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業者にだまされないための3つの交渉ルール

LIMO / 2018年12月8日 20時20分

業者にだまされないための3つの交渉ルール

業者にだまされないための3つの交渉ルール

MIT流「おとしどころ」をつくる技術

 引っ越し業者、携帯ショップ、カーディーラーや旅行代理店、こういったサービスの担当者と接する機会は多くあります。そこで気をつけたいのが「業者に騙される」ことです。もちろんすべての人がそうではありませんが、「情報量の差」を利用して、悪意を持って客をだまそうとする業者がいるのも事実です。

 そんなときに役立つのが、人の話し合いを科学的に分析する「交渉学」の知識です。そもそも交渉の定義とは、「複数の人間が未来のことがらについて話し合い、協力して行動する取り決めをすること」です。つまり、私たちが毎日行っているコミュニケーションのほとんどが交渉にあたるのです。

 この記事では、『おとしどころの⾒つけ⽅ 世界⼀やさしい交渉学⼊⾨』の著者で、交渉学の本場である⽶国マサチューセッツ⼯科⼤学で学んだ、交渉学・合意形成論の専⾨家である松浦正浩先⽣が、業者を相手にするときに覚えておきたい「かけひきの3つのルール」を紹介します。

1.「1社決めうち」はNG!

ビジネスでもプライベートでも、「1社決めうち」は基本的にNGです。面倒だとは思いますが、とくに交渉の早い段階では、複数の会社から見積もりを取ったり、話を聞いたりして、選択肢を増やす必要があります。

 そして、実際に業者と交渉を行う際には、集めた選択肢の中からベストなものをひとつ準備しておきましょう。交渉学ではこれをBATNA(バトナ)といいます(“Best Alternative to a Negotiated Agreement”の略)。これは「交渉が決裂したときの、自分にとってベストな代替案」を意味します。

 なぜBATNAが必要なのかは、実際のシチュエーションを想像するとわかりやすくなります。たとえば、引っ越しの際に1社だけに見積もりを頼んだとします。ひとつしか選択肢がない状況では、他に判断材料がないため、比較検討することも、相手に対して譲歩を求めるプレッシャーを与えることもできません。BATNAがあってはじめて、それらが可能になるのです。

2.プレッシャーは「あいまい」にかける

 交渉相手が「この人は自分の提案を断って、ほかのところに頼むかもしれないぞ」と思ってはじめて、譲歩する動機が生まれます。そのためには「自分には代替案=BATANAがある」ことを「あいまい」に伝える必要があります。たとえば、引っ越し業者の出してきた見積もりに対して、「正確な金額は手元にないんですが、ほかの業者さんだともう少し安かったんですよね」といった具合に、正確な金額は伏せて、「あいまい」に伝えるようにしましょう。

 また、相手にプレッシャーをかける際には、自分のBATNAを相手に知られてはいけません。BATNAを知られてしまえば、実は交渉は「負け」が確定したも同然なのです。なぜかといえば、相手はBATNAよりもほんの少しだけいい条件で同意を迫ってくるからです。

 たとえば、あなたが「ほかの業者で、8万5000円でやってくれるところがあるんですが」と言ってしまったら、相手は「いや、困りましたねー、じゃあなんとかして、ウチは8万3900円でやらせてもらいます!」などと言ってくるはずです。実は相手側は8万円以下まで値切る余裕があったとしても、あなたのBATNAが8万5000円とわかれば、その少し下まで譲歩してあげると、あなたは自動的に「YES」と言ってしまうでしょう。

 このように、自分の代替案=BATNAを相手に伝えることは交渉のタブーです。絶対にやめておきましょう。

3.「リスクの列挙」は相手の戦略のひとつ、冷静な対応を

 交渉相手にプレッシャーを与える手段のひとつに、「相手にとってのリスクを列挙する」という戦略があります。この場合のリスクとはつまり、交渉が決裂した場合、相手に起きる可能性のあるリスクのことです。

 引越しの例でいえば、業者からは次のようなリスクを指摘される可能性があります。

いまウチに決めないと……
・(適切なサイズの)トラックを確保できない
・値段がかなり高くなる
・希望日に引越しできなくなる

 実際にもたもたしていたら、このような問題が起きてもおかしくありません。しかし、即決しなかったからといって、必ずしも問題が起こるというわけでもありません。

 つまり、これは意図的な戦略なのです。引越し業者に限らず、アパートの賃貸やクルマの購入など、いろいろな場面でリスクを列挙してくる業者に出会うことがあるでしょう。そのときは、まず相手が意図的にこうした戦略を用いていることを認識しましょう。プレッシャーに負けることなく、リスクを冷静に評価して、契約するかどうかを判断するといいでしょう。

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まとめ

1.何事においても「1社決めうち」はNG。基本的には必ずBATNAを持っておくようにしよう。

2.相手のBATNAがわからないからこそ、譲歩する動機が生まれる。交渉相手に自分のBATNAを知られたら、その時点で交渉は「負け」。絶対に知られてはならない。

3.相手にとってのリスクを列挙するのは交渉の戦略のひとつ。あらかじめ自分のリスクを把握して交渉に臨めば、必要以上にプレッシャーを感じることなく、冷静に判断できる。

 以上のポイントを頭に入れて、ぜひ業者との交渉に役立ててください。

 

■ 松浦正浩(まつうら・まさひろ)
1974年生まれ。Ph.D(都市・地域計画)。東京大学工学部卒業。マサチューセッツ工科大学修士課程、三菱総合研究所研究員を経てマサチューセッツ工科大学都市計画学科Ph.D。東京大学公共政策大学院特任講師、特任准教授を歴任し、現在、明治大学専門職大学院ガバナンス研究科(公共政策大学院)教授。著書に『実践! 交渉学 いかに合意形成を図るか』(ちくま新書)、訳書に『コンセンサス・ビルディング入門 公共政策の交渉と合意形成の進め方』(有斐閣)など。

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