なぜアナゴはウナギの代わりにならないのか、その違いは?
LIMO / 2018年7月5日 17時20分
![なぜアナゴはウナギの代わりにならないのか、その違いは?](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/toushin1/toushin1_6559_0-small.jpg)
なぜアナゴはウナギの代わりにならないのか、その違いは?
「土用の丑の日」の夏バテ予防にアナゴは向かない
「土用の丑の日」に夏バテ予防で食べたくなるウナギ
暑さが日々厳しくなる中で、今年も「土用の丑の日」が近づいてきました。今年は7月20日と8月1日の2日ですが、「土用の丑の日」で思い浮かべるのは、何と言っても鰻(ウナギ)ではないでしょうか。栄養豊富なウナギを食べて夏本番を乗り切ろうという、江戸時代に始まった日本伝統の風習でもあります。
しかしながら、近年はウナギの流通量が激減しています。特に、最重要期でもある「土用の丑の日」には価格も高騰しており、一部の輸入品を除くと庶民の食べ物としては高嶺の花になりつつあるのが実情です。
今年は養殖ウナギの生産量増加により多少の流通量増加が見込めるものの、劇的な改善には程遠い状況と言えましょう。
ウナギ不足で多くの代替食品が登場
一方では、こうした事情を背景に、ウナギの代替食品(代替魚)も登場しており、ナマズやパンガシウス(注:東南アジア産の白身魚、ナマズの仲間)などがスーパーの売り場にも並んでいます。食した人の感想によれば、ウナギの味とよく似ており、言われなければ分からないとの評判も少なくないようです。
ところで、ウナギと似た食品として真っ先に思い浮かべるのは穴子(アナゴ)という人も多いのではないでしょうか。味は明らかにウナギと違いますが、見た目はよく似ています。それに、ウナギに負けず劣らずおいしいですし(注:筆者の感想です)、栄養分も高いような印象があります。
にもかかわらず、ウナギの代わりにアナゴを食するという話をあまり聞きません。なぜでしょうか。そこで、「穴子の日」でもある7月5日を迎えるにあたって、その背景を考えてみます。
アナゴとはどういう魚なのか?
そもそもアナゴとはどういう魚なのでしょうか?
アナゴは、「ウナギ目アナゴ科」に属する魚類の総称です。ウナギによく似た細長い体型の海水魚で、食用や観賞用で利用される種類を多く含んでいます。その種類は意外に多く、150種類以上あることが知られています。
ただ、私たちが“あー、おいしい”と食べるアナゴは、浅い海の砂泥底に生息している「マアナゴ」と見ていいでしょう。なお、ここから先は、特記のない限り「アナゴ」=「マアナゴ」とします。
見た目が似ているアナゴとウナギを比べてみると…
さて、アナゴの特徴を理解するには、見た目がよく似ているウナギと比較するのが分かりやすいかもしれません。両方とも同じ「ウナギ目」に属しますが、ウナギは「ウナギ科」、アナゴは「アナゴ科」です。
まず、生態の違いを見てみると、ウナギは降河性の回遊魚(海で産卵し、ふ化した後に淡水域に遡上して河川や湖沼で成長する魚)であるのに対して、アナゴは海水魚(その一生を海で過ごす)です。
したがって、基本的には、川や湖でアナゴが獲れることはあり得ません(一部地域の河口周辺を除く)。また、養殖もほとんどありませんが、最近は研究が進んでいるようです。
栄養分で見ればアナゴはウナギに完敗
そして、最大の違いは、その栄養分と味です。ウナギはアナゴの約2倍の脂質を有しているため、ウナギの方が高カロリーで“こってり”とした味がします。一方、アナゴは低カロリーで“さっぱり”とした味です。
また、栄養分では、ウナギはアナゴの約5倍にも上るレチノール(ビタミンA)を含み、ビタミンB1、B2、D、E、カルシウムなどもウナギの方が断然多いことが分かっています。さらに、近年話題になっているEPA(血液中のコレステロール減少に効果があるとされる)やDHA(脳の活性化に有効と言われる)も、ウナギのほうが多いことが判明しています。
残念ながら、と言っていいのかわかりませんが、栄養分ではウナギに軍配が上がります。「土用の丑の日」の夏バテ予防効果という観点では、少なくとも、アナゴよりウナギを食べる価値のほうが十分大きいことは間違いないようです。
アナゴの漁獲減少のニュースをあまり聞かないが…
さて、近年はウナギ(注:正確には「ニホンウナギ」)の稚魚が激減したため、ウナギの流通量も大幅減少となり、その結果として価格高騰となっているのはご存じの通りです。しかし、アナゴに関しては、同じような品不足や価格高騰のニュースをあまり聞かない気がします。
現在、アナゴの漁獲量はどうなっているのでしょうか。
アナゴの漁獲量は直近22年間で4分の1に
結論から言うと、アナゴの漁獲量も激減しています。1995年に約1万3千トンあった漁獲量は、2017年には約3千400トン(速報値、前年比▲200トン)へ減少しました。22年間で約▲74%減ですが、この減少ペースは、全体の漁獲量の減少度合(同▲46%減)と比べても大きなものとなっています。
一方で、韓国産や中国産のアナゴの輸入量は増えている模様であり、駅弁、回転寿司、天ぷらで使われるアナゴは、その相当量が輸入品と考えられます。
ウナギとアナゴの市場規模の違いは?
こうした状況にもかかわらず、ウナギに比べてアナゴの品薄に関するニュースが少ないのは、市場規模と嗜好の差なのでしょうか。ちなみに、輸入品(注:加工品を含む)を含めた年間のウナギ生産量(=ほぼ消費量に近い)は2017年実績で約5万3,300トンあります。この数字は、10年前(2007年実績)の約半分の規模です。
一方、養殖がほとんど実施されていないアナゴを同じベースに換算することは難しいですが、前述の漁獲量3千400トンに輸入品を含めても、せいぜい7千~8千トンといったところでしょう(筆者推計)。市場規模としてはウナギの約7分の1~8分の1になります。
これだけ市場規模が小さければ、品薄のニュースが少ないのも仕方ないことかもしれません。
やはり、日本人には“ウナギ神話”が根強く残っていると言うのは言い過ぎでしょうか。今一度、アナゴの美味しさも実感したいところです。
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