC(High Aspect Ratio Contact)工程に加えて、パターニング工程やCu(銅)配線工程のシェア拡大を図る。もともと、同社はロジックのCu配線などBEOL(Back End Of Line)工程で高いシェアを誇っており、DRAMのCu配線工程増加は追い風となっている。
ちなみに、17年はDRAM投資の拡大に伴い、エッチング装置のシェアは前年の23%から3ポイント上昇し26%を獲得。今後は3D-NANDやロジック分野(特にトランジスタ工程)での新規工程獲得を目指していく。
洗浄装置は20年に27%以上のシェア獲得を目標に掲げる。17年は枚葉洗浄装置に加え、バッチ洗浄装置の売り上げが3D-NAND向けに大きく増加したと見られ、前年からシェアを5ポイント上昇させ、25%へ拡大した。同社は17年に発表した前中計で19年に24%以上の獲得を目指していたが、これを前倒しで達成した。ただし、15年に発表した中計では19年に35%前後のシェア獲得を目指していた経緯もあり、当初目標にはまだ達していないのが現状だ。
新規装置の販売と同時に、中古装置の販売や改造、パーツ・サービスなどで構成されるフィールドソリューション(FS)事業も、納入済みの装置台数6.6万台の実績を生かして、さらなる事業拡大に取り組む。17年度のFS事業売上高は2510億円。今後、改造・再製作装置の提供やリモート接続による高付加価値サービスの提供などを通じて、20年度に3400億円の売り上げ達成を目指す。
設備投資も高水準、宮城・山梨・岩手で増産投資
開発・生産体制の強化も積極的に進める。設備投資は20年度まで400億~500億円レベルの高水準投資を維持していく考えで、18年度も510億円を投資金額として予定する。
エッチング装置を開発・生産する宮城工場では、新物流棟が完成。18年9月には新開発棟が竣工予定で、一連の投資により宮城工場の生産能力は19年までに倍増する見通し。
成膜装置分野でも製造子会社である東京エレクトロン テクノロジーソリューションズ㈱の山梨(藤井)事業所(山梨県韮崎市)および東北事業所(岩手県奥州市)に、それぞれ新棟を建設。主力製品の1つである成膜装置などの増産を行う。
山梨事業所の新棟は19年1月の着工、竣工は20年4月を予定する。東北事業所は18年10月に着工、19年9月に1期工事が完了、20年12月に2期工事が完了する予定。新棟それぞれの建設費用は約130億円を見込んでいる。山梨では枚葉成膜装置、東北では熱処理成膜装置の増産に充てる。
東京エレクトロン テクノロジーソリューションズは、17年7月に東京エレクトロン山梨㈱、東京エレクトロン東北㈱が合併し設立された製造子会社。山梨、東北ともに成膜装置の開発・製造を行っていたことから、合併後は成膜技術の融合などを進めている。また、生産面でも生産スペースの共有化を実施。生産効率が高まったことで以前に比べて生産量を2倍に引き上げることができているという。
TELが新中計を実現するうえで、重要なのは顧客である半導体メーカーの投資動向であるのは言うまでもない。その投資スタンスは強気を貫くところもあれば、18~19年の投資計画を見直すところもあるなど、まだら模様の様相でなかなかトレンドを読み解くのが難しくなっている。ディスコのように後工程装置メーカーでは、OSATの発注延期・キャンセルなどを受けて業績見通しを下方修正するところもあり、今後も注意深く市場動向をウォッチしていく必要がありそうだ。
(稲葉雅巳)
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