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「話が通じない」相手に使える交渉学の3ステップ

LIMO / 2018年11月29日 17時20分

「話が通じない」相手に使える交渉学の3ステップ

「話が通じない」相手に使える交渉学の3ステップ

MIT流「おとしどころ」をつくる技術

 仕事でもプライベートでも、頭ごなしに否定してきたり、自分だけの理屈で言いくるめようとしてきたりする相手はいるものですよね。「仕方ない」とあきらめてしまうのもひとつの手ですが、できればうまい具合におとしどころを見つけたいものです。

 そんなときに役立つのが、人の話し合いを科学的に分析する「交渉学」の知識です。「学」とつくとちょっと難しい感じがするかもしれませんが、そもそも交渉とは、「複数の人間が未来のことがらについて話し合い、協力して行動する取り決めをすること」。つまり、私たちが毎日行っている他人とのコミュニケーションのほとんどが交渉にあたるわけです。

 この記事では、『おとしどころの見つけ方 世界一やさしい交渉学入門』の著者で、交渉学の本場である米国マサチューセッツ工科大学で学んだ、交渉学・合意形成論の専門家である松浦正浩先生が、「話が通じない人」相手に使える、交渉学の3つのステップを紹介します。

STEP1 「人物」と「問題」を切り離す

部下:お疲れさまです。来週の水曜なんですけど、こないだの休日出勤分の代休をいただきますね。
上司:え、毎週水曜は部門会議があるって知ってるでしょ? 無理だよ(これだから若いやつは……)
部下:え、代休は当然の権利ですよね? なんとかお願いしますよ(これだからおっさんは……)

 少し誇張した例かもしれませんが、上のように、交渉とは表面的には「人物同士の会話」です。そのため、ついつい相手の性格や話し方に目が行きがちです。だからこそ、交渉学では「人物」と「問題」を切り離すことは基本中の基本。人間である以上、目の前にいる交渉相手に対して、怒りや不満、敵意……いろんな感情がわき起こるのは仕方ありません。しかし、感情にとらわれてしまうと、解決できる問題も解決できなくなってしまいます。

 交渉の目的は、「自分も含め、関係する人たちが抱える問題を解決すること」です。決して「相手を言い負かすこと」ではありません。自分の気持ちがどうであれ、いま解決すべき問題は何なのかということに、常に注意しておかなければなりません。上記の例でいえば、「部下の代休と部門の会議が重なっていること」が問題にあたります。相手に対して抱く感情よりも、この問題の解決に集中すべきということです。

STEP2 相手の言い分の裏にあるホンネ(=利害)を見つける

上司:そもそも、なんで休みたいの?
部下:夜にどうしても行きたいライブがあるんです。最前列で観たいんで、早めに会場行かなきゃいけないんですよ。水曜の会議って、どうしても出なきゃいけないんですか?
上司:普段ならそこまで重要でもないけど、来週は社長が様子を見に来るっていうから、人数が揃ってないのはちょっとなあ……。

 交渉学では、表面的な要求を「立場」、そして背後にある理由を「利害」と呼んで区別しています。今回は部下の「休みたい」と、上司の「休まないでほしい」が立場、部下の「早めにライブ会場に着きたい」と、上司の「社長への印象を悪くしたくない」が利害だったわけです。

 表面的な要求(=「立場」)の背後にある理由(=「利害」)を探ることで、どちらかが妥協するしかなさそうな対立でも、別の側面が見えてきます。ここから、お互いの利害を満たすための交渉が始まります。

STEP3 利害の「ズレ」を探す

上司:水曜の会議は午前中だから、午後休にできないか? 午後から休んでも、ライブには間に合うだろ?
部下:できれば全日休みたかったんですけど……じゃあ、翌日の木曜に午前休いただいてもいいですか? ライブは結構夜遅くまでやってるんで、次の日、午後出社だと正直ありがたいんですよね。
上司:まぁ、しょうがないかな。それでよろしく!
部下:わかりました。ありがとうございます!

 この例では「水曜を午後休にして、部下が会議に出席する代わりに、翌日を午前休にする」という取引が成り立ちました。これは上司の「水曜は午前中だけ会社にいてほしい」、部下の「木曜の午前中はできれば休みたい」という新しい利害が見つかり、その「ズレ」を利用できたからです。

 このように、「○○の代わりに××」という取引が成立する交渉を「統合型交渉」といいます。一方で、ひとつの条件(たとえば、会議に出るか否か、など)について争う交渉を「配分型交渉」といいます。配分型交渉の典型的な例が、市場などでの価格交渉です。売り手は高め、買い手は低めの金額を提示して、お互い徐々に譲歩しておとしどころを探るのですが、これでは「○○の代わりに××」という取引ができないので、納得感も低いために合意できないという場合も多々あります。「コレをするから、アレをしてほしい」という取引こそ、おとしどころを見つけるカギなのです。

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まとめ 交渉学の3ステップ

STEP1 「人物」と「問題」を切り離す
→相手に対する感情よりも、問題の解決を優先する

STEP2 相手の言い分の裏にある本音(=利害)を見つける
→表面的な要求(=立場)に注目して水掛け論をするよりも、背後にあるホンネ(=利害)を探る

STEP3 利害の「ズレ」を探す
→お互いの利害にズレがあれば、「コレをするから、アレをしてほしい」という取引を持ちかける

 以上のことを意識して、ぜひ「話が通じない」相手との交渉に活用してみてください。

 

■ 松浦正浩(まつうら・まさひろ)
1974年生まれ。Ph.D(都市・地域計画)。東京大学工学部卒業。マサチューセッツ工科大学修士課程、三菱総合研究所研究員を経てマサチューセッツ工科大学都市計画学科Ph.D。東京大学公共政策大学院特任講師、特任准教授を歴任し、現在、明治大学専門職大学院ガバナンス研究科(公共政策大学院)教授。著書に『実践! 交渉学 いかに合意形成を図るか』(ちくま新書)、訳書に『コンセンサス・ビルディング入門 公共政策の交渉と合意形成の進め方』(有斐閣)など。

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