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「NAND祭りの閉祭宣言」で半導体市況の先行きに不安感?

LIMO / 2018年7月12日 21時35分

「NAND祭りの閉祭宣言」で半導体市況の先行きに不安感?

「NAND祭りの閉祭宣言」で半導体市況の先行きに不安感?

“半導体スーパーサイクル”の提唱者は真っ向反対

 クレディ・スイス証券は先ごろ、「NAND祭りの閉祭宣言」というリポートを発表し、これが物議を醸している。NAND型フラッシュメモリーは、直近のスマートフォン需要が減り、生産歩留まりも上がったことで需給が緩み、半導体はどこかの時点でマイナス成長に入っていくという指摘である。いわゆる半導体の好況が長く続くスーパーサイクルは消滅したと見ているのだ。

 半導体産業には、3~5年ごとに好不況を繰り返す独特の市況サイクルがずっと存在していた。これを俗にシリコンサイクルと呼び、かつては4年ごとに開催されるオリンピックイヤーにテレビなどの家電が盛り上がることから、オリンピックサイクルとも呼ばれていた。

 野村證券の名物アナリストとして知られる和田木哲哉氏が提唱した「スーパーサイクルを迎えた半導体業界」というオピニオンにより、これまでのシリコンサイクルとは異なり、好況が長く続くという予想が市場を席巻していた。これに対して、クレディ・スイス証券は半導体祭りはもう終わったのだと茶々を入れたことになる。スマホの低迷だけでなく、ZTEに代表される米中間の貿易摩擦により半導体の輸出ペースが鈍り、中国の半導体設備投資もダウン傾向に入る可能性を指摘しているのだ。

IoT社会の需要は膨大、NANDだけが半導体にあらず

 さて筆者は、この半導体祭りの終祭宣言に対しては、かなり近視眼的な条件出しによる予想であると思っている。半導体の活況はスマホやデータセンター向けのNANDフラッシュメモリーだけで語られるものではないからだ。

 半導体大活況の裏には第4次産業革命といわれるIoT社会の構築があり、それはビル、建物、物流、生産工場、道路、病院そして次世代自動車、さらにはAI、ロボティクスにまで広がる分野に一大技術革命が起きていくことを意味する。つまり半導体を支えてきたビッグアプリはスマホ、パソコン、タブレット、液晶テレビがそのほとんどという時代とは一線を画している。これからの社会は通信用LSI、CMOSイメージセンサー、様々なメモリー、ハイエンドロジック、そしてパワー半導体を膨大に必要とする社会であり、NANDフラッシュメモリーという一つのデバイスで左右されるものではないのだ。

「幸せの名の下に世界は監視社会に突入した。中国では2000万カ所に監視カメラが設けられ、人の顔全体を分析しビッグデータにつなげるという恐るべき社会コントロールが行われようとしている。このことの是非はともかく、世界はどうあっても戦争回避、安全・安心の追求に向かうわけだから、監視社会の始まりは巨大な半導体市場の始まりを意味する。よって半導体のスーパーサイクルは全く変わることはない」

 これは前述の、半導体のスーパーサイクル論を提唱した和田木氏の最近の談話である。つまり野村證券としては、クレディ・スイス証券に対し真っ向反対のオピニオンを表明したと見てよいだろう。

 筆者もまた和田木氏に同調するものであり、寄せ集めのエンジニアで半導体が立ち上げられる現状はかなり危ないとは思っているが、これまでとは全く違うIoT社会の構築が急速に進んでいる限り、半導体がヘタることはないとも思っている。

世界3位のグローバルウェーハズは次々に増産投資

 ちなみに、このクレディ・スイス証券のリポートの発表とクロスオーバーするようにして、一つの重大ニュースがあった。世界第3位のシリコンウエハーメーカーのグローバルウェーハズが、480億円を投じ韓国における工場増設に踏み切る考えを明らかにしたのだ。9月にも着工し、2020年下期の量産を見込んでいる。さらに日本の新潟や台湾においても増産投資を検討しているという。

 同社によれば、「2020年までの注文はびっしり満杯となっており、顧客に対しては2021年から2025年の商談に入っている」とまで言っているのだ。こうした状況下で半導体が一気失速という見方には全く同調できない。

 和田木氏はこうも述べている。
「CVD装置が不足して作れない。アルミ電解コンデンサーが足りなくて作れない。さらにはコネクターが不足してすべての装置が作れない。こうしたマイナス要因がはっきり出てきている。しかし重要なことは、半導体需要そのものは決して衰えてはおらず、全く作りきれていないという事実の連続がある。スーパーサイクル否定論にははっきりと反駁する」

(泉谷渉)

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■泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
 30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は電子デバイス産業新聞を発行する産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎氏との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)などがある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。

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