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7歳男子が「髪を伸ばしたい!」 決意を見守った家族の2年半

LIMO / 2018年10月16日 10時40分

写真

7歳男子が「髪を伸ばしたい!」 決意を見守った家族の2年半

ヘアドネーションに挑んだ勇気と優しさ

背中の真ん中まで伸びた長い髪。
この後ろ姿、女の子であることを疑う人はいないだろう。
だが、今まさに髪を切ろうと鏡に向かっているのは、なんと小学3年生の男の子だ。
彼がここまで髪を伸ばしたのには、ある理由があった。

静かなる決意

2016年、春。小学校に入学して間もない関根連夢(れむ)くんは、母親の絢さんが見ていた動画を何気なく覗き込んだ。動画を見終えると、連夢くんの口から次から次へと質問が飛び出した。

「なんで髪の毛がなくなっちゃうの?」
「日本にもがんの子どもはいるの?」
「日本のテレビでは、こういうCMをしていないよね?」

その動画とは、スペインで制作された小児がん患者への理解と支援を訴えるコマーシャルだった。

がんという病気の存在、抗がん剤治療の副作用によっては髪が抜け落ちてしまうこと、絢さんは連夢くんの質問に答えながら、「知っていれば、できることもあるのよ。ほら、この子もそうだったみたい」と、次にオーストラリアの“小さなヒーロー”の記事(http://karapaia.com/archives/52193777.html)を読み聞かせた。

それはオーストラリアで8歳の男の子が、小児がんの子どものために約2年半もの間、髪を伸ばし、その髪を寄付したヘアドネーションの活動を紹介するものだった。連夢くんは「男の子でも、できるんだ!」「女の子よりも長いね」と話しながら、記事中の写真を何度も見ていたという。

ヘアドネーションとは、がんなどの治療や外傷、先天性の欠毛症(無毛症)や脱毛症などの理由から、頭髪に悩みを抱える子どもたちのために、髪の毛を寄付し、医療用ウィッグを作製・無償提供する活動だ。日本でも、この活動の輪が徐々に広がりをみせている。

ただし、医療用のウィッグをつくるには最低でも31センチの長さが必要になる。JIS規格に適合した医療用ウィッグ(http://nmk.or.jp/lp_medwig_ur/index.html)は、髪の毛を半分ほどの長さで折り返すようにして一本一本結びつける製法で作られている。抜けにくく、頭皮への刺激を減らすためだ。

この製法では、31センチの髪から、およそ15センチのボブスタイルのウィッグができる。ロングスタイルのウィッグをつくるには、さらに50センチ以上の長さが必要だ。そして、1人分のウィッグをつくるためには20~30人ほどの髪の毛が必要になるのだ。

2つの約束

さて、季節は秋になっていた。絢さんが連夢くんとヘアドネーションの話をしたことも忘れかけていた頃だった。髪が伸びてきた連夢くんに、そろそろ床屋さんに行こうかと話すと、こんな答えが返ってきた。

「前にママと見た外国の男の子みたいに、僕もがんの子たちのために、髪をあげたい」

突然の告白に絢さんと夫は戸惑った。応援したい気持ちよりも、親としては不安な気持ちの方が大きかったという。それも無理はない。ヘアドネーションをするならば、髪を切れるのは早くても2年後、小学3年生を過ぎてからだ。1年生のうちは少し髪が長い男の子だと思われる程度だろうが、2年生になる頃には、知らない人に女の子に間違えられたり、学校で意地悪を言われたり、からかわれるかもしれない。

「個性」「多様性」という言葉が叫ばれるようになった時代とはいえ、“男子は短髪が当たり前”のこの国で、小学生の、しかも低学年の男児が髪を伸ばすことで直面する苦労は想像に難くない。絢さんは夫とともに数日かけて連夢くんとの話し合いを重ねた。だが、それでも彼の気持ちは揺らがなかった。

「もし意地悪されても気にしないで頑張れる。髪が長くてからかわれる男の子より、病気で髪がなくなった女の子の方がずっと大変だと思うから」

そこまでの決意ならば、と絢さんは夫と共に見守ることにした。そして2つの約束事を決めた。それは、(1)女の子に間違われても、からかわれても気にせずに途中で投げ出さない(2)きれいで健康な髪を寄付できるよう髪のケアを怠らない、ということだった。

ちなみに絢さん自身は、この時すでにヘアドネーション可能な髪の長さだったが、連夢くんが断髪するその日まで一緒に伸ばし続けることにした。ここから親子2人の挑戦が始まった。

トリートメントが大変!

実際に髪を伸ばし始めてみると、連夢くんにとって難題だったのは、周囲への対応よりも、日々長くなる髪のお手入れだった! それまでシャンプーのみの連夢くんにとって、毎日のトリートメントは「ヌルヌルする~」という不快なものだったのだ。

さらに髪をとかせば絡まって痛く、自分で髪を結ぶのは慣れるまでけっこう難しい。そんな嘆きを聞いた絢さんは「女の子の苦労がわかる男は将来モテるわよ~」と冗談を交えながら、励ましていたそうだ。


学校でからかわれることは、全くなかったわけではないものの、心配していたほどではなかったようだ。「学校の規模がそこまで大きくないので、周りのお友だちも徐々に伸びる髪に見慣れていってくれたようです」と絢さんは話す。

「なんでそんなに髪が長いの?」と尋ねてくる友人には、事情を説明すると「じゃあ、もうからかうのやめる!」と言ってもらえることもあったそうだ。このように連夢くんが自分自身で周囲に応対できることは、髪を伸ばしている過程ではとても重要だった。

3年生になる頃には、背中まで髪は伸びていた。それは連夢くんが新たに空手を習おうと入会手続きに行った時のことだった。やはり武道をするには、長すぎる髪が問題となった。道場の館長から「ファッション的な意味で伸ばしているのであれば、切ってあげませんか」と言われたのだ。

しかし、本人の意思で寄付するために髪を伸ばし、間もなくその時が近づいていること、連夢くんに周囲の質問に対応するだけのスキルがあることを伝えると、「志と決意の上であるならば」と認めてもらうことができた。

小さな妹の大きな援護

このように、連夢くんはその時々に応じて、時には女の子と思われてもスルーし、時には自分が男の子であると申告し、事情を説明するといった “大人の対応”を身につけていった。ただ、2歳年下の連夢くんの妹(当時、幼稚園生)にとっては、お兄ちゃんが女の子に間違われてしまうのは大問題だった!

買い物に行った時など、初対面の人にはよく女の子に間違われてしまう。すると、「にぃには髪長いけど、男の子なの。病気で髪がなくなっちゃった子にあげるために伸ばしているの」と力説。そんな強力な援護のおかげもあって、店員さんに「お兄ちゃん勇気があるわね、応援してるわよ!」と温かい声をかけられたりすることが、連夢くんの力になっていた。

そして、ついに連夢くんはその日を迎えた。小学3年生の夏休みが終わる1週間前、連夢くんと絢さんは断髪に臨んだ。連夢くんが2年半で伸ばした髪の長さは35センチにも及び、絢さんの髪は腰まで達していた。

寄付の先にある笑顔

寄付された髪だけで作製したメディカルウィッグを、18歳以下の子どもたちへ無償で提供する「JHD&C」という日本唯一のNPO法人がある。JHD&Cは2009年からこの活動を行っている。連夢くん、絢さんもこの協会に賛同するサロンを通じて、寄付を行った。

寄付された髪がウィッグとして生まれ変わるまでの過程はJHD&Cのホームページで詳しく紹介(https://www.jhdac.org/process.html)されている。同法人に送られてきた髪は、長さごとに仕分けされ、トリートメント処理を経て、ウィッグメーカーに送られる。ちなみに”トリートメント”といっても、普段のシャンプー・トリートメントのそれではなく、キューティクルを取り除くための薬品処理に始まり、15工程もの手間をかけた処理(https://www.jhdac.org/treatment.html)がなされている。

そして、ヘアドネーションの先にあったのは、達成感に満ちた連夢くんのとびきりの笑顔だった。しばらくお風呂あがりは「拭いたら乾いた!」と久々の感覚を喜んでいたそうだ。


連夢くんの他者に寄り添おうとする優しさ、行動する勇気。そして彼の挑戦を温かく見守った周囲の人々。髪をウィッグへと生まれ変わらせる人々。そんなたくさんの人たちの思いが連なって、頭髪に悩みを抱えている子どもたちに笑顔を届けている。

参考:JHD&Cの公式Facebook(https://www.facebook.com/jhdac/)では、一人ひとりに最適なウィッグを作るための頭の型取り(メジャーメント)の様子など、寄付された髪がレシピエントの方々にウィッグとして届くまでの過程が報告されている。

【取材協力・写真提供】関根絢さん、関根連夢くん

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