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社会保障と安全保障、日本の「先送り」崩壊が直撃する世代は?

LIMO / 2018年7月31日 20時40分

社会保障と安全保障、日本の「先送り」崩壊が直撃する世代は?

社会保障と安全保障、日本の「先送り」崩壊が直撃する世代は?

書評『逃げられない世代 ――日本型「先送り」システムの限界』

なぜ、政治家も官僚も「先送り」するのか

超高齢時代を迎え、医療や介護、年金などの社会保障費は増大の一途だ。それをまかなうために国は借金を重ね、その額は1000兆円を超え、さらに膨らみ続けている。財政破たんの危機が叫ばれて久しいが、果たしてどこまで持ちこたえられるのか。

このまま抜本的対策を取らずに問題解決を「先送り」すれば、2036年に限界に達し、社会保障制度に加え、国の安全保障も含めた国家システムが崩壊の危機に陥ると、本書『逃げられない世代(https://www.amazon.co.jp/gp/product/4106107716/ref=as_li_qf_asin_il_tl?ie=UTF8&tag=navipla-22&creative=1211&linkCode=as2&creativeASIN=4106107716&linkId=4a2b47cb12482b6a06a669afb10aa212)』は警告を発する。2036年というと、18年後。残された時間は短い。著者は元経済産業省のキャリア、1981年生まれの若手論客だ。

そもそも、これらの問題は早くからわかっていたことである。本書によれば、社会保障費の膨張による国の財政悪化は90年代から予測されていた。しかし、こうした長期的な課題に対し、政治家や官僚は有効な対策を打ってこなかった。というか、打てなかった。

なぜか。それは日本特有の国政システムのせいだと著者は指摘する。国会議員は目先の選挙(衆議院議員は平均3年ほどで解散)を意識するため、2~3年の短期的視点でしかものごとを考えられない。国民ウケしない政策(増税や社会保障費負担増など)は立案しにくい。

任期が6年と長く解散もない参議院は「良識の府」とされ、本来ならば政党の立場にとらわれず中立的に、長期的視野での審議ができるはずだが、参議院もいまや政党の枠に閉じ込められ有効に機能していない。結果、課題解決は「先送り」される。

他方、実務を預かる行政、官僚はどうか。政治家のように選挙を意識する必要がないので、長期的視点で政策立案に取り組めそうだが、こちらもそうはいかない事情があるという。人事制度だ。中央省庁は頻繁に異動があり、部署を移る。課長補佐以下は2~3年、課長以上の幹部級は1~2年。

したがって担当分野に長期的な課題があっても、対応が難しい。「短期志向の政治の要請を踏まえた上で、せいぜい2~3年で実現できる対症療法的政策の立案をすることが基本的な姿勢」となる。こうして官僚側もまた「先送り」を繰り返す。

噴出する問題をもろに被る世代は

経済が成長し、人口が増えていた時代は何とかなっていた「先送り」システムも、経済が停滞し、人口減少に転じた現在はそうはいかない。

では、どうなるのか。人口構造から分析すると、社会保障制度は団塊ジュニア世代(1971年~74年生まれ)が高齢者となる2036~40年には「先送り」システムの限界がやってくると予測。あらゆる問題が噴出することになる。

つまり、団塊ジュニア以降の世代(いまの20~30代)は「先送り」ができなくなる。それが本書のタイトル「逃げられない世代」である。

ああよかった、自分たちはギリギリセーフだと思った団塊ジュニア以前の世代も、そんなに甘くはない。

「先送り」システムの破たんは早まる可能性が十分あるし、増税や年金受給開始年齢の引き上げは避けられないだろう。厳しい老後が待っている。本書でも、それに備えたキャリア形成、定年後の新たな働き方や生き方を提案している。

安全保障にも暗雲、最悪は中国の属国に!?

一方で、日本型の「先送り」システムの弊害は、社会保障制度にとどまらず、国の安全保障にも及ぶと著者は警鐘を鳴らす。

日本の安全保障はこれまで米国に依存してきたが、それは経済力があったからだという。今後、世界経済における日本のポジションは低下していく。アジアでは中国が台頭し、インドも急成長する。日本の存在感は薄まる。それが顕著になるのが2030年だという。

米国は、経済力の衰えた日本にはもはや用はないとばかり日米の同盟関係を解消するかもしれず、そうなれば日本は「最悪のケースでは中国の属国になってしまう可能性」もある。

それを回避するために、安全保障面でもそのあり方を抜本的に見直す必要に迫られていると著者は強調する。

日本の安全保障にとって要となるのが、自由貿易体制と日米同盟体制の維持だという。さらに、中国をけん制するためには「潜在的核保有国」(実際の核は持たないが、核を保有する技術を有する)であり続けることが不可欠だとする。

日本は苦難の時代を乗り越えられるのか

いずれにせよ、日本は2030年代半ばごろから苦難の時代を迎えるということだ。暗たんたる思いがするが、著者は「私は日本の未来は明るい」と確信していると前向きだ。それは理屈ではなく、歩んできた歴史によるとのこと。

日本は明治維新、日清・日露戦争、第二次世界大戦などを乗り越え発展してきた。したがって、これから起こるであろう危機も乗り越えられるはずだと。

いまの日本の国会・行政システムは長期的課題解決には対処できないが、いずれ「先送り」できない時がくれば、「与野党・官僚がそれぞれの立場を超えて胸襟を開いて、新しい日本の統治システムを作ってくれるでしょう。彼らの“大部分”はバカではなくむしろ勤勉で優秀ですし、なによりも日本のことが好きなのですから」と述べる。

希望的観測ではあるが、ぜひ、そうあってほしいものである。

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逃げられない世代 ――日本型「先送り」システムの限界 (新潮新書)(https://www.amazon.co.jp/gp/product/4106107716/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4106107716&linkCode=as2&tag=navipla-22&linkId=556e458617173305b8ccec6f589c8a16)
宇佐美典也 著 
800円(税抜き)

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