サムスン電子に暗雲が漂い始めている理由
LIMO / 2018年10月18日 20時20分
サムスン電子に暗雲が漂い始めている理由
営業利益は過去最高もスマホは3億台を割る厳しさ
「今や韓国のサムスン電子は、世界企業500社売上高番付で第12位にランクされているビッグカンパニーになった。2017年売り上げは約23兆7140億円であり、日本国内の電機トップである日立製作所の9兆3686億円と比べれば大差がついている。サムスンの背中がますます遠くなってきた」
こう語るのは大手証券会社の著名アナリストの一人である。確かにサムスンはあまりに強すぎると言っても良いほどだ。サムスン電子の売り上げはIT系でいえばインテルに次ぐ第2位であり、要するにとんでもない存在となってしまったのだ。
そしてまた、2018年7~9月期の連結営業利益は前年同期比20%増の1兆7500億円を記録し、過去最高を更新した。主力の半導体は依然として好調であり、NANDフラッシュメモリーは価格下落で利益はかなり減ったが、DRAMの活況が相変わらず続いている。おそらく半導体部門の営業利益は前年同期比30%増の1兆3000億円はあるとみられ、要するに利益のほとんどを半導体で叩き出している。
半導体の利益の陰でスマホは不調
しかし、アナリストの間ではこうしたサムスン電子の半導体偏重の事業構造は実のところ危ういのではないのかとの指摘の声が広がっている。ここに来て、もう一方の柱であるスマートフォン事業に暗雲がかかってきたことを不安視する向きも多い。
スマホの絶対王者の証であった「世界販売3.2億台」の実績が下降局面に入ってきたのだ。新機種である「ギャラクシーS9」はこの春から全世界で販売されているが、かなりの不調といわれている。また8月に発売した最新機種「ノート9」も革新性に欠けているという見方が広がっている。このままでいけば、サムスンの2018年のスマホ販売は、5年ぶりに3億台を割り込む公算が大きくなったのだ。
そしてまた、サムスンのスマホは中国における存在感が全くと言ってよいほどない。中国市場においては、ファーウェイが2018年に1.7億台を出荷する見通しであり、かなりの強さを見せつけ始めた。これに続くシャオミも1.2億台となる予想であり、オッポも1億台を超えてくる。中国スマホ好調の中で、サムスンの中国におけるシェアはついに1%しかないという状況に追い詰められている。
中国スマホに比べて高いから売れないのか。そうではない。高額製品の代表であるアップルは、中国市場において2018年も22%のシェアを維持するといわれており、ブランド力は抜群なのである。
高価格のフォルダブルスマホに消費者はついていけるか
サムスンは2019年にも有機ELの大画面を折りたたみ、見開きで使う新スマホ「フォルダブル」を市場投入し巻き返しを狙うとしているが、これに対するユーザーの声は結構冷ややかなのだ。それはそうだろう。有機ELディスプレーのコストだけで550ドルといわれ、スマホ本体の価格は22万円くらいと予想されており、とても一般消費者がついてくるとは思えないからだ。
筆者は韓国に出かけた折に、サムスン関係者に対し「いくら何でも22万円という高価格では消費者はついてこないのではないか」と意見をしてみた。彼らは「いえ、大丈夫です。品質と機能が良ければ必ず売れます」と言い切っていた。
このとき筆者の脳裏をよぎったのは、かつて黄金時代を築いた日本の家電メーカーが言っていたことと同じだな、ということであった。どんなに高くても絶対品質できめ細かいモノづくりを進めれば必ず世界のユーザーはついてくると、家電王国を築いた連中は自信ありげに言っていた。80年代のことである。しかし結果はどうなったか。中国、台湾、韓国に木っ端微塵に叩き潰され、日本企業の世界における存在感は実に希薄となってしまった。
どんな企業も頂点を迎えた時に落城の音が聞こえてくる。同じビジネスモデルで戦えば数年のうちに必ず負ける。半導体の世界チャンピオンとして意気盛んなサムスンであるが、このまま半導体の一本足打法を続ければいつかは限界が来る。そしてまた、その独走状態を米国、EU、日本をはじめとする半導体企業が見逃すはずはない。
ただ一方で、サムスンの失楽園行きは困るという人たちの声もある。半導体の装置メーカーや材料メーカーにはサムスンの投資拡大を心待ちにしている人が多いからだ。件のアナリストは憂えた顔でこう語っていた。
「サムスンは日本の電子部品や材料を年間2兆円くらいは優に買っている。半導体装置を含めればもっとすごい数字になる。いわば日本企業にとって、サムスンは最大のお得意様である。サムスンの落ち込みを期待し、ざまあみろ、などと言っている人はほとんど事態がわかっていない」
当たり前ではあるが、現役王者が失墜したからといって、何もせずに過去の黄金時代が戻ってくるわけではない。生き残る戦略が必要なのは、日本企業も同じなのだ。
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