1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. 経済

次世代HDD技術がついに登場、東芝はMAMRで勝負する

LIMO / 2018年9月25日 10時20分

次世代HDD技術がついに登場、東芝はMAMRで勝負する

次世代HDD技術がついに登場、東芝はMAMRで勝負する

2019年に各社が市場投入

本記事の3つのポイント

HDDの次世代記録技術が2019年に相次ぎ登場さらなる高密度化を達成すべく、MAMRなどのアシスト技術が採用される見通し

既存のHDDでは垂直磁気記録が主流だが、頭打ちの状態に。主要HDD3社のうち、東芝とWDがMAMR、シーゲートがHAMRを選択

MAMR/HAMRなどアシスト技術以降の次世代技術に関しても、3次元化などの新技術が提案されている

 

 HDD(ハードディスク装置)の次世代記録技術が2019年に相次ぎ登場する。次世代技術として開発が進むのがMAMR(マイクロ波アシスト記録)とHAMR(熱アシスト記録)だ。米国のWestern DigitalとSeagate Technology、さらに東芝を加えたHDDメーカー3社が新技術でしのぎを削る。
 果たして、次世代HDD技術の本命は。

HDDはストレージの主役

 HDDはパソコン(PC)やAV機器、データセンターの記録装置として広く利用されている。近年では、フラッシュメモリー(半導体メモリー)を用いたSSDの普及が進んでいるが、記録容量やビット単価(単位情報あたりのコスト)で比較した場合、依然としてHDDのアドバンテージは大きい。

 HDDは磁気ディスク(磁性材を成膜した円板)の中の微小な磁石の向きが反転する現象を利用して、1、0のデータを記録・再生する。米IBMが1956年に発表した「RAMAC」が世界初のHDDと言われている。すでに半世紀上の歴史がある技術だが、磁気ディスクの表面をヘッドが移動することで記録・再生する、という基本的なメカニズムは現在も変わっていない。

 変わったのは記録密度(容量)と装置の大きさである。直径24インチ(約60cm)の磁気ディスクを50枚使用していたRAMACは、とにかく大きかった。一方で、記録密度は平方インチあたり2k(キロ)ビットと、現在のHDDと比較すると絶望的とも言える少なさである。

 現在のHDDのフォームファクターは3.5インチと2.5インチで、記録密度は平方インチあたり1T(テラ)ビットに達している。単純計算で、HDDの記録密度は60年間で5億倍に増えたことになる。
 ちなみに、以前は1インチや1.8インチといった小型HDDもあったが、その領域は完全にフラッシュメモリー(SSD)に置き換わった。

(/mwimgs/b/a/-/img_ba28e87c759b536a1f64568a81833169104822.png)

拡大する(/mwimgs/b/a/-/img_ba28e87c759b536a1f64568a81833169104822.png)

HDDとSSDの価格差は大きい

 フラッシュメモリーに対するHDDの競争力の源泉がビット単価である。Western Digitalの分析によると、10年前のHDDのTB(テラバイト)あたりのコストは100ドル強で、フラッシュメモリーに対して50~60分の1程度だった。その後、フラッシュメモリーはSLC(1ビット)からMLC(2ビット)に移行したことでコストが急速に下がったが、現在も20倍程度の価格差がある。

 今後、フラッシュメモリーは多値化(3ビットのTLCもしくは4ビットのQLC)と3次元構造の組み合わせでコスト低減が進むが、HDDもMAMR、HAMRといった新技術の登場で高密度化&コスト減が進むため、HDDとフラッシュメモリーのコスト差は当分縮まりそうにない。
 いずれにしても、HDDがフラッシュメモリーと競合するには、記録密度および記録容量を上げ続けるしかない。

(/mwimgs/f/e/-/img_fe97a9cee915773938cbc8832c7175cb62790.png)

拡大する(/mwimgs/f/e/-/img_fe97a9cee915773938cbc8832c7175cb62790.png)

PMRの記録密度は限界

 簡単にHDDの高密度記録の歴史を振り返ってみよう。HDDは長年、記録層の磁石の向き(磁極)を面内方向に変える「面内(長手)記録」という方法が使われていたが、00年を過ぎたあたりで高密度化の限界が見えてきた。この時の記録密度はおおむね100G(ギガ)ビット/平方インチと言われている。

(/mwimgs/4/5/-/img_456184d4bd3fdf2065895553195159be58678.png)

拡大する(/mwimgs/4/5/-/img_456184d4bd3fdf2065895553195159be58678.png)

 HDDは磁性層の磁石の大きさを小さくすることで記録密度を上げることができる。つまり微細化だ。これはフラッシュメモリーの高密度化と同じアプローチだが、当然ながら微細化には物理的な限界がある。

 HDDの場合、磁石の粒径が小さくなりすぎると、減磁界(磁石内の磁力を減少させる働き)や熱揺らぎ(磁化エネルギーが熱エネルギーに負けて記録が消える現象)といった問題が顕著になり、情報の書き込みや記録保持が難しくなる。

 こうした技術課題を克服する切り札として登場したのが、磁極を深さ(垂直)方向に変えるPMR(垂直磁気記録)である。04年に東芝が世界に先がけ商品化し、以来、HDDの高密度化を支え続けている。

 近年、PMRを補完する技術として提案されているのがSMR(瓦記録)である。屋根瓦のように、ディスク上のトラック(データを記録する同心円状の円周)の一部を重ねながら記録することから「瓦記録」と呼ばれる。SMRはトラック幅を狭くしなくても高密度記録が可能だが、メディアキャッシュ(データの仮置き場)を介して、まとまったデータを記録する必要があるため、ランダムな書き込みができないという課題がある。

 それでも、記録密度はPMRで1Tビット/平方インチ、PMRとSMRの併用では1.4Tビット/平方インチが狙える。しかし、市販されているHDD(PMR&SMR)の記録密度はすでに1Tビットを超えており、既存技術での高密度化が頭打ちになるのは時間の問題だ。

 そこで、次世代記録技術の出番となる。最有力候補がMAMRとHAMRである。

アシスト記録の本命は?

 これまでのHDDは記録層(磁性層)の磁石を微細化することで高密度化を進めてきた。磁化の向き(記録状態)は磁石の保磁力で維持されるが、微細化が進むと保磁力が低下し、熱安定性が下がるため、情報のエラーや記録消失といった問題が発生する。熱安定性を高めるには保磁力の強い材料を使えばいいが、そうなると今度は書き込みが難しくなる。

(/mwimgs/8/2/-/img_82bfd33fc1fa4d4ae91f4ab929bf973177537.png)

拡大する(/mwimgs/8/2/-/img_82bfd33fc1fa4d4ae91f4ab929bf973177537.png)

 こうした問題を解決する新たな記録技術がアシスト記録である。要するに、情報を書き込む時だけ、一時的に磁石の保磁力を下げればいい。磁石の保磁力を下げる方法として、MAMRはマイクロ波、HAMRはレーザーを使う。MAMRでは、記録ヘッドにマイクロ波を発生するスピン・トルク・オシレーター(STO)を搭載し、HAMRもヘッドにレーザー発振のためのレーザー・ダイオードを配置する。

東芝はMAMRを選択

 MAMR、HAMRのどちらを選択するかはHDDメーカーによって戦略が分かれるが、今のところ、Western Digital(子会社のHGST含む)と東芝がMAMR、Seagate TechnologyがHAMRを選択している。

 Western Digitalは17年に世界で初めてMAMR方式を採用したHDDのデモンストレーションを行ったが、18年にサンプル出荷を開始し、19年の量産開始を目指している。

 Seagate Technologyは、00年からHAMRの開発に取り組んでおり、16年にはHAMRで2Tビット/平方インチの書き込みを実証した。これまでに4万台近いHAMRドライブを試作しており、主要顧客へのサンプル出荷も開始している。19年からパイロット生産を開始し、20年に20TBのHDDを量産出荷するという。

 米国勢2社に対して、東芝もMAMR、HAMRの開発に取り組んでいるが、まずはMAMRの実用化を目指す考えだ。19年まではPMR、SMR、TDMR(2次元記録)といった既存技術の活用で18TBの容量を実現するが、順調にいけば、19年末にもMAMRを採用した18~20TBのHDDを投入する予定だ。

 MAMRとHAMRのどちらが次世代HDD技術の覇権を握るかは分からないが、現状、コスト面ではMAMRが有利とされる。マイクロ波は温度上昇の影響がなく、従来のPMRと同等の温度で動作するという利点もある。記録密度は4.5Tビット/平方インチが狙えるとし、現在と同じ8枚ディスクの場合、1台のHDDで40TBの記録容量が可能となる。

 一方のHAMRは加熱と冷却は数ナノ秒という短時間に行われるが、それでもヘッド先端が高温になるため劣化しやすい、といった課題が指摘されている。ただ、高密度化ではHAMRにアドバンテージがあり、50TB超の大容量化が可能と言われている。

HDDも3次元を目指す

 さらにその先の技術検討も進んでいる。10Tビット/平方インチを超える技術として期待されているのがビットパターンメディアである。ビットパターンメディアは、1つの磁性結晶粒が1つのビットを構成するため、これまでのグラニュラ媒体を大幅に上回る記録密度が可能となる。ただ、そのためには数nmサイズのドットを均一に作製する技術が必要で、技術的なハードルはかなり高い。

 さらに、強誘電体記録(ferro-electric Recording)や3次元記録といった新技術も提案されている。強誘電体記録は、強誘電自発分極の方向でビット情報を記録する方式で、PMRに類似した情報記録を電気的に実現できるらしい。これまでに4Tビット/平方インチの記録が可能なことが報告されており、ストレージ技術の研究コンソーシアムであるASRC(Advanced Storage Research Consortium)も強誘電体記録を新たな研究テーマに加えている。

 3次元記録については、15年に東芝が記録層を多層化した3次元構造でも磁性媒体への書き込みや読み出しができることを発表している。多層化する磁性媒体には、異なる強磁性共鳴周波数を有する磁性体を使用し、強磁性共鳴周波数に応じた周波数のマイクロ波磁界を印加することで、特定の磁性体層のみに磁化振動を励起することができた。磁化振動が励起された層は、磁化反転に必要なエネルギーが低減されるため(マイクロ波アシスト効果)、層を選択した磁化反転が可能という。

(/mwimgs/8/a/-/img_8a7101d941e5f3f14202feab1376058e60288.png)

拡大する(/mwimgs/8/a/-/img_8a7101d941e5f3f14202feab1376058e60288.png)

 早ければ25年ごろの実現を目指すということだが、問題は現在のHDDと同じビットサイズでこれが実現できるかどうかだ。磁気ヘッドや多層記録に最適化した記録媒体の開発など、解決すべき課題は少なくない。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松永新吾

まとめにかえて

 ストレージ分野では「HDD市場の縮小」と「SSD市場の拡大」が一般的ですが、足元ではHDD関連企業の予想外の健闘ぶりが目立っています。Western Digitalは17年通年売上高が過去最高を記録したほか、Seagateも17年営業利益が前年比55%増を記録。部材メーカーのHOYAもガラスディスクの需要拡大に伴い、新工場の設立を検討しているなど、ニアライン市場を中心に今後も底堅い需要が続きそうです。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください