完全自動運転へのキーデバイス「LiDAR」。小型・低価格で開発競争激化
LIMO / 2018年8月27日 21時20分
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完全自動運転へのキーデバイス「LiDAR」。小型・低価格で開発競争激化
本記事の3つのポイント
ADAS(先進運転支援システム)の普及拡大に伴い、暗い中でも障害物や歩行者などを認識でき、対象物までの距離やその形状を高精度に把握できる「LiDAR(Light Detection and Ranging)」が大きな注目を集めている
LiDAR開発では米欧メーカーが先行。ベロダインやヴァレオなどが代表格で、トヨタも米ルミナーテクノロジーズ製を搭載した自動運転の新型実験車を「CES 2018」で公開した
海外勢にやや出遅れ気味の日系メーカーも巻き返しに意欲。パイオニアや京セラなどが開発に力を入れている
昨今の自動車業界では、高級車から大衆車に至るまで、幅広いクラスの車種に運転支援システムの搭載が進んでいる。自動ブレーキや衝突警報、車線維持支援、追従走行などの機能実現によりクルマの安全性が飛躍的に向上し、2020~21年ごろには、高速道路限定ではあるが、いよいよ自動運転のレベル3(条件付き自動運転)の導入が進むと見られ、クルマを取り巻く環境は大きな転換期を迎えつつある。
現在の運転支援システムでは、人間の目にあたるカメラ(イメージセンサー)や、高い周波数の電波を使った高精度で高視野角のレーダー技術であるミリ波・準ミリ波レーダー、超音波センサーなどが前後左右のクルマや歩行者、自転車、障害物、信号、標識、車線、レーンなどを識別・判断している。
今後もこれらのセンサー部品の高性能化は不可欠となるが、さらなる安全性の向上に向けては、暗い中でも障害物や歩行者などを認識でき、対象物までの距離やその形状を高精度に把握できる「LiDAR(Light Detection and Ranging=レーザーによる画像検出と測距)」が大きな注目を集めている。一定の条件下ではクルマのシステム側が事故時などすべての責任を持つことになるレベル3以降の自動運転では、ダブル、トリプルでの安全性確保が必要不可欠で、LiDARへの期待は大きい。
欧州車で17年モデルから搭載開始
LiDARは、光源に赤外線レーザー光(一般的な波長は905nm)を利用したセンシング技術である。照射した光パルスの反射光を受信し、解析処理することで障害物までの距離や物体の3次元形状を高精度で検出できる。自動運転では歩行者も検知する必要があるため、解像度は光パルス(点群数)を増やすことでより高解像度にすることが可能だが、データ処理に負荷がかかるため、検知範囲と解像度はバランスを考慮する必要がある。
LiDAR市場は、20年に10億ドル以上、22年には30億ドル以上にまで急拡大すると予測されているが、自動車向けでは17年にアウディの新型セダン「A8」において、前方監視向けに仏ヴァレオ社製のLiDARが初めて搭載されたばかりの状況だ。
自動運転の性能向上に向け、LiDARへの期待は大きいものの、本格的な普及に向けては課題もある。現在のLiDARは、モーターによってミラーを回転させる機械的な構造を採用しているため、耐久性に加えて価格がボトルネックとなっている。クルマのデザインを制約しないためには、さらなる小型・軽量化も不可欠で、各社とも、モーターなどの機械的な駆動を用いないMEMSミラー方式や独自技術の製品開発にしのぎを削っている。
米欧メーカーが製品化で先行
1983年設立の米国ベロダインは、自律走行車両向けの3Dビジョン・システムのリーディング・サプライヤーとして知られる。カリフォルニア州サンノゼにメガファクトリーを有しており、18年にはLiDAR製品で100万台以上の生産を見込む。自動運転の走行試験車両において、広く搭載されているのが同社の全方位LiDAR「HDL-64E」である。64個のレーザー送受信センサーを内蔵し、水平方向360度、垂直視野26.8度の画像認識を実現。さらに0.08度という世界最高レベルの分解能を有しており、測定精度は±2㎝、測定距離は約120mまで対応できる。
ヴァレオは、ADAS(先進運転支援システム)関連のセンサー製品などを累計7億個以上出荷するなど、駐車支援・運転支援分野のマーケットをリードしている自動車部品メーカーだ。業界に先駆けて市場投入した車載規格対応のLiDAR「SCALA」は、量産車両に唯一搭載されている製品で、すでに5000台以上が出荷されている。検知距離は車両であれば150m、歩行者では80m。視野角は、水平方向145度(解像度0.25度)、垂直方向3.2度(同0.80度)である。先ごろ公開した第2世代の「SCALA2」は、現行品に比べて垂直視野角を3倍まで高めることで、路面標示の読み取りなどへの活用を実現している。さらに同社では20年代の市場投入を視野にソリッドステートタイプの開発に取り組むなど製品化を加速させている。
トヨタ・リサーチ・インスティテュートが米ラスベガスで開催された「CES2018」で公開した自動運転の新型実験車「Platform3.0」には、米国のルミナーテクノロジーズ製のLiDARが搭載された。200m先の監視が可能なシステムで、4つの高解像度LiDARと、短距離LiDARをフロントフェンダーの両側ならびに前後バンパーの四隅に装着することで、外周360度の認識を実現している。生産拠点は米国フロリダ州オーランドにあり、生産能力は1万台規模。
トヨタの自動運転 新型実験車「Platform3.0」(提供:トヨタ自動車)
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米国クアナジー・システムズは、デルファイやサムスン・ベンチャーズ、GPキャピタルなどから9000万ドルもの資金を調達し、ソリッドステート型LiDARの増産に取り組んでいる。18年8月には同LiDARの生産ラインが、国際自動車産業特別委員会が策定したIATF16949の認証を取得。同社では、ISO9001:2015品質規格の認証も取得しており、この生産ラインで「S3」ソリッドステートセンサーの量産を本格的に開始していく構えだ。
日本勢の巻き返しに期待
現状、海外勢がリードするLiDAR市場だが、日本でも様々なメーカーで製品化の動きを加速している。パイオニアは、「東京モーターショー2017」で、MEMSミラーとレンズを組み合わせたラスタースキャン方式(水平の走査線を縦方向にスキャン)の3D-LiDAR初期サンプルを公開。20年代には量産化したい考えだ。さらに、回転するミラーに赤外線を照射してらせん状にスキャンし、180度以上の広角を実現するウォブリングスキャン方式の製品について、18年に初期サンプル、20年ごろをめどに最終サンプルを投入する見通し。
京セラは、18年5月にカメラとLiDARを組み合わせたフュージョンセンサーの開発を明らかにした。分解能は0.05度を実現しており、業界最高レベルのスペックとしている。構造は独自の光学系を採用し、モーターなどの機械的機構を用いないことで高信頼性・小型化を実現。「現在、量産化については22~23年ごろを計画している。構造については、MEMSミラー方式か、その他の非メカニカル方式を採用するか、今後検討していく」(担当者)と語っており、後発ながらも開発競争に名乗りを上げた。
電子デバイス産業新聞 記者 清水聡
まとめにかえて
LiDARは自動運転技術を実現するうえで、欠かせないキーパーツです。ただ、コスト的な障壁が高く、低価格化と同時に小型・軽量化も強く求めれており、まだまだ改善の余地が残されている市場です。現在は欧米勢が先行するLiDAR市場ですが、技術的な差異化を打ち出すことができれば、十分に日系メーカーの巻き返しは可能といえるかもしれません。
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