ノーベル賞受賞、本庶佑氏の執念の結晶「オプジーボ」
LIMO / 2018年10月8日 19時35分
ノーベル賞受賞、本庶佑氏の執念の結晶「オプジーボ」
ビジネス、きょうのひとネタ
先日、京都大学の本庶佑(ほんじょ・たすく)特別教授のノーベル医学・生理学賞受賞が発表されました。本庶氏は、従来のようにがん細胞を直接攻撃する方法ではなく、免疫の働きを抑えていたたんぱく質「PD-1」の働きを抑え、免疫細胞ががんを攻撃する方法を編み出しました。
2009年までの日本人のノーベル医学・生理学賞の受賞者は、1987年の利根川進氏ただ一人だけでしたが、2010年代に入ってからは、山中伸弥氏・大村智氏・大隅良典氏と続き、本庶氏は日本人として5人目の受賞者となりました。
なお、日本では「ノーベル医学・生理学賞」と呼ばれることが多いですが、原語からすると、呼び方は「ノーベル生理学・医学賞」のほうが正しいようです。また、ノーベル賞は実は分野によって選考主体が違います。本庶氏の受賞が決まった医学・生理学賞はスウェーデンのカロリンスカ研究所が選考を行い、化学賞・物理学賞・経済学賞はスウェーデン王立科学アカデミーが、文学賞はスウェーデン・アカデミーが、そして平和賞はスウェーデンではなくノルウェー・ノーベル委員会が選考を行います。
もうひとつちなみに言えば、1901年から続くノーベル賞は、当初は経済学を除く5分野の賞でした。経済学賞は、ノーベルの死後70年にあたる1968年に創設されたものなのです。
日本人の死亡原因1位、がんの脅威
本庶氏の免疫療法は、がんに対する従来の常識を覆すものでした。ここではあらためて、同氏のノーベル賞受賞にいたる研究過程をまとめてみたいと思います。
医学の進歩により、人類の寿命は飛躍的に延びました。
厚生労働省が発表した2017年分の簡易生命表では、日本人の平均寿命は男性が81.09歳、女性が87.26歳と、ともに過去最高の数値を記録しました。戦前の寿命がともに40~45歳程度だったことを考えれば、わずか100年ほどで約2倍も寿命が延びたことになります。
しかし、ガンは1981年以来、日本人の死亡原因の1位を占め続けています。いまや国民の2人に1人がガンになる時代になりましたが、万人に効果的な治療法は依然として見つかっていません。
本庶氏の功績とは?
本庶氏の発見は、そのような状況に待ったをかけられるかもしれません。本庶氏が開発したがん治療薬「オプジーボ」は、従来の外科手術・放射線治療・抗がん剤に加えて、免疫療法でがんを治す「第4の道」を切り拓きました。
それまでの3つの手段はがん細胞を攻撃するものですが、本庶氏が小野薬品工業株式会社と共同で開発した「オプジーボ」は、免疫を監視する分子の働きを抑える薬でした。これは正式には「免疫チェックポイント阻害薬」と呼ばれています。
悪性黒色腫の患者を対象に、従来の抗がん剤投与患者と「オプジーボ」投与患者の15カ月後生存率を比較すると、前者の生存率は20%程度でしたが、「オプジーボ」を投与した患者は70%を超える数値が出ました。また、こうした患者の約3割は5年以上の長期間生存しています。こうした免疫療法は、がん治療に対する従来の常識を打ち破る治療法として期待されています。
苦難と結実
本庶氏の研究結果は革新的な治療法を提示しましたが、その実用化に至るまでには大変な苦悩・苦労がありました。本庶氏は2002年にマウスを使用した免疫実験の結果を受け、がんの増殖に関する論文を発表してから実用化を目指しましたが、パートナー探しに悪戦苦闘して一度は研究を断念しました。当時、がんの免疫療法は科学的な有用性が十分に証明できず、失敗続きの時代だったためです。
しかし、本庶氏は実験の結果に確かな手応えを感じていたために、諦めずに提携先を探し続けました。その結果、米国のベンチャー企業のメダレックスとの共同開発が実現し、2014年に小野薬品工業とともに「オプジーボ」を完成させました。
がんに対する先入観を持たず、「自分の頭で考えて、納得できるまでやる」という信条を持つ本庶氏の執念が実ったのです。
今後の課題
しかし、がん治療を取り巻く環境は依然として厳しいままです。前述のように、「オプジーボ」でも効果のある患者はまだ3割程度です。本庶氏は「(効果を)見分ける目印を今後見つけたい」と新たな目標を打ち出しました。
本庶氏は受賞後の会見で、日本の研究開発体制や製薬企業の問題などもあわせて指摘しました。近年のノーベル賞受賞者の中では、基礎研究の重要性を訴える反面、国立大学の法人化など各種の政策の影響で、そこに国が投じる研究費・研究体制が弱体化していることなどを指摘・懸念する声も聞かれます。
実際の科学的発見がノーベル賞として評価されるのは数十年後だとよく言われますから、今日の科学政策の成果が1年後、2年後にすぐ出るようなことはほとんどありません。今後もこうした受賞者が継続的に出てくるような研究体制を、国としても後押ししてほしいところですね。
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