“サンディスク化”するマイクロン、戦略にも変化
LIMO / 2018年11月27日 20時45分
“サンディスク化”するマイクロン、戦略にも変化
キーパーソン失うWD、JV投資にも微妙な影響
半導体メモリー大手の米Micron Technology(マイクロンテクノロジー)経営陣の顔ぶれがここ1年半で様変わりしている。サンディスク(ウエスタンデジタルが買収)共同創業者のSanjey Mehrotra氏が2017年に社長兼CEO(最高経営責任者)に就任して以降、古巣のサンディスク幹部を次々と引き抜き、要職に就かせている。急速な“サンディスク化”が進んでいる状況で、事業戦略にも変化が見て取れるようになってきた。
売上規模は5年で3倍超
もともと、マイクロンはプロパーであったスティーブ・アップルトン氏が1994年から長年にわたって社長を務めており、長期政権が続いていた。しかし、当時坂本幸雄氏が率いていたエルピーダメモリとの提携交渉を進めていた12年2月に、自身が操縦する小型飛行機が墜落、不慮の死を遂げた。
その後、アップルトン氏に代わり、COO(最高執行責任者)を務めていたMark Ducan(マーク・ダーカン)氏が暫定CEOに就任。17年まで5年間責務を全うした。その間、メモリー業界はスマートフォンなどのモバイル向け需要に加え、データセンターなどのクラウド需要が急速に拡大し、マイクロンの業績も急拡大を遂げた。
直近の18年度(17年9月~18年8月)通期業績でいえば、全社売上高は304億ドルとなり、5年前の13年度に比べて3.3倍の規模に成長している。
DRAM依存を解消
こうした成長過程で元サンディスクのSanjey Mehrotra氏はマイクロンのトップに就いた。求められていることは、やはりNAND分野のテコ入れ・事業拡大だ。マイクロンの収益構造はDRAMに依存する状態が続いている。
18年度売上高のうち、NANDが占める割合は約26%であるの対し、DRAMは約70%と売り上げ規模で約3倍の開きがある。市場シェアで見ても、マイクロンのNAND事業は上位2社(サムスン、東芝)と比べてポジションは決して良いとはいえない。見方を変えれば、NANDはまだまだ伸びしろがあるといってもよく、NAND分野で豊富な経験とノウハウを有するMehtotra氏に白羽の矢が立ったと見るべきだろう。
「側近中の側近」をオペレーションのトップに
そのMehrotra氏がCEOに就任以降、古巣のサンディスクから幹部を次々と引き抜いている。現在、ボードメンバー11人のうちMehtotra氏を含めて4人がサンディスク出身者という状況だ。モバイルビジネスユニットのシニア・バイス・プレジデント兼ジェネラル・マネージャーにも自身と同じインドをルーツとする人材を配置している。
特にサンディスク時代からMehrotra氏の「側近中の側近」と目されていたMahish Bhatia氏をオペレーション全般のトップに据えたことからも、サンディスク化が進んでいることがうかがえる。マイクロンには現在、COOの役職がないが、Bhatia氏はファブオペレーションや材料・装置メーカーなどのサプライチェーン管理などの全権を握っていることから、実質的にマイクロンのナンバー2と見られている。
ちなみに、Bhatia氏はマイクロンに移籍後、シンガポールの「Micron Semiconductor Asia Operations Pte. Ltd.」に席を置いている。マイクロンにとってシンガポールはNANDの主力工場が集積していることに加えて、購買関係の機能が集中している重要地域という側面も持っている。
この人事を見たときに、ある製造装置メーカーの幹部は「Mehrotra氏はサンディスクで果たせなかった『NANDで世界ナンバー1になる』という目標をマイクロンで叶えようとしていると本気で感じた」と語るほど、Mehtotra氏の熱意を感じるものであった。
後工程製造で顕著な変化
Mehrotra氏がトップになって以降、事業戦略上見て取れる変化は、製造面だ。特に組立・テストなどの後工程分野においては、アウトソーシング重視から内製重視に完全に舵を切った印象だ。
メモリーのパッケージ技術も今後複雑化の一途をたどると見られ、自社で技術を保有する価値が高まっていくと予想されている。また、リードタイムの面からもメリットは多く、マイクロンでは今夏、台湾・台中市に後工程の新拠点をオープンさせた。
Bhatia氏もインタビュー時に「アウトソースの割合が過半を超える状況だが、将来的にはインハウスを主体とした生産体制に移行させていく」と語っており、内製化戦略を推進する考えを明らかにしている。
東芝はサンディスクからWDにパートナー変更
マイクロンのサンディスク化が進む中、古巣のサンディスクは16年にHDD大手のウエスタンデジタル(WD)に買収され、新たなスタートを切っている。もともと、サンディスクと四日市工場でジョイントベンチャー(JV)形態で共同投資を行ってきた東芝(現・東芝メモリ)にとっては、パートナーがサンディスクからWDに変わったということになる。
これまでは二人三脚で歩を揃えてきた両者だが、相手がWDとなって以降、その関係は以前に比べて脆くなってしまったのではないか、と筆者はどうしても感じてしまう。東芝の経営危機に端を発するメモリー事業の分社化の過程においては、敵対関係を露呈した。こうした関係悪化と、サンディスクの幹部が次々と去ってしまったことは無関係でないように思う。
東芝メモリが建設を進めている北上新工場についても、WDの資本参加は現在のところ正式に決まっていない。本当に東芝とWDの関係に綻びはないのか、北上の投資スケジュールを予定どおり進めるためには、残された時間はそう多くはない。
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