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米経済に忍び寄るクレジットサイクルの影。警戒感の背景とは

LIMO / 2018年6月6日 10時20分

米経済に忍び寄るクレジットサイクルの影。警戒感の背景とは

米経済に忍び寄るクレジットサイクルの影。警戒感の背景とは

企業も家計も政府も債務まみれ!?

5月米雇用統計の堅調な結果を受けて日米の株式市場が大きく上昇しています。ただ、好調な労働市場の影でクレジットサイクルに関する懸念がくすぶっており、米経済も磐石とは言い切れないようです。

今回は、米雇用統計の堅調な結果がクレジットサイクルの懸念を強めるメカニズムを見ていきたいと思います。

5月の米雇用統計は予想を上回る、失業率は18年ぶりの低水準に

5月の米雇用統計では雇用者数が22.3万人の増加となり、事前予想の18.8万人増加を上回りました。失業率は前月から0.1ポイント低下の3.8%となり、2000年4月以来、18年ぶりの低水準へと改善しています。

1時間当たりの賃金は前月比+0.3%と4月の+0.1%から増勢を強め、前年同月比も+2.7%と前月の+2.6%から加速しています。事前予想は前月比+0.2%、前年比+2.6%でしたので、こちらも予想を上回る結果となっています。賃金の伸び悩みが警戒されていたこともあり、騰勢の回復はマーケットに安心感をもたらしたようです。

喜んでばかりもいられない失業率の低下

米雇用統計の結果を受けて、日米の株式市場が大幅高となりました。統計発表前にトランプ大統領が良い数字が出ることをほのめかす内容のツイートをしたことが物議をかもしていますが、黙ってはいられないほど良い数字だったのでしょう。

では、米経済は磐石なのかというとそういうわけでもなさそうです。

まず、雇用統計の内容を見ると労働参加率が3カ月連続で低下している点が警戒されています。日本に限らず、米国でも高齢化が進んでいますので、労働参加率は構造的に低下する傾向にありますが、プライムエイジと呼ばれる25歳から54歳までの働き盛りのみの労働参加率も3カ月連続で低下していますので、労働参加率の低下を高齢化だけで片付けるわけにはいかないようです。

労働参加率の低下は労働者の労働市場からの退出が増加していることを示唆しており、失業者が労働市場から退出した場合には失業率を押し下げます。失業率は18年ぶりの低水準となりましたが、労働参加率の低下を伴っていますので喜んでばかりもいられないのかもしれません。

企業、家計、政府がどれも債務まみれに

労働市場から離れると、最も警戒されているのがクレジットサイクルです。

クレジットサイクルとは、景気循環と同様に信用も拡大や縮小といった循環を繰り返すとの考え方を指しています。また、クレジットサイクルは金融政策と密接に結びついており、たとえば、金融を緩和すると信用が拡大し、金融を引き締めると信用が収縮する恐れがあるといった具合です。

そして、米連邦準備制度理事会(FRB)が金融正常化に動く中、企業や家計、政府の債務が膨らんでいることがクレジットサイクルの観点から問題視されています。

まず、企業債務から見ると、米企業債務の対国内総生産(GDP)比率は昨年7-9月期に45.7%まで上昇し、前回ピークを付けた2009年1-3月期の45.3%を超えて過去30年余りでの最高値となりました。10-12月期も45.3%と高値圏にあります。

いわゆるITバブルが崩壊した2001年7-9月期には44.8%で当時のピークを付けるなど、米企業債務の対GDP比率は45%程度でピークをつけ、その後40%以下まで調整した後に上昇するといったパターンを繰り返しています。

したがって、過去のパターンからすると45%を超える現在の水準は危険水域にあると見なされているわけです。

家計に目を移すと、米家計の債務残高は2017年1-3月期に12兆7250億ドルとなり、それまでのピークであった2008年7-9月期の12兆6750ドルを超えて過去最大に膨らんでいます。また、2018年1-3月期は13兆2100億ドルとさらに拡大し、5四半期連続で過去最大を更新中で現在に至っています。

こうした中で、自動車ローンやクレジットカードでの遅延率が上昇していることから、膨張した家計の信用がはじける前兆ではないかと警戒されています。

最後に政府債務を見ると、米議会予算局(CBO)が4月に公表したリポートでは、2018年度の米政府の財政赤字は8040億ドルと2017年の6650億ドルから拡大する見通しです。その後も財政赤字の拡大は続き、2020年度には1兆ドル、2028年度には1兆5260億ドルとなる見通しで、対GDP比では2017年度の3.5%から2028年度には5.1%に上昇することが見込まれています。

トランプ減税で政府債務が一気に膨らんでいることもあり、米国債への信用が損なわれるのではないかと心配されています。日本国債の海外保有比率は1割程度ですが、米国債は4割以上が海外保有となっていますので、信用が揺らぐことで金利がより大きく動きやすいのではないかと警戒されています。

量的緩和(QE)はクレジット緩和とも呼ばれており、クレジットバブルを誘発しやすいとの見方もあります。FRBは現在、バランスシートの縮小でQEを巻き戻していますので、その影響で企業や家計、政府の膨らんだ債務が一気にはじけ飛ぶのではないかと警戒されているわけです。

利上げスピードの加速がクレジットサイクルの後退にトドメも

FRBは3月に利上げした際、年内にあと2回の利上げ見通しを示していましたが、5月の雇用統計の結果を受けて年内にあと3回との見方が強まっています。

失業率の低下に加え、雇用者数の増加は過去3カ月の平均で17.9万人となり、人口の増加を吸収するとされる10万人程度と比べてかなり余裕のある数字となっているからです。また、賃金の増勢が加速したことも利上げを後押ししそうです。

FRBによると、労働市場では適切な人材を見つけづらくなっており、特にトラック運転手や電気技師、情報技術の専門家の人材が不足していると指摘しています。

雇用主が適切な人材を見つけにくくなっていることから、雇用者数の伸びが減速するとともに、賃金が著しく伸びるのではないかと警戒されてもいます。

金利上昇は債務者には痛手となりますので、米利上げスピードの加速がクレジットサイクルの後退にとどめを指すのではないかとの危機感が強まっているようです。

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