米中貿易摩擦の激化は、むしろ日本経済に好都合
LIMO / 2018年6月27日 21時20分
米中貿易摩擦の激化は、むしろ日本経済に好都合
米中貿易戦争は、日本にとって漁夫の利を得られるチャンスである、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は説きます。
米中が互いに妥協しないのはなぜか
米中貿易戦争が、ますます激しくなってきました。かつての日米摩擦のように、「中国が米国に安い製品を大量に輸出するから米国の雇用が奪われる。何とかしろ」というものであれば、中国が容易に妥協したはずです。中国の方が対米輸出に依存していますし、中国は対米輸入に関税を課しても自国では生産できないため、日欧等から輸入せざるを得ず、対米輸出が減った分がそのまま国内生産を減少させてしまうからです。
しかし、今回の米国の要求というか狙いは、中国が到底容認できるものではなさそうなのです。だからこそ、中国も妥協せずに報復を打ち出していて、落としどころの見えない争いが繰り広げられているのです。
米国の狙いは、中国のハイテク技術の進歩を阻害することのようです。米国の対中輸入関税の対象は、「鉄鋼等のダンピング輸出」ではなく、「対米ハイテク製品輸出」なのです。中国のハイテク企業が対米販売を伸ばすことで成長し、将来的に中国のハイテク産業が米国を追い抜いてしまうと世界の覇権争いに影響が甚大だ、ということのようです。
並行して米国は、中国企業が米国企業を買収する動きも規制しつつあります。中国企業に先端技術が流れてしまうことを防ぐ目的だと言われています。
中国が「中国製造2025」と呼ぶ産業振興策を推進し、技術面での覇権を目指しているわけですから、米国として神経を尖らせるのは当然であり、それだけに振り上げた拳は下ろせません。しかし、中国もここで妥協して壮大な目的を放棄してしまうことはできません。
要するに、中国も米国も、「単に雇用を守る」といった次元ではなく、「将来の覇権争いが懸かった闘い」の様相を呈してきているわけです。単なるトランプ大統領の「アメリカ・ファースト」ではなく、米国の国防全体の問題として、米国の将来が懸かっていると言っても過言ではありません。
日本が期待できる漁夫の利
米国の同盟国としての日本は、米国が中国に覇権を奪われては困りますから、安全保障の観点から米国の政策を注意深く見守る必要があるでしょう。筆者の得意分野ではないので素人の予測ですが、仮に今回の動きが米国の覇権を守ることに役立つのであれば、大いに歓迎すべきでしょう。
今ひとつ、日本は経済的に漁夫の利が期待できる立場にあります。米国の対中輸入関税がハイテク製品対象だとすると、米国の対中輸入が減った分の一部は日本からの輸入に振り替わると期待されます。これは明るいニュースです。
中国の対米輸入関税は、ハイテク製品よりも大豆等が中心のようですから、日本の輸出には思ったほど貢献しないかもしれませんが、工業製品も多少は含まれているはずです。また、中国が買わなくなった分だけ米国産の大豆が安く買えるかもしれません。
今後も貿易戦争が激化し、輸入関税対象品目が増加していけば、日本が受け取れる漁夫の利も増えていくはずです。
世界経済の混乱に日本が巻き込まれる?
ところで、米中貿易戦争で世界経済が混乱して、日本経済も混乱に巻き込まれることはないのでしょうか。可能性は皆無とは言いませんが、筆者は楽観しています。中国も米国も、相手国から買わなくなった物を相手国以外から輸入する(あるいは国内で生産する)とすれば、世界的な物の生産量はそれほど変化しないからです。
ハイテク製品について言えば、中国のハイテク産業の生産が減った分は日米欧のハイテク製品の生産が増えるでしょう。もしかすると、中国のハイテク企業が生産を減らすのではなく、米国に売れなくなったハイテク製品を日欧等に安値で輸出してくるかも知れません。それを米国政府は嫌うでしょうから、あとは日欧政府が米国政府の意向をどれだけ忖度するかですが、いずれにしてもハイテク製品の世界生産が激減するわけではありません。
中国の米国からの大豆輸入が減ったとすれば、中国はブラジル等から大豆を輸入するようになり、従来はブラジル等から大豆を輸入していた国が米国から大豆を輸入するようになるでしょう。
誰かが得をして誰かが損をするかもしれませんが、世界の景気という観点では、それほど大きなことは起きないでしょう。
もちろん、経済学の教えるところによれば、国際分業によって両国ともが得をするわけですから、それが妨げられれば両国とも痛手を被るわけですが、鎖国をするわけではありません。米国は中国以外から輸入し、中国は米国以外から輸入するとすれば、世界経済への影響は限定的なはずです。
そうなれば、日本経済が受ける「漁夫の利」が「世界経済の混乱による打撃」を上回り、差し引きして日本経済にはプラスの影響がある、と期待して良さそうです。
なお、本稿は厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる可能性があります。ご了承ください。
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