バイオ技術者はどこで働いているのか。給料や将来性は?
LIMO / 2018年11月16日 20時40分
バイオ技術者はどこで働いているのか。給料や将来性は?
バイオテクノロジーは人類の歴史と共にある
バイオテクノロジーとは、生物が本来持っている能力、機能を利用して、人びとの暮らしに役立てる技術のことです。
人類は遥か昔から経験的な知恵を重ね、生物の力を生活に役立ててきました。たとえば、発酵食品や薬草を利用した薬、植物のかけ合わせによる地道な品種改良など、昔ながらのバイオテクノロジーは「オールドバイオ」と呼ばれています。
1970年代に入ると、細胞融合技術や遺伝子組換え技術といった革新的な技術がつぎつぎと登場し、バイオテクノロジーは急速に広がりました。最近では、バイオテクノロジーといえば、20世紀以降に実用化した「ニューバイオ」と呼ばれる技術を指すことがほとんどです。
では、バイオテクノロジーは現在、どのような産業分野で活用されているのでしょうか。
バイオ技術者が活躍する産業分野とは
バイオテクノロジーの応用分野は、大きく以下の4つに分類することができます。
1. 医療・ヘルスケア
生命科学研究の躍進により、医療のあり方も変わろうとしています。より一人ひとりの体質や症状に合わせた「オーダーメイド医療」の実現へ向けた動きが加速しています。特に再生医療の分野は大きな注目を集めており、iPS細胞やES細胞を中心に、実用化を見据えた研究が行われています。
また、診断技術の進歩にも著しいものがあります。たとえば、尿や血液からがんのリスクを調べるなど、特定の病気へのかかりやすさ、薬の副作用などを予測する技術なども登場しています。
2. 食料・農林水産業
食に関する分野には非常に多くの企業が参入しています。食品産業の企業は日本だけでも90万社以上あるといわれ、そのうち大企業は1%です。特に近年は高齢化が進み、健康寿命を意識する人が増えているなか、特定保健用食品(トクホ)をはじめとする機能性食品が健康ブームの火つけ役となっています。
世界的には人口増加や異常気象による食料不足を心配する声がある中で、植物工場などの新たな栽培技術や、魚など水産物の養殖技術にも注目が集まっています。また、ゲノム編集技術を利用した効率的な品種改良にも期待が寄せられています。
3. 化学品(バイオケミカル)
バイオケミカルとは、バイオ技術を用いて機能性のある化学製品を製造する分野です。食品や医薬品の原料、農薬、工業用品など応用分野は多岐にわたります。
その中核を担っているのが発酵技術です。発酵食品に限らず、微生物の代謝によって有益な物質を得ようとする広い意味での発酵です。特にアミノ酸やビタミン、酵素など高分子の化合物であるほど生物にしかつくれないため需要があります。
また、生物のすぐれた機能や形状を模倣する「バイオミメティクス」は、新たな技術を取り入れ、さらに発展しています。たとえば、鋼鉄の340倍の強靭性とナイロンを上回る伸縮性をもつ人工のクモ糸は、タンパク質や遺伝子の設計技術、遺伝子組換え技術、発酵工学などの技術を結集してつくられています。
4. 環境・エネルギー
環境・エネルギー技術としては、バイオエタノールをはじめとする「バイオ燃料」が挙げられます。地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出量を削減できるエコな燃料として期待されています。
バイオエタノールは主にサトウキビなどの植物を発酵させて製造されますが、植物だけでなく、家畜糞尿、下水汚泥、廃食用油など、さまざまな生物資源を利用してバイオ燃料を得ようとする努力がなされています。
また、微生物や植物を環境浄化に活用する「バイオレメディエーション」にも注目が集まります。福島第一原発の事故では大量の放射性セシウムが飛散し、農地などの土壌汚染が問題となっていますが、これを植物で吸い上げて除去しようという試みもあります。現在、植物のセシウム吸収能力をより高めるための研究が行われています。
バイオ技術者の収入は業界による差も
一般に、理系専門職は比較的学歴が高いことから、バイオ技術者は給与も高いといわれます。また、最終学歴によって、大学の学部卒(学卒)、修正過程修了(修士卒)、博士課程修了(博士卒)と、それぞれ2〜3万円ずつ初任給が高くなっていきます。
バイオ系の学生を対象とした2018年度の新卒採用情報を見ると、おおむね短大・専門学校卒で20万円弱、学部卒で約22万円、修士卒で約24万円、博士卒で約26万円といった勾配がついています。また、研究開発と生産技術を区別する企業では、研究開発のほうが2万円ほど高いこともあります。
業界別では、製薬業界がもっとも高く、博士卒で約30万円、修士卒で約26万円、学部卒で約24万円と、バイオ系のなかでも高い初任給が設定されています。製薬業界以外でも、博士卒は25万円以上のところが多く見受けられますが、修士卒と区別せずに院卒としている企業も少なくありません。
また、賃金動向に特化した情報を掲載している「年収ラボ(https://nensyu-labo.com/)」によれば、平均年収でも製薬業界の水準が高く、化学、食品、化粧品と続いています。また、研究者の平均年収が600万円というデータからみても、業界によらず比較的、安定した収入が得られるといえるでしょう。
バイオに寄せられる大きな期待
近年、「バイオエコノミー」という概念が国際的に広がっています。これは、生物資源やバイオテクノロジーによって、化石燃料の多用がもたらす環境問題などの地球規模の課題を克服しつつ、新たな産業の振興と経済成長を実現しようという概念です。
環境や気候変動の問題以外にも、人口増加による食料や水不足、世界的な感染症の流行など、地球規模で懸念されている課題を解決する手段として、バイオテクノロジーには大きな期待が寄せられています。
“Bio is the new digital“(バイオこそ、デジタルのつぎの革新的技術)という、マサチューセッツ工科大学メディアラボの創設者、ニコラス・ネグロポンテ氏の言葉があります。デジタル社会になって、世の中のあらゆるモノがつながったように、今度はバイオが社会に大きな変革をもたらすのかもしれません。
執筆協力:堀川晃菜
参考文献:『バイオ技術者・研究者になるには(https://www.amazon.co.jp/gp/product/4831515124/ref=as_li_qf_asin_il_tl?ie=UTF8&tag=navipla-22&creative=1211&linkCode=as2&creativeASIN=4831515124&linkId=9e532fdcc4cb357c6baaad5f3c8411ec)』(堀川晃菜著、ぺりかん社)
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