人気下火のビットコイン~仮想通貨の命運を握るビットコインETFは実現するのか?
LIMO / 2018年8月21日 10時45分
人気下火のビットコイン~仮想通貨の命運を握るビットコインETFは実現するのか?
カギは管理業務の整備
人気が下火となって久しい仮想通貨ですが、起爆剤として期待されたビットコインETFの上場が先送りされたことも不人気に拍車をかけているようです。もはや仮想通貨の命運を握っているといっても過言ではなくなってきているビットコインETFですが、いつになったら上場されるのか、見通しや課題を踏まえて最近事情をまとめてみました。
ウィンクルボスETFの申請却下でビットコイナーも意気消沈
2018年の仮想通貨市場はビットコインETFを巡る期待と失望で揺れ動いており、年初来の安値圏に沈む現在のビットコイン価格がそのことを端的に物語っています。というのも、最近の仮想通貨市場の低迷にはビットコインETFに関連する2つの大きな失望が影響しているとみられているからです。
まず、7月下旬にウィンクルボス・ビットコイン・トラストETFの上場申請が米証券取引委員会(SEC)により却下されています。
申請を主導したウィンクルボス氏は双子の兄弟で、フェイスブックのアイデアを巡る同社との訴訟で一躍有名になりました。2013年に訴訟で得た和解金をビットコインに投資し、その後の価格上昇で大富豪の地位へと登りつめています。
フォーブス誌が今年2月に公表した仮想通貨長者番付では堂々4位にランクインしており、保有するビットコインの時価総額は10億ドル(約1100億円)相当と推計されています。
ウィンクルボス兄弟は2015年に仮想通貨取引所「ジェミニ」を設立し、米ドルとビットコインとの取引で大きなシェアを占めるなど、ビットコインの普及に並々ならぬ熱意を示してきました。また、2013年という早い段階でビットコインETFの上場を申請し、2017年3月に却下されています。
こうした経緯から、ウィンクルボス兄弟はビットコイナー界の「教祖」的な存在となっており、満を持して再申請したウィンクルボスETFがあっさりと却下されてしまったことで支持者に大きな衝撃が走ったようです。
最有力だったCBOE ETFも審議延長で投資家心理の悪化に拍車
さらに8月7日には、SECがシカゴオプション取引所(CBOE)が申請していた「VanEck SolidX Bitcoin Trust ETF」(CBOE ETF)を承認するかどうかの審議を9月30日まで先延ばししたことも投資家心理の悪化に拍車をかけたようです。
背景にはこのCBOE ETFが最初のETFとして本命視されていたこと、そして8月10日を運命の日と見込んでフライングぎみに資金が流入していたことが挙げられています。
CBOE ETFが本命視されていた最大の理由はビットコインそのものを裏付けとしていた点です。当たり前と思うかもしれませんが、これまで25種類以上のビットコインETFが申請されていますが、そのほとんどが先物をベースとしています。
やや難しい話となりますが、ビットコインの場合、この先物契約に現物の裏付けがありません。たとえば、100ドルで買ったビットコイン先物が150ドルに上昇した場合、差額の50ドルを受け取ることはできますが、ビットコインを受け取ることはできません。
多くの先物取引は現物を裏付けとしており、たとえば100ドルで買った金がその後150ドルに上昇した場合、150ドルで反対売買をして差額の50ドルを得ることも可能ですが、100ドルで現物を引き受けるという選択肢もあります。
ビットコインが何であるかは専門家の間でも意見の分かれるところですが、ことETFの申請に関しては商品(コモディティ)として扱われています。ただし、ビットコインは金や原油と違って実物資産として物理的に存在しているわけではありません。
また、ビットコインは半数以上のコンセンサスを得られればコードを書き換えることが可能です。さらに、ビットコインから分岐(フォーク)したビットコインキャッシュ(BCH)はBCHこそ本物のビットコインだと主張しています。
こうした状況を踏まえて、最低限ビットコインの現物を保有してETFの裏付けとすることが求められていると考えられています。
また、申請から承認に至るプロセスに誤解があったことも状況を複雑にしたようです。ETFは申請から45日以内に承認の可否が判断されますが、必要に応じて公開から90日まで延長が可能です。さらに、審議期間は最大で240日まで延長することができます。
CBOE ETFは6月26日に申請され7月2日に公開されていますので、まず申請から45日以内となる8月10日までに何らかの判断が下されることになりますが、今回の8月7日の発表は公開から90日に当たる9月30日までの継続審議が決定されたことを示しています。
ただ、8月10日までに承認の可否が判断されると勘違いをした投資家が承認されることに賭けてビットコインの買いを膨らませたことで、8月7日の判断先送りが寝耳に水となり、投資資金が潮が引くように撤退したことが相場を崩したとの見方もあるようです。
問題はカストディアン、分離保管に嫌疑
SECは承認の却下や判断の先送りの理由として、価格操作や詐欺などの不正防止策や投資家保護が不十分であると指摘しています。ただ、ウィンクルボスETFの却下やCBOT ETFの判断先送りの本当の理由はカストディにあるようです。カストディとは証券の管理業務のことですが、焦点は分離保管にあるようです。
やや専門的な話となりますが、ヘッジファンドは顧客の資産を預かって運用しており、証券の売買をしている運用者(ファンドマネージャー)と口座所有者は違います。顧客の資産が分離されていないことが発覚すれは規則違反で処罰の対象となります。
ところが、ビットコイナーには当然のことかもしれませんが、ビットコインは買った人とその所有者が一致します。たとえば、あるファンドマネジャーが100人分のビットコインを購入した場合、すべてビットコインはいったんそのマネジャーのアカウントに入ってから振り分けられることになります。
ただし、それぞれのビットコインに色がついているわけではありませんので、どれが誰のビットコインなのかは買った本人にしか分かりません。
こうした問題は証券を売買する際にも発生しますが、こうした面倒な作業を引き受けているのがカストディアンであり、大手の証券会社であればどこもこのカストディアン・サービスを受けられます。
ここで重要なのが、ETFの申請者とカストディアンは別が望ましいということです。先ほどの例からもわかると思いますが、第三者のカストディアンが中立な立場で保管しないと、購入した証券が恣意的に振り分けられる恐れがあるからです。
そして、ビットコイン市場には信頼できるカストディアンが不在であり、そのことがETF承認の大きな壁になっています。たとえば、ウィンクルボスETFを例にとると、申請者がカストディアンを兼務しており、こうした構造上の問題が却下の理由ではないかとみられています。
カストディ業務の整備を急展開中
仮想通貨業界は現在、悲願のビットコインETF上場に向けてカストディ業務の確立を急いでいます。
たとえば、昨年11月には米仮想通貨取引所大手のCoinbase(コインベース)がカストディアン・サービスを開始しています。ただ、取引所へのハッキング事件が相次いでおり、コインベースも昨年12月の価格急落時に取引を停止するなど、仮想通貨取引所への信頼は必ずしも高いものではありません。
しかし、8月には、5月に仮想通貨市場への参戦を表明していたゴールドマン・サックスがカストディ業務を検討していることが報じられたほか、ニューヨーク証券取引所(NYSE)の親会社であるインターコンチネンタル取引所(ICE)が仮想通貨業務に特化した新会社・Bakktを設立し、カストディ業務も提供することが表明されています。
こうした動きは、ウィンクルボスETFの申請却下、CBOE ETFの承認先送りという厳しい現実に直面し、仮想通貨業界がカストディ業務に本腰を入れ始めたことをうかがわせています。
CBOT ETFの承認判断は9月30日まで先送りされましたが、最大の審議延長期間となる来年2月まで判断が先送りされるとの見方が有力視されています。SECは必ずしもビットコインに否定的なわけではなく、カストディ業務の整備を待っていると見られているからです。
こうして考えると、ビットコインETFが承認されるのは時間の問題といえるのかもしれません。ただ、いつになるのかはゴールドマンやNYSEを中心としたカストディ業務の整備スピードにかかっているようです。
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