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なぜビジネスでは「選択肢を持つこと」が最重要なのか?

LIMO / 2018年12月7日 20時20分

なぜビジネスでは「選択肢を持つこと」が最重要なのか?

なぜビジネスでは「選択肢を持つこと」が最重要なのか?

MIT流「おとしどころ」をつくる技術

 価格交渉や契約条件、仕様の調整など、仕事では「どうにかしておとしどころを探す」場面が多くあります。しかし、自社と先方との板挟みにあったり、そもそもムリのある受発注であったりと、多くの人が、おとしどころが見つからずに苦しんでいるのではないでしょうか。

 そんなときに役立つのが、人の話し合いを科学的に分析する「交渉学」の知識です。そもそも交渉の定義とは、「複数の人間が未来のことがらについて話し合い、協力して行動する取り決めをすること」。つまり、私たちが毎日行っているコミュニケーションのほとんどが交渉にあたります。

 交渉学では、「交渉が決裂したときの、自分にとってベストな代替案」を、“Best Alternative to a Negotiated Agreement”、略して「BATNA(バトナ)」といいます。この考え方は、商談や打ち合わせなど、さまざまな場面で活用することができます。この記事では、『おとしどころの⾒つけ⽅ 世界⼀やさしい交渉学⼊⾨』の著者で、交渉学の本場である⽶国マサチューセッツ⼯科⼤学で学んだ、交渉学・合意形成論の専⾨家である松浦正浩先⽣が、BATNAの考え方と、その活用法を紹介します。

まず「失敗したときのこと」を考える

 たとえば、あなたが上司から「なじみのA社にシステム更新を100万円で発注する」という業務を頼まれたとします。しかし、A社からの見積もり額は150万円でした。ここからA社との価格交渉が始まるのですが、その前にやっておくべきことがあります。それが代替案=BATNAを見つけることです。

 この場合は、まずその会社「以外」に発注することを考えましょう。上司からの指示とはいえ、交渉をするなら、ほかにどんな選択肢があるのか、事前に考えておかなければいけません。これがBATNAです。たとえば、もっといい条件でシステムをメンテナンスできる会社を探したり、システム自体を新しいものに換えたりするなど、代替案はいくつか見つかるはずです。たとえば、A社以外の発注先を探した結果、B社が125万円であなたの仕事を受けてくれる可能性が明らかになったとすれば、A社との交渉におけるBATNAは「B社へ125万円で発注すること」です。

「これから話し合おうというときに、決裂について考える」というのも変な話ですが、実は、この逆転の発想こそが、おとしどころを見つける秘訣です。BATNAのいちばん重要な使い道は、「交渉の中で相手から出てきた提案を受け入れるか、受け入れないか」を判断する基準にすることです。その提案を自分のBATNAと比較して、よければ「YES」、悪ければ「NO」と判断します。要するに、

・まずはBATNAを特定すること
・そして相手から出てきた条件とBATNAを比較するクセをつけること

が最優先だということです。

相手のBATNAも考えてみよう

 しかし、自分のBATNAを考えるだけでは不十分です。なぜなら、自分と同様に、交渉相手もBATNAを持っているからです。別の言い方をすれば、相手がどのようなBATNAを持っているか知ることができれば、より交渉が進めやすくなるということです。

 A社があなたからの発注を受けないときにどうするか考えてみましょう。おそらく、その分の空いた時間と人手を他の仕事にあてるはずです。これがA社のBATNAです。もし、A社が140万円で他社から仕事を受注できそうであれば、あなたのBATNAより条件がよいので、あなたが値下げを要求することは厳しいでしょう。

 しかし、A社が他社から受注できる仕事の上限額が75万円であれば、交渉の余地があります。つまりこの場合、75万円(A社のBATNA)と125万円(あなたのBATNA)の間に、おとしどころが存在します〈別画像〉。このゾーンを交渉学では“Zone of Possible Agreement”、略してZOPA(ゾーパ=合意可能領域)と呼びます。相手のBATNAを考え、ZOPAを予測することで、交渉のおとしどころは格段に見つけやすくなるのです。

(/mwimgs/a/0/-/img_a0a754b4ab17b6ab1531a0c91a481e25100551.jpg)

拡大する(/mwimgs/a/0/-/img_a0a754b4ab17b6ab1531a0c91a481e25100551.jpg)

この場合、75万円と125万円の間に「おとしどころ」がある

BATNAがなければ、相手のいいなりになるしかない

 交渉学のレクチャーをしていると、「実際の仕事だと、BATNAなんてないですよ」と言われることがよくあります。代替案を考えようにも、特定の取引先しかおらず、その取引先とのやりとりをなんとか成立させなければいけないということだそうです。

 しかし、「BATNAが存在しない」という状況は理論上ありえません。むしろ、「BATNAの条件があまりに劣悪すぎて、考える気さえ起きない、考えたくもない」というほうが実態に近いのではないでしょうか。たとえば、特定の取引先しかいないなら、新規の取引先を開拓するというBATNAがあるはずです。しかし、取引先との関係性や、新規開拓に手間暇がかかるため考慮されないのでしょう。このように、程度の差はあれど、何事にもBATNAはあるものなのです。

 個人の働き方に関していえば、いつ会社に辞表を出しても大丈夫なように、別の生き方、別の職場を探しておくこともBATNAのひとつです。会社によっては「自分の会社に身を捧げる」社員像を強要しようとするところもあるでしょうが、それは、「転職」という社員のBATNAを奪うことで、社員から搾取しようとする交渉の戦略でもあるのです。そういう会社ほど、いい転職先(=条件のいいBATNA)を見つけられる社員から、どんどん退職していきます。

 逆に、自分のBATNAを見つける努力をしないのであれば、悪い条件で働かせられ続けたり、ブラック企業の言いなりになったりしてしまうということです。

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BATNAについてのまとめ

1.BATNA(バトナ)とは「その交渉が決裂したときの最善の代替案」のこと。これを事前に準備しておけば、交渉中に出てきた相手の提案を受けるかどうかの基準になる。

2.自分にBATNAがあるように、相手にもBATNAがある。その2つのBATNAの間におとしどころがある。この「合意可能領域」をZOPA(ゾーパ)という。

3.BATNAがなければ、相手のいいなりになるしかない。これは何事においても同様。現実的な代替案を常に準備できるようになれば、相手に搾取されることはなくなる。

 これらの考え方を意識して、ぜひ毎日の「交渉」を進めてみてください。

 

■ 松浦正浩(まつうら・まさひろ)
1974年生まれ。Ph.D(都市・地域計画)。東京大学工学部卒業。マサチューセッツ工科大学修士課程、三菱総合研究所研究員を経てマサチューセッツ工科大学都市計画学科Ph.D。東京大学公共政策大学院特任講師、特任准教授を歴任し、現在、明治大学専門職大学院ガバナンス研究科(公共政策大学院)教授。著書に『実践! 交渉学 いかに合意形成を図るか』(ちくま新書)、訳書に『コンセンサス・ビルディング入門 公共政策の交渉と合意形成の進め方』(有斐閣)など。

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