外国人労働者の受け入れで、企業は幸せだが日本人労働者は不幸に
LIMO / 2018年11月18日 20時15分
外国人労働者の受け入れで、企業は幸せだが日本人労働者は不幸に
外国人の単純労働者を受け入れると、企業は幸せになるが、日本人労働者は不幸になり、日本経済にも悪影響が多い、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は憂慮しています。
労働力不足は労働者にとって素晴らしいこと
政府は、出入国管理法を改正して、外国人の単純労働者の受け入れ範囲を拡大しようとしていますが、それは絶対にやめるべきです。
労働力不足という言葉は、「困った」という否定的なイメージの言葉です。だから「労働力不足だから外国人を受け入れよう」と聞くと賛成したくなる人も多いでしょう。
しかし、労働力不足というのは企業経営者にとっての困ったことであって、労働者にとってはとても素晴らしいことです。「仕事潤沢」といった肯定的な言葉を使いたいくらいです。
何といっても失業に悩む必要がなくなります。失業は、金銭面のみならず、自分が世の中で必要とされていないかも、などと考えると自尊心をも傷つけかねませんから、失業者が減るのは素晴らしいことです。
さらに、労働力が不足して高齢者や子育て中の主婦でも仕事をしたい人は仕事にありつける、ということになれば、さらに素晴らしいことです。
労働力不足ということは、労働力の需要が供給を上回っているわけですから、労働力の対価である賃金が上昇します。正社員の給料はなかなか上がってきませんが、すでに非正規労働者の時給は明確に上がり始めています。
労働力不足だと、ブラック企業が存続できなくなります。これまで「辞めたら失業者だ」と思って退職を思いとどまっていた社員が、労働力不足になったことでホワイト企業に転職していくからです。
日本経済にとっても、労働力不足は素晴らしいことです。まず、企業が省力化投資に励むでしょうから、日本経済の生産性が上がります。賃金が上げられない労働生産性の低い企業から労働者が抜け、賃金が上げられる労働生産性の高い企業に労働者が移って行くことも、日本経済の労働生産性を高めます。
財政赤字も減るでしょう。景気対策の公共工事が不要になる一方で、増税が容易になるからです。「増税したら景気が悪化して失業者が増えてしまう」という懸念が消えれば、今までよりも「気楽に」増税できるようになるでしょう。
外国人単純労働者の流入は、日本人労働者の不幸
外国人でも、科学者や一流シェフなどが来日すれば、日本人の幸福度は増すかもしれませんが、単純労働者の流入は、上記のような労働力不足のメリットをすべて失わせるものですから、認めるべきではありません。
ちなみに、「外国人労働者は日本人より安い給料で働くから、日本人労働者の敵だ」というわけではありません。日本人と同じ給料でも、日本人労働者の不幸の源なのです。
経営者が「労働力不足だから、他社から労働者を引き抜いてくるためには今より高い給料を払わなければならない。それは嫌だから、外国人を連れてこよう」と考えているのですから、労働者としては「外国人さえ来なければ給料が上がったのに」ということになるわけですね。
労働者、労働組合、労働者の味方を標榜している政党等が、なぜもっと反対しないのか、不思議です。
農産物は、足りなければ輸入しよう
業種ごとに事情は異なるのでしょうが、たとえば農業に関しては、労働力が足りなければ労働者を連れてくるのではなく、外国人労働者が外国で作った農産物を輸入しましょう。
わざわざ土地の狭い日本に外国人を連れてきてまで農業を続ける必要はありません。いままでは、「農産物を輸入すると農業従事者が困るから」と言われて非農業従事者は高い農産物を買わされていたのです。その必要が薄れたのですから、大手を振って安い外国産を輸入しましょう。
食料安全保障は、心配いりません。世界の農産物輸出国は友好国が多く、海上輸送ルートも問題ありません。世界的食料危機になった場合でも、農産物が値上がりするだけですから、今より多くの工業製品を輸出して農産物の輸入代金を稼げばよいだけです。
実は、食料安全保障上の最大の懸念は、石油の輸入が止まってトラクターが動かせなくなることかもしれません。その場合には、外国人労働者がいても役に立たないでしょうから(笑)。
食料とは異なり、介護は輸入できませんから、介護の労働力不足は、介護士の待遇を改善するしかありません。そのためには、介護保険料を値上げするしかありません。「我々が払う介護保険料を値上げしたくないから、介護士たちは世の中の他の労働者より安い給料で働け」というわけにはいきませんから。
その他、多くの業界では、労働力不足なら賃上げをして値上げをすれば良いのです。宅配便業界にできたのですから、他の業界でもできるでしょう。業界の構造が違うので、時間はかかるかもしれませんが、だからと言っていつまでも外国人に頼っていては、日本人労働者が浮かばれません。
永住や家族帯同は悪い冗談としか言えず
政府は、一部の外国人労働者については、永住や家族の帯同も認めようとしています。これは、絶対反対を超えて、悪い冗談としか思えません。
日本人の労働者が足りないから外国人を受け入れるのに、彼らが永住してしまえば彼らの引退後に「外国人高齢者の医療と介護に日本人が従事する」といった笑えないことが起こります。
家族の帯同も同様です。外国人労働者の子供に日本語を教えるために、小中学校が外国語の得意な教員を雇う必要が出てきます。
問題は、外国人単純労働者を受け入れてメリットを受ける企業がコストを負担するのではなく、一般の納税者がそうした費用を負担する、ということです。それは公平の面からも、経済学でいう資源配分の面からも問題です。
資源配分上の問題とは、たとえば「企業が外国人を雇うことで少額の利益を得て、一方で小中学校が多額の費用を負担するとすれば、日本全体としては外国人を受け入れることが損になるので、受け入れるべきでない」ということです。
守りたいのは日本のGDPではなく一人当たりのGDP
論者のなかには「日本は人口が減っていき、GDPも減っていく。これを防ぐためには外国人を受け入れるしかない」という人もいますが、GDPが減ること自体は、深刻な問題ではありません。
人口が半分になって、GDPが半分になって、一人当たりのGDPが変わらなければ、日本人の生活水準は変わりませんから、それで構わないでしょう。
反対に、GDPを守ろうとすると、長期的には大量の外国人を受け入れる必要が出てきます。100年後には日本人の人口が3分の1になりますから、それを外国人で補おうとすると、日本列島に住んでいる人の半分以上は外国人だ、ということになりかねません。
それが我々の望む日本の将来の姿なのでしょうか。大きな転換点ですから、ここは国民的な議論を大いに行うべきでしょう。性急な判断で国家百年の計を誤ることがないよう、強く願うところであります。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、本稿は厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
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