「1億円説」もある老後資金と貯蓄、本当はいくら必要か
LIMO / 2018年12月16日 16時0分
「1億円説」もある老後資金と貯蓄、本当はいくら必要か
厚生労働省資料等の数値を前提に考える
老後資金にいくら準備しておけばよいかというのは誰もが悩むポイントではないでしょうか。今回は、個人によって状況は異なる前提ではありますが、厚生労働省の資料などをもとに老後資金をどのように考えればよいか、いくらの貯蓄が必要か等について見ていきましょう。
必要な老後資金の考え方
老後に必要な資金の計算は極めてシンプルです。
ステップは以下の3つです。
ステップ1:老後に得られる収入合計
ステップ2:老後の支出合計
ステップ3:収入合計から支出合計を差し引いた不足分=老後に向けて貯蓄する必要のある金額
ここまでみると、「ちょっと待った。そんなに簡単にはいかない」という方も多いのではないでしょうか。
「自分がいつまで生きるのか(もしくは、健康であるのか)、分からない」
「現時点で自分の老後生活を想像できないし、支出額などをイメージできない」
老後資金を考える際、こうした不確定要因が多くあるのは確かでしょう。
そして「細かく考えるのをやめた」という方も多いのではないでしょうか。
また、メディアでも老後資金で取り上げられることは多いですが、忘れられがちなのは老後も資産運用は続くという点です。
定年退職後にすべての資産を預貯金として金融機関に預け、その資産を切り崩しながら生活するというケースもあるでしょう。
ただ、今や「人生100年時代」ともいわれ、いくつまで生きるかわからない状況で老後に入ってはいても資産を増やしたいという思いはあるでしょう。そうした意味で、これまでの老後に向けた貯蓄は考え方を変えなければならない局面に来ているかもしれません。
老後に入ってくる収入合計はいくらか
さて、ここからは冒頭に3つのステップをご紹介しましたが、一つずつ考えてみましょう。
ステップ1の「老後に得られる収入合計」について考えてみます。
まず、老後の収入としてはまずは一般的な収入源は「年金」ではないでしょうか。
年金は生年月日をはじめ、退職するまでの給与水準を含めた就業状況などが関係し、人それぞれといってしまえばそれまでです。
ただ、それではイメージもつかみにくいので、厚生労働省の資料をもとに年金支給額を見ていきましょう。
さて、2018年12月の厚生労働省の「平成29年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」(https://www.mhlw.go.jp/content/000453010.pdf)を見てみましょう。
平成29年度末の厚生年金保険(第1号)の平均年金月額は14万7051円となっています。また、国民年金の平均年金月額は5万5615円となっています。
たとえば、夫が定年退職まで企業に勤め、その間に専業主婦であった世帯の場合、先ほど見た年金額を単純に合計すると20万2666円となります。
もっとも就業状況は人それぞれで異なったり、夫婦で年齢が異なったりもしますので、平均値を合計しても必ずしも各世帯の実態に沿っていないかもしれませんが、ざっくりとしたイメージをもって見るのは良いかもしれません。
ここでは仮に世帯当たり月にざっくり20万円の年金収入があった場合で考えてみましょう。
その場合、年間での世帯収入は以下のようになります。
20万円×12ヶ月=240万円
そして、この年間支給額がどの期間支給されるかというのも、これも人それぞれです。
仮に20年であれば、以下の通りです。
240万円×20年=4800万円
また、30年であれば、以下の通りです。
240万円×30年=7200万円
となります。
もっとも、夫婦ともども企業に勤めてきたケースでは夫婦で先の厚生年金保険を手にできますので、年金受給額はさらに増えることになります。
また、定年退職をしたからといって、収入がなくなる人ばかりではありません。65歳以上の方でも仕事に就かれている人もいます。
そうした方の中には、いきなり年金収入に頼らなくてもよいケースもあります。
こうしてみると、老後の年金収入や仕事で得られる賃金を合計すれば、決して少なくはない収入といえます。
「老後に1億円必要」という話はこのデータと計算が前提か
ここまでは老後の収入を見ていきました。
では、ステップ2で見た「老後の支出合計」はどのくらいなのでしょうか。
厚生労働省「平成28年老齢年金受給者実態調査」では、「夫の年齢階級別・世帯の支出額階級(月額)別 構成割合(夫婦世帯)」として、平均額を年齢層別に開示しています。
その中で60-64歳の年齢層では「27.5万円」が月額の世帯支出額として示されています。
また、65歳以上では「24.4万円」とされています。世帯支出額の傾向としては年齢を重ねるにしたがって、世帯支出額は大きくは減少傾向にあることも付け加えておきましょう。
ここでは仮に、65歳で定年退職をし、その生活水準、つまり世帯支出額が続いたらどうなるでしょうか。
年間の支出額は以下のように計算できます。
24.4万円×12ヶ月=292.8万円
年間で約300万円といったところでしょう。
ちなみに、ここでいう世帯の支出額は「平均支出額」となっていることに注意が必要です。
あらためて認識しておきたいのは、あくまでも「平均値」ということで、この水準よりも低い支出ですむという方もいるでしょうし、高くなるという世帯もあるでしょう。
生命保険文化センターの「平成28年度 生活保障に関する調査」によれば、「ゆとりある老後生活費」として月額「34.9万円」とされています。先ほどみた24.4万円と比べると、実に10万円近くのずれがあります。
ゆとりある老後生活費を前提に年間支出額を考えると以下の通りとなります。
34.9万円×12ヶ月=418.8万円
ゆとりある生活に必要な年間支出を約420万円とみれば、その後に必要な支出は、年数に応じて以下のようになります。
20年では、420万円×20年=8400万円
25年では、420万円×25年=1億500万円
30年では、420万円×30年=1億2600万円
となり、「1億円」というオーダーの金額が見えてきます。
ただ、年齢が上がっていく中で誰もがいつまでも「ゆとりのある老後生活費」を使うような状況でもないでしょうし、家で家族と過ごす時間が長くなれば支出は減るかもしれません。したがって、ここで見たような単純な掛け算で算出できるものではないということは付け加えておきます。
老後にいくらの資金が必要で貯蓄をしなければならないか
ここまで老後の支出額を見てきましたが、もっともこれだけで、老後に1億円が必要という話にはなりません。
これまで見てきたように、世帯ごとに水準は異なるものの、年金収入もありますし、定年退職後も仕事に就かれて収入があるという方もいるでしょう。
いわゆる老後に必要な資金や老後に備える貯蓄という意味では、老後に手にする収入総額から老後の支出総額を引いた結果の不足分が「老後に向けて備えておくべき貯蓄額」といえるでしょう。
自分で年金収入と生活費を考慮して計算してみた結果、「数千万円も不足する」と気づいた方はどうでしょうか。
そうした方でも金融機関に預貯金がある方もいるでしょうし、以前から終身保険に加入していて、定年後にその契約を解約し、解約返戻金を手にできるという方もいるでしょう。不動産をお持ちの方もいるかと思います。したがって、不足金額がすぐに老後に必要な貯蓄というわけでもないでしょう。
老後に向けた貯蓄はどうするか
ただ、それでも不足するという場合には、本当に貯蓄が必要ということになります。
貯蓄というと、「預貯金」をイメージされる方も多いかもしれません。
しかし、多くの方は既にお分りのように、預貯金は、貯まりはしますが、大きく殖えることはありません。
したがって、毎年貯蓄をしていく中で、老後に向けて準備をしていくためには、リスクを取りながら「資産運用」をしなくてはなりません。
年齢がまだ30代や40代であれば、毎月の手取り収入の中から「資産形成」分としてリスクを取りながら時間をかけながらじっくり運用をすることができます。
また、50代で定年退職が目の前に迫っているという方は、収入があるうちにどこまで増やすことができるのかというのがテーマの方もいる一方で、ある程度資産が積みあがったので、リスクをある程度落とすというように、コントロールをしながら老後に入ろうという方に分かれてくるかもしれません。
ただ、一つ言えるのは、老後に入っても平均寿命が長くなる中で(議論すべきは健康寿命かもしれませんが)、「資産を使いながら増やす」という難易度の高いことがややもすれば求められかねない状況になりつつあるということです。
自分が理解していない金融商品に手を出す必要はありませんが、これまで以上に資産に関するリテラシーは求められているということは言えます。グローバルの資本市場の雲行きが怪しくなりつつある中で、長期で運用するためにはどのような資産で運用するのかが改めて問われつつあるともいえるでしょう。
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