農業政策が火種? それでもインドの実体経済は底堅い
LIMO / 2018年10月23日 19時45分
農業政策が火種? それでもインドの実体経済は底堅い
インド経済が直面する課題(2)
インドの農業が置かれた厳しい状況
インド経済が、足下で異変が見られるのは農業でしょう。インドはコメや小麦などの生産高が世界2位で、GDPに占める農業の割合は約16%ある農業大国です。農業従事者の人口も2億6300万人おり、世論形成にも影響は大きい業界です。しかも来年は総選挙を控え、票数の多さもあって、政治も農業に配慮せざるを得ません。
今年は、農業にとっては厳しい状況になっています。世界的に原材料価格が上昇していることとルピー安が進んだことで、生産コストが大幅に上がってしまったことが農業関係者の悩みの種になっています。一方で、インドの農業の生産効率は、年々大幅に向上しており、機械化の進展や生産量の多い改良品種の導入、殺虫剤の普及などで、多くの作物で収穫量は増加傾向が続いており、毎年過去最高を更新しているという状況です。
そのため、農産物の価格は下落傾向にあり、タマネギ、キャベツ、トマトなどの野菜類では生産過剰の影響から、前年比25%程度値下がりしたとの例もあります。労組幹部の中には農産物価格を引き上げるか、農業に補助金を出してコスト上昇分を吸収すべきだという主張も出始めています。
モディ政権は総選挙を睨んだバラマキ政策へ?
モディ首相率いる与党・インド人民党(BJP)も、同首相お膝元の西部グジャラート州議会選では農村部で苦戦を強いられたことや、今年5月のカルナタカ州議会選では第一党の座を確保しながらも過半数は確保できなかったことで、BJP内部でも総選挙を意識した農業・農村重視の傾向を強める可能性が高まっています。モディ首相も、「2022年までの5年間で農家の所得を2倍に増やす」との政策目標を公表しています。
バンクオブアメリカ・メリルリンチは、中央・州政府による農民の債務に対する減免措置が来春の総選挙までに実施され、その規模はGDP比1.5%の400億ドルに上るという予測も出しています。これは、選挙対策のためのバラマキ政策であり、所得再分配には一定の効果はあるにしても、財政赤字を拡大させるほか、金融面でもモラルハザードを生みかねないリスクを孕んでいる政策だとの批判は免れません。
何より財政赤字の拡大は、市場が懸念しているインドからの資金流失につながりかねないリスクを増大させます。しかし、モディ政権は2017年度の財政赤字目標を当初のGDP比3.3%から3.5%に修正したという経緯もあり、多少の赤字には目をつぶってでも、選挙対策に出るのではないかとの観測はくすぶっています。そうなれば、インドルピアへの下落圧力が再度顕在化する懸念は高まるでしょう。
なお、7月下旬には都合4回目のGST税率見直しが実施されました。白物家電や化粧品の税率が最高28%から18%に引き下げられたほか、女性の声を強く意識して生理用品を無税とするなど100品目の税率が改定されました。農民や貧困層だけでなく、中間層の消費に配慮した措置ですが、この減税の財源ははっきり示されていません。税率低下による消費刺激効果はありそうですが、どこまで税収減がカバーされるかは、不透明なままです。
また、モディ政権の安定感が揺らいできているだけに、来年の総選挙を控えた政局の流動化観測も、気掛かりなところです。
株価の調整は大きいが実体経済は底堅い動き
前述の不安材料による懸念が拭えないことから、インド株式市場は9月に入って13%もの調整を経ました(BSEセンセックス指数で38,896 [8月29日] から34,299 [10月9日] に下落)。足元には不安要因が多く、これに選挙対策という撹乱要因が加わるものの、粗鋼生産量や自動車・商用車台数は伸びが高く、スマートフォン販売台数に見られるように消費拡大は続いており、経済指標からは実体経済の底堅さをうかがわせます。
好調な企業業績やGST税率引き下げによる消費増への期待も残ります。原油価格が落ち着いてインフレに火が点かず、個人消費が後退しなければ、インド経済は堅調さを維持すると予想しています。
参考:インドの銀行システムが大転換期に突入。その変化とは? インド経済が直面する課題(1)(https://limo.media/articles/-/8145)
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