サムスンの有機ELは曲がり角、アップル20年モデルで液晶に回帰
LIMO / 2018年8月2日 12時15分
サムスンの有機ELは曲がり角、アップル20年モデルで液晶に回帰
ジャパンディスプレイには追い風
中国スマートフォンの出荷に急ブレーキがかかっている。2016年に年間4.9億台でピークに達した中国スマホはその後足踏みを続け、17年に初めて前年比マイナスとなった。18年に入っても1~5月は対16年比で24%も減少しているのだ。
ただしこうした中にあって、中国スマホメーカーの主要4社は18年には1億台プレーヤーに成長していく。トップを走るHuaweiは18年に1億7000万台を出荷する計画であり、これに続くXiaomiは1億2000万台、Oppoは1億500万台、Vivoも9500万台になるという。
中国で振るわないサムスンは有機ELで攻勢
それはともかく中国市場において、全く存在感が薄いのが韓国サムスンである。世界のスマホランキングで言えば、堂々の1位の座にあるサムスンは17年に3億2000万台を出荷した。しかし中国国内の出荷に限れば、何と全出荷台数の3%しかないのだ。これに対してアップルはさすがに世界ブランドであり、総出荷台数は17年で2億3000万台であるが、そのうち22%は中国国内に出荷している。
スマホ全体の伸びが止まっている中で、中国における拡大戦略もままならないサムスンは、有機ELスマホで攻勢に出る戦略を推し進めてきた。確かに自社ブランドの「Galaxy」シリーズには有機ELを全面採用し、アップルの「iPhone X」にはサムスン製の有機ELが採用された。だが今年9月以降に発売される新型iPhoneについては、生産台数のうち液晶(6.1インチ)が全体の60%、有機EL(6.5/5.8インチ)が40%となっており、ここにきてやはり液晶が強いという感がある。
そして水面下で流れている情報として、アップルの次々世代版とも言うべき、20年の5Gモデルについては、有機ELは全く採用されず、すべて液晶になるとのことなのだ。こうなればこれまで経営に赤信号が灯り、危機を脱出できなかった日本のジャパンディスプレイ(JDI)に超追い風が吹くことは間違いないだろう。
もちろんサムスンは、フォルダブルと呼ばれる折り畳み式の有機ELスマホにすべてをかける考えを固めている。4.5インチ有機ELを2枚使いで折り畳み方式とするのだが、単価は20万円以上が予測され、パソコン並みの価格になっている。「このような高額スマホを一体誰が買うのか」という疑念が消えない。あくまでもサムスン側のメーカー論理で推し進めている作戦であると思えてならない。
こうした事情もあってか、サムスンの有機ELの工場稼働率は現在20%未満とも言われており、待ったなしのクライシスに陥っている。最もサムスンを追い上げるはずの中国BOEの有機ELも大苦戦している。JDIの有機ELについてもいまだ量産出荷のめどが立たない。一方で有機ELテレビは韓国LGが圧勝しており、パネルベースでは100%シェアを持ち、テレビベースでも74%を占有している。有機ELで最先行しながらも、苦戦するサムスンの姿が浮き彫りになってきたのだ。
これらの状況を反映し、有機EL蒸着装置最大手のキヤノントッキ、そしてまたこの装置技術に優れる平田機工はいずれも今後の業績について下方修正を行わざるを得ないという状態に陥っている。もちろん主要材料を提供している出光興産をはじめとする各種材料メーカーにも影響は広がりつつある。
スマホ向け有機ELはサムスンの一人相撲?
かつてディスプレーのクオリティーとしては世界で最も素晴らしいと言われたプラズマディスプレーは、結果的にパナソニックの一人相撲となり、勃興してきた液晶にそのすべての市場を奪われてしまった。サムスンのスマホ向け有機ELもまた一人相撲の様相を呈し始めているといえよう。最もサムスンはマイクロLEDディスプレーまたはQLED(量子ドット)で勝負をかける考えもあり、先ごろ2019年ごろをめどにマイクロLEDテレビを販売することをアナウンスした。
しかしながら有機ELを拡大する戦略を一気に推し進めてきた同社が、マイクロLEDなどに軸足を移すということはある意味で考えられないことだ。ましてやポスト有機ELの大本命と言われるマイクロLEDディスプレーについては、技術および量産ともに日本のソニーが大きく先行しているわけであり、サムスンは前哨戦で劣勢に立っている。
今や半導体の世界チャンピオンであり、フラッシュメモリーおよびDRAMにおけるサムスンの強さ、そしてまた収益性の高さは、世界に誇るべきものがあるだろう。しかしながら一方で、有機ELの時代をフロントランナーとして切り拓いてみせると宣言したサムスンの戦略は、いよいよ大きな曲がり角に入ってきた。欲しいものは何でも手に入れてきたサムスンにあっても、大きなつまずきというものがあるのだ。
(泉谷渉)
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■泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は電子デバイス産業新聞を発行する産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎氏との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)などがある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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