日本人を悲観的にさせているのは誰だ?
LIMO / 2019年1月13日 20時20分
日本人を悲観的にさせているのは誰だ?
世の中の情報には悲観的なバイアスがあるので要注意
我々が普段接している情報は、現実と比べて悲観的なものが多いので注意が必要だ、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は説きます。
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世の中、暗い話が多いですね。特に昨年末に株価が暴落してからは、悲観論者がいっそう元気になって大きな声を出していますから、景気悪化が避けられない、といった感想を持っている読者も多いでしょう。しかし、世の中に流れている情報には悲観バイアスがかかっていることには十分注意が必要です。
情報の発信者にバイアスあり
日本人は、謙遜します。「儲かりますか?」と聞かれたら「あきまへん」と答えるのが普通のようです。たしかに、個人が「儲かってます」と言えば妬まれるでしょうし、泥棒や強盗や税務署に狙われかねませんから、儲かっている人は静かにしているのでしょうね。時として例外的な人物も目にしますが(笑)。
企業の場合、儲かっていると言えば、労働組合が賃上げを要求するでしょうし、仕入先は値上げを、納入先は値下げを要求してくるでしょう。したがって、儲かっている場合には黙っていたほうが得策です。
一方で、経営が苦しい時には労働組合にボーナス見合わせをお願いし、仕入先には値下げを、納入先には値上げを、場合によっては政府に支援をお願いするために、大声で苦しさを訴えます。もちろん、本当に苦しい時には倒産の噂を恐れて黙っているでしょうが(笑)。
問題が深刻なのは、それだけではない、ということです。日本人は匿名でも悲観的に物事を捉える傾向にあるのです。一例として筆者が注目しているのは、日銀短観の販売価格DIと仕入価格DIです。
当然ながら両者は上下しますが、過去数十年にわたり、販売価格DIが仕入価格DIを上回ったことが一度もないのです。これが真実の日本経済の姿だとすれば、今頃日本企業のほとんどは倒産しているはずです(笑)。
以上のように、儲かっている人は黙り、苦しい人が声を出すとすると、聞こえてくる声だけを聞いていると日本経済が苦境に喘いでいるように感じられるかもしれません。気をつけたいものです。
評論家は悲観論を述べたがる
評論家は、悲観論を述べたがる人が多いので、注意が必要です。悲観論を述べると賢く見えます。「数多くの問題点と懸念材料とリスクがあります」と言えるからです。一方で楽観論は、「特に問題ありません。大丈夫です」としか言えないので、何も考えていない愚か者のように見えてしまうかもしれません。
「幸せな家庭は一様に幸せだが、不幸な家庭はそれぞれに不幸である」というのはトルストイの小説の言葉ですが、同様に「順調な経済は一様に順調だが、問題のある経済はそれぞれに問題がある」わけです。
したがって、楽観派の経済予測は「順風満帆の経済で問題ありません」で終わってしまいますが、悲観派の経済予測は「株価が暴落するかもしれないし、金融危機が起きるかもしれないし、不動産バブルが崩壊するかもしれないし・・・」と様々なシナリオが描けるため、聞き手を退屈させないメリットがあります。
ちなみに、筆者は前回、今年のリスクシナリオを記しました(『日本経済のリスクシナリオを考えてみた。怖いのは中国か米国か?(https://limo.media/articles/-/8986)』)。
普段は楽観論を述べている筆者ですが、リスクシナリオを考えるのは楽しかったですね。アイデアが次々と浮かび、話がいくらでも膨らんでいくのです。悲観論者の気持ちが理解でき、危うく悲観論者に転向したくなるほどでした(笑)。
楽観派が表舞台を去ったという特殊要因も
悲観派は、見通しが外れても怒られない、というメリットもあるようです。悲観派の見通しが外れた時は皆が幸せですから、誰かを批判する気にならない、ということなのでしょう。
日本では、悲観論を聞きたいという人が多いので、悲観派は講演回数も多く、マスコミにも出て、本も売れます。収入も名声も手にしやすいわけです。
以上のように、評論家は悲観論を語るインセンティブを持つわけですから、おのずと悲観派の評論家が多くなります。筆者は数少ない楽観派の一人なのですが、「好き好んで楽観派をやっていなくても」という悪魔の囁きが時々聞こえますから(笑)。
日本では、バブル崩壊後の長期低迷期に楽観派が淘汰されて悲観派しか表舞台に立っていない、といった事情もあるでしょう。景気楽観派の評論家や予想屋は、予想が外れ続けたために表舞台から去ったでしょうし、企業の経営者も景気強気派はプロジェクトが失敗を続けて失脚した人が多いでしょうから。
こうして、経済を語る人々に占める悲観派の割合が高くなっているわけで、そうした人々の発信する情報を聞くと、世の中がとても悪い状態のように感じてしまいますが、それは世の中の実際とはズレている(バイアスがかかっている)ということは、しっかり認識しておきたいものです。
聞き手が悲観論を好むから・・・
情報を発信する人、それを加工する人だけではなく、それを人々に伝えるマスコミも、悲観バイアスを持っています。理由は二つあります。「売れるから」と「政府を批判するため」です。
マスコミの多くは、公の存在であると同時に民間企業ですから、経営が立ちいかなくなっては困ります。そこで、やはり売れるものを出そうとします。そうした時に、人々が悲観論を楽観論より聞きたがっているとすれば、悲観論を優先的に採り上げるのは当然のことでしょう。
人々は悲観論が大好きです。「大不況が来る」と書く方が「景気は問題なし」と書くより確実に売れるでしょう。真剣に「最悪のシナリオを考えて、備えを万全にしたい」と考えている人もいるでしょうし、単に面白おかしくホラー小説を読むような感覚で読む人もいるでしょうが。
今ひとつ、「マスコミの使命として政府を監視する」というものがありますが、これを「政府を批判することが自分たちの使命である」といったニュアンスで捉えているところもあるようです。そうしたところは、経済がうまく行っている部分は控えめに報道し、経済がうまく行っていないところは大きく報道するといった傾向が出かねません。
一例として、政府(正確にはGPIF)は年金の運用をしていますが、運用で利益が出た時は控えめに報道し、損失が出た時は大きく報道される傾向があるように感じます。そこで、一般の読者の中には「政府は年金の運用で失敗しているので、我々の老後の年金がいっそう減ってしまう」と考えている人もいるようです。
しかし、実際の統計を見ると、年金の運用は長期で見れば十分に儲かっています。まあ、株価が上昇しているのですから、当然なのですが。
余談です。マスコミは、珍しいことを報道します。「犬が人を噛んでもニュースにならないが、人が犬を噛めばニュースになる」というわけです。その観点からは、「政府は運用が上手だから、儲かって当然だ。稀に損をするから珍しがってマスコミが報道しているのだ」といった解釈も無理をすれば成り立ちますね。相当無理だと思いますが(笑)。
バイアスを割り戻して考えることが必要
以上、世の中に流れている情報に悲観論のバイアスがかかっていることがご理解いただけたと思います。そうであれば、実際の世の中がどうなっているのかを知るためには、バイアス分を調整してやらなくてはいけません。
自分がサングラスを通して世の中を見ていることがわかれば、「実際の世の中は見えているより明るいはずだ」、と考えるべきなのです。
そこで筆者は、受け取った情報を総合して感じ取った世の中の姿を、若干明るい方向に修正してから取り込むようにしています。したがって、おそらく世の中の人々が取り込んでいる情報より楽観的な情報が脳に取り込まれているのだと思います。
それに基づいて情報を発信しているので、普通の人からは筆者は楽観派に見える、という面もあるようです。もちろん、そうでなくても筆者が楽観派であることは全く否定しませんが。
本稿は以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
<<筆者のこれまでの記事はこちらから(http://www.toushin-1.jp/search/author/%E5%A1%9A%E5%B4%8E%20%E5%85%AC%E7%BE%A9)>>
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